井口健二のOn the Production
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2024年01月28日(日) ロッタちゃん、アイアンクロー、ブルックリンでオペラを、辰巳、追悼:南部虎弾氏

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』
             “Lotta på Bråkmakargatan”
『ロッタちゃん はじめてのおつかい』
         “Lotta 2 - Lotta flyttar hemifrån”
『長くつ下のピッピ』などでも知られるスウェーデンの作家
アストラッド・リンドグレーンが1950年代の後期に発表した
5歳の少女が主人公のシリーズを基に、1990年代に2部作で
映画化された作品が2Kリマスターにより再公開される。
その1作目では、5歳の誕生日を控えたロッタは兄と姉が乗
る自転車に憧れているが、彼女自身には三輪車が宛がわれた
ままだった。そんなロッタは隣の家の納屋にあった大人用の
自転車を引きずり出し…。
その2作目ではクリスマスの前々日にお父さんがツリーを買
い損ね、その年の一家はツリーを飾れないままクリスマスを
迎えることになってしまう。そんな中、ツリーを求めて家を
抜け出したロッタは…。
こんなロッタの生活ぶりが、1作目では春から秋、2作目で
はクリスマスから復活祭に掛けて描かれる。つまり2作を併
せて1年間が描かれるものだ。そしてその中にはいつも不満
だらけのロッタのちょっとした成長も描かれている。
因にロッタがしかめっ面で述べる不満は相手をする人間には
かなりウザいものだが、観客としては自分もそんな不満を持
ったことがあったかな? そんな共感も生じるところがこの
物語のうまさなのかもしれない。

出演はロッタ役に 500人の候補者から選ばれたという撮影時
5歳のグレテ・ハヴネショルド。2007年6月紹介『フロスト
バイト』では成長した姿を見せていた女優のデビュー作だ。
他に母親役のベアトリス・イェールオース、父親役のクラー
ス・マルムベリィ、隣人役のマルグレット・ヴェイヴェルス
はそれぞれ役者だが、姉兄役のリン・グロッペ・スタードと
ムルティン・アンデションは俳優業は続けなかったようだ。
脚本と監督は本作が長編デビューだったヨハンナ・ハルド。
1976年『刑事マルティン・ベック』のスチルカメラマンなど
も務めていたという監督は、後にリンドグレーン原作『カッ
レくんの冒険』(1996年)の脚本なども手掛けている。
なお映画化は原題からも判る通り上の作品が1992年、下の作
品は1993年の順で製作されたものだが、2000年の日本初公開
では1月に下の作品、6月に上の作品と逆順で行われ、今回
もその逆順での再公開となる。
僕も今回は下の作品を先に試写会で観て、その後に上の作品
をオンライン試写で観ることになったが、物語の流れとして
はどうなのかな。気にするほどの問題はなかったと思うが、
少しモヤっとはしてしまった。
内容的には独立したエピソードの積み重ねだから矛盾などは
生じないものだが。ロッタの歯の生え変わりは少し気になっ
たかな?

公開は下の作品が3月1日、上の作品が3月22日より、それ
ぞれ東京地区はYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテ、
ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国ロードショウと
なる。
なおこの紹介文は、配給会社エデンの招待で試写を観て投稿
するものです。

『アイアンクロー』“The Iron Claw”
2012年11月紹介『マーサ、あるいはマーシー・メイ』でカル
ト集団の恐怖を描いたショーン・ダーキン監督が、1980年代
に一世を風靡したプロレスラー一家=フォン・エリック・フ
ァミリーの栄光と悲劇を描いた実話に基づく作品。
父親のフリッツは必殺技の「アイアンクロー」を武器に悪役
レスラーとして名を成した人物。しかしテキサスを本拠にし
ていた彼の団体は全国的にはマイナーな存在だった。そこで
フリッツは我が子に世界チャンピオンの夢を託す。
そんな一家に次男として生まれたケビンは鍛錬を重ねて見事
テキサス州チャンピオンの座に就くが父親の満足は得られな
い。そして三男デビッド、四男ケリーも参戦し、父親は後続
の2人に期待を寄せ始める。
それでも懸命に兄弟を支援して行くケビンだったが、デビッ
ドが世界チャンピオンへの挑戦を間近にした時、悲劇が一家
を襲う。そしてその後を継いだケリー、さらに五男のマイク
にも連鎖のように悲劇が見舞って行く。
「呪われた一家」という悪名、それは元はと言えばフリッツ
が本名を捨て祖母方の姓フォン・エリックを名乗った時から
始まったとされるものだったが…。

