井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2025年04月06日(日) くまをまつ、たべっ子どうぶつ THE MOVIE、雪解けのあと、リライト

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『くまをまつ』
助監督として今泉力哉監督作品や、2022年11月紹介『餓鬼が
笑う』などにも関ってきた滝野弘仁による初単独監督作品。
監督の出生地でもある石川県小松市を舞台に、少しファンタ
スティックな要素もある物語が展開される。
主人公となるのは幼い少年と女性の脚本家。映画の巻頭では
少年が祖父の葬儀に参列している様子が描かれる。そして数
年後、少年は母親が海外出張に行った夏休みを祖父が遺した
家で脚本執筆中の女性と共に過ごすことになる。
その女性は父親の日記を基に映画の台本を書こうとしていた
のだが、そこに記された文言に謎が生じる。その謎はある疑
念へと発展していったが…。一方、少年は女性から聞かされ
た祖父の思い出によって不思議な世界に誘われる。
そんな物語が、小松市滝ヶ原町にある実際に監督の祖父の家
だったという古民家とその周囲の素晴らしい大自然、謎めい
た石切り場の跡地などを巡って展開される。

出演は、2019年染谷将太の脚本監督主演の短編作品に共演し
ている平野鈴と、5歳から広告、CM等に出演し今回が映画
初出演の渋谷いる太。他に中村映里子、大場みなみ、内田周
作、松浦りょう、竹内啓らが脇を固めている。
上では少しと書いたけれど、ファンタシーの要素は少年の絡
むシーンではかなり明確に描かれている。ただそれが現実な
のか妄想なのかはあいまいにされていて、そのムードの作り
方はかなり巧みに感じられた。
それは例えばアンドレイ・タルコフスキー監督の1979年作品
『ストーカー』で少女の超能力がさりげなく描かれている感
覚にも似ていて、ファンタシーをこんな風に描ける監督が日
本にもいたのか…、という感動にもなった。
実は自分の孫が今年から小学生なので少年の祖父は自分ぐら
いなのかなと思って親近感が湧いたが、実際には監督の祖父
の話なのでもう少し上の世代なのかな。戦中戦後の混乱期が
背景にある作品とも言えそうだ。
そんな時代背景が直接世相を描いているものではないけど、
ノスタルジーとはちょっと違うファンタスティックなムード
を醸し出していた。これも良い感覚を味わえたものだ。こん
な作品を作ってくれるならこれからも期待したいものだ。

公開は6月7日より、東京地区はポレポレ東中野他にて全国
順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社kine A houseの招待で試写を観
て投稿するものです。

『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』
1978年に発売開始され、現在は世界47カ国で販売されている
というお子様向けのお菓子をモティーフに製造元ギンビス社
との協同で映画化したCGIアニメーション作品。
物語のコンセプトは宇宙から(?)の光線でお菓子が生物に変
身した世界。そしてお菓子と人間が一緒に暮らすスイーツラ
ンドではたべっ子どうぶつのメムバーがアイドルグループを
結成して世界的な人気を博していた。
そんなグループが世界ツアーを成功させて帰還したとき、ス
イーツランドはとんでもない事態に見舞われていた。それは
街がわたあめで覆われ、帰還を祝う式典に招かれたメムバー
は仲間があめで固められているのを目撃する。
その元凶はキングゴットン。そいつはお菓子をわたあめだけ
にして世界を征服することを目論んでいたのだ。しかも正体
を見破られたキングゴットンはたべっこどうぶつのメムバー
にも刃を向ける。果たしてメムバーは世界を救えるか?

声の出演は、Travis Japanメンバーの松田元太。2023年の朝
ドラ『ブギウギ』などの水上恒司。2025年後期の朝ドラ『ば
けばけ』でヒロインを務める高石あかり。そして漫才コンビ
・オリエンタルラジオの藤森慎吾。
さらに蒼井翔太、小澤亜李、水瀬いのり、東山奈央、立石文
彦、間宮くるみ、大野りりあな、関智一、大塚明夫、大塚芳
忠、速水奨らの声優陣が脇を固めている。
脚本は2019年4月14日付題名紹介『劇場版パタリロ!』など
の池田テツヒロ。監督はアヌシー国際アニメーション映画祭
などで評価され、1991年制作の短編作品がMoMAのコレクショ
ンになっているという竹清仁。
また主題歌Would You Like One?を7人組のTravis Japanが
担当。さらにCGIアニメーションは、2020年2月23日付題
名紹介『ソニック・ザ・ムービー』などのマーザ・アニメー
ションプラネットが手掛けている。
物語の骨子は非力なアイドルグループのメムバーが如何にし
て巨悪と戦うか…、というところなのだけれど。そこにリー
ダー論やいじめ問題みたいなものが巧みに織り込まれて、か
なり見ごたえのある作品になっていた。
しかもそこに往年の名作映画やアンデルセン童話までもが加
えられて、これは完全に大人も楽しめる作品になっている。
最近の日本アニメーションでは「大人も楽しめる」は定番の
宣伝文句だが疑問に感じるものも多い中でこれは見事だ。
俳優名池田鉄洋でもある脚本家にはこれからも注目したい。