出演は、2016年11月20日付題名紹介『ダーティ・グランパ』
などのザック・エフロンが驚異の肉体改造で主演の他、ドラ
マ『ER』で看護師アビー役のモーラ・ティアニー、2019年
8月紹介『イエスタデイ』などのリリー・ジェームズ。
さらにジェレミー・アレン・ホワイト、ハリス・ディキンス
ン、スタンリー・シモンズ、ホルト・マッキャラニーらが脇
を固めている。
僕自身のプロレスの記憶は1960年代の力道山で途切れている
ものだが、それでも「アイアンクロー」という技の名前は聞
き覚えがあったから、それほど有名だったのだろう。とは言
えその一家の悲劇などは知らなかった。
それはこれでもかと言うほどの悲劇の連続だが、そんな中で
も必死に生きて兄弟を支え続けたケビンの姿には、正しく家
族の絆というものを教えてくれた。今や家族という概念も希
薄になりつつある現代に、一石を投じるとも言える作品だ。
因に劇中の主人公らの行く先々でローンスター旗が振られて
いるのは納得できる風景だった。それにチャンピオンベルト
に日の丸が描かれているのも成る程と思わせた。そんな日本
にも所縁の深い作品だ。
それにしてもエンディングが心に沁みる作品だった。

公開は4月5日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社キノフィルムズの招待で試写を
観て投稿するものです。

『ブルックリンでオペラを』“She Came to Me”
アメリカを代表する劇作家アーサー・ミラーを父に持つ監督
レベッカ・ミラーが脚本を執筆、その脚本にほれ込んだアン
・ハサウェイが出演とプロデューサーも買って出たちょっと
捻りのあるラヴコメディ?
主人公は新作を期待されながらも5年間スランプ中のオペラ
作曲家。そのパートナーは患者の途絶えない人気の精神科医
だが極度の潔癖症。それでも彼女の連れ子の息子と3人の生
活は円満だった。
ところが彼女の勧めで犬を連れた当て途の無い散歩に出かけ
た主人公は、ふと立ち寄ったバーでタグボートの女船長と巡
り合う。そしてその船に招かれた主人公に怒涛のような展開
が襲い掛かる。それは新作オペラのヒントにもなるが…。

主演はドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』でエミー賞4度
受賞のピーター・ディンクレイジ。共演には2008年8月紹介
『その土曜日、7時58分』などのマリサ・トメイ。さらに
ブライアン・ダーシー・ジェームズ、ヨアンナ・クーリクら
が脇を固めている。
また劇中披露される2曲の現代オペラを、クラシック作曲家
であり、ロックバンドの創設メンバーでもあってその両方で
グラミー賞を受賞というブライス・デスナーが担当。さらに
主題歌はブルース・スプリングスティーンが手掛けている。
映画の前半では現代社会の病巣とも言えるいろいろな事象が
次々に開示され、かなり厳しい物語になるのかなとも思わせ
るが、途中からは正に怒涛の展開。特に結末にはニヤリとさ
せられた。
それにしても前半の展開には、昨年最後に紹介した作品ほど
ではないにしてもかなりアメリカの闇が見える感じで、これ
は日本にも通じるものだが、本作はそれらを一気に笑い飛ば
している感じなのかな。
ただし一部の登場人物に関してはおちょくったままなのは、
監督らの思想的背景がそうなのだろうし、それは小気味よい
感じでもあった。まあ観終わればハッピーという感じの作品
ではある。
なお主人公が作曲するオペラの1曲はエイリアンもののSF
となっており、これは全曲を聞きたくなった。