公開は5月1日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社クロックワークスの招待で試写
を観て投稿するものです。

『雪解けのあと』“雪水消融的季節”
2917年の早春に台湾人2人がヒマラヤ縦走中に遭難。47日後
に救助隊が発見するが1人はその3日前に亡くなっていたと
いう出来事を描いた山岳ドキュメンタリー。
遭難したのは高校を卒業したばかりの若者。実は仲間はもう
1人いて、そのもう1人の女性は出発の直前に体調を崩して
同行を断念していた。そして遭難が発生し、残った女性は救
助を要請。それが2人を発見したのだが…。
亡くなった人物は遭難してから死ぬまでに彼女に向けての想
いを綴った数百ページに及ぶノートを残しており、その遺稿
は出版されて7刷を超え、2020年の台湾文学賞で金賞を受賞
するなど高く評価されたという。
そしてその状況を踏まえて、残った彼女は自らの監督で本作
を制作するに至ったのだが、そこにもまた紆余曲折があった
ものだ。

監督は国立台湾大学で歴史学の学士号を取得したというルオ
・イシャン。大学生時代からフリーランスでライター、映画
評論家としても活動していたという女性の初長編ドキュメン
タリー作品となる。
因に本作は、最初は2018年に短編ヴァージョンが制作され、
その後はCOVID-19の影響などで中断していたものの2023年の
山形ドキュメンタリー道場に監督が参加、その際に河�鹹照�
監督らの指導を受けて長編版の完成に導かれたそうだ。
ただまあ最初に山岳ドキュメンタリーとは書いたものの、内
容的にはそれのみが描かれたものではなく、登場人物や監督
自身の問題なども含めて思っていたのとは違った展開が繰り
広げられる。
それがトランスジェンダーなど正しく現代を象徴するような
方向性に進んで行くもので、それは高く評価できるものにも
なっているし、実際にその方面での映画賞ノミネートなども
果たしているものだ。
実は僕はそういった背景を解らず観ていたので少し混乱した
が、その点の理解が深まれば見事な作品ということができる
だろう。

公開は6月14日より、東京地区は渋谷のユーロスペース他に
て全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社テレザの招待で試写を観て投稿
するものです。
またテレザでは、今後も山形ドキュメンタリー道場関連の作
品を配給上映してくれるようだ。

『リライト』
ハヤカワ文庫JAで刊行されている法条遥の原作を、2018年
5月13日付題名紹介『君が君で君だ』などの松居大悟監督、
2005年『サマータイムマシン・ブルース』などの上田誠脚本
で映画化したSF作品。
舞台は2009年の尾道。高校3年生の主人公のクラスに謎の転
校生がやってくる。その転校生はある小説が切っ掛けその時
代に憧れ、タイムリープでやってきた未来人だった。そして
その小説を書くのは君だと言い渡される。
しかもある事情から未来を覗くことになった主人公は転校生
から渡された薬を使って10年後に赴き、将来書く作品のタイ
トルだけ教えられるが…。それから10年後、その小説を上梓
して実家で待つ主人公の前に過去の自分は現れなかった。
果たして過去の自分に何が起きたのか、史上最悪とされるタ
イムパラドックスが開幕する。

出演は2019年12月紹介『一度死んでみた』などの池田エライ
ザ、舞台『Endless SHOCK』などの阿達慶、2024年10月紹介
『私にふさわしいホテル』などの橋本愛。
他に久保田紗友、倉悠貴、前田旺志郎、山谷花純。さらに長
田庄平、マキタスポーツ、町田マリー、津田寛治、尾美とし
のり、石田ひかりらが脇を固めている。
実は原作は読んでいないのだが、今回ハヤカワ文庫では映画
からのノヴェライズ版も刊行されるとのことで、映画は原作
からは多少離れて描かれているようだ。それにしてもとんで
もないタイムパラドックスでこれは見事だ。
上田誠の脚本は2005年作も見事だったが、タイムパラドック
スに関しては自家薬籠中の物にしている感じもする。そこに
SFファンなら思わずうなる擽りも鏤めているのだから、こ
れは本物と言えるのだろう。
何しろ舞台が尾道という辺りからSFファンなら先は見えて
いるように思えるのだが、そこからの展開がこちらの予想の
一歩も二歩も先を行っているもので、いやはや参りましたと
いう感じになっている。
ただしちょっとマニアック過ぎるのが、SFファンとしては
嬉しい反面、心配にはなってしまうかな。杞憂であって欲し
いとは思うのだが。ただ過去の人間が現代に現れてドタバタ
を繰り広げるようなものとは一線を画した作品だ。

公開は6月13日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社バンダイナムコフィルムワーク
スの招待で試写を観て投稿するものです。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二