公開は4月5日より、東京地区は新宿ピカデリー、ヒューマ
ントラストシネマ有楽町、シネリーブル池袋他にて全国ロー
ドショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社松竹株式会社の招待で試写を観
て投稿するものです。

『辰巳』
2015年、第28回東京国際映画祭<日本映画スプラッシュ部門>
にて上映され、同部門の作品賞を受賞した『ケンとカズ』の
小路紘史監督が、同作以来8年ぶりに発表した第2作。本作
は昨年の第36回東京国際映画祭<アジアの未来部門>に正式出
品された。
主人公は違法な死体の処理で裏社会に名前が知られているら
しい男。そんな男が組織の内部抗争に巻き込まれ、若い女性
を連れた逃亡を余儀なくされる。その女性は主人公の元カノ
の妹で、姉を殺した組織への復讐を狙っていた。
そして元カノに数少ない信頼を寄せていた主人公もまたその
想いに駆られて行くが…。

出演は、2021年の話題作『ONODA 一万夜を越えて』にも主演
の遠藤雄弥と、2017年11月5日付第30回東京国際映画祭<コ
ンペティション以外>で紹介『アイスと雨音』で主演の森田
想。
その脇を2019年9月22日付題名紹介『ブルーアワーにぶっ飛
ばす』などに出演の後藤剛範、2023年10月紹介『笑いのカイ
ブツ』などに出演の佐藤五郎。さらに倉本朋幸、松本亮、渡
部龍平、亀田七海、足立智充、藤原季節らが固めている。
実は監督の前作は映画祭で観ていたがその際には諸般の事情
で紹介はしなかった。ただ印象的には暴力シーンが過多で自
分の嗜好には合わなかったかなという感じだ。その点は本作
も同じと言える。
これをフィルムノアールと評価するには、ちょっと美的感覚
が違うようにも思えるし、単に裏組織を描いているというだ
けでは物足りないだろう。それに裏組織の描き方も、こんな
ものでいいのかなあ?
ただその甘さみたいなものが、逆にフィルムノアール的と言
われれば、それはそうなのかなあとも思ってしまうところで
はあった。監督自身のインタヴューではファンタシーと捉え
ているということなので、それで良いとも言えそうだ。

公開は4月20日より、東京地区は渋谷のユーロスペース他に
て全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社インターフィルムの招待で試写
を観て投稿するものです。
        *         *
追悼:南部虎弾氏
南部虎弾氏の訃報に接した。
僕は特に故人と知り合いだった訳ではないが、実は一度だけ
故人と酒を酌み交わしたことがある。
それは1987年か88年の頃で、確か東宝の試写室で『となりの
トトロ』を鑑賞したときのことだ。偶然居合わせた知り合い
の広告代理店の社員が南部氏を連れてきていた。
その試写会は昼間だったもので、その後に時間があった我々
は一杯飲もうということになり、日比谷界隈の居酒屋に席を
取った。
そこで何を話したかは記憶が定かでないが、当時はまだダチ
ョウ倶楽部だった南部氏は途中で携帯電話を掛け、「今日は
行かねえから適当にやっててくれ」というようなことを話し
ていたのは記憶している。
それは当時のダチョウ倶楽部が夕方帯の生番組で「プロレス
天気予報」というコーナーに出演していて、そのコーナーは
プロレスの技を一本決めてから天気予報をするというもの。
いつもは2:2のタッグマッチだったものだが、その日はど
うなったのか。
今回南部氏の履歴を調べていたら、ダチョウ倶楽部からの離
脱は1987年頃とあったから、これは本当に末期の頃だったの
だろう。電話の相手は上島竜兵さんだったのかな。今頃天国
でそんな思い出話をしているのかな。
僕の記憶では、最初に試写室から出て来た時にボロボロに泣
いていた印象があり、その後も少しシャイな感じがあって、
後の電撃ネットワークの芸風からは想像もできないが、そん
な真面目で好印象の持てる人物だった。
今回は調べていて自分より2歳年下だったことも知ったが、
同年代でましてや年下が先に逝ってしまうのは、本当につら
いものだ。
ご冥福をお祈りします。


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井口健二