井口健二のOn the Production
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2023年10月01日(日) PERFECT DAYS、笑いのカイブツ、私がやりました、マリの話、東京遭難、彼方の閃光

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『PERFECT DAYS』“Perfect Days”
カンヌ国際映画祭で役所広司が主演男優賞を受賞したヴィム
・ヴェンダース監督作品。
役所が演じる主人公は、公園などに設置された公衆トイレの
清掃員。下町のアパートで毎朝定刻に起床し、部屋の前の駐
車場の自販機で缶コーヒーを買い、仕事道具を積んだ軽自動
車で首都高を通って山の手の仕事場に向かう。
仕事は2人一組のシフト制になっているようで、同僚の若者
の他愛ない話に応じながらも、彼自身は寡黙に仕事に勤しん
でいる。それは何年も同じことを繰り返しながら続けてきた
ことのようだ。
そして若者が連れて来た恋人と称する女性から、彼が運転中
に聞いている往年のカセットテープに実はプレミアムがつい
ていることを知ったり、隙間に挟まった紙のゲームに応答し
たらゲームが続いてしまったり…。
そんなイレギュラーはあっても普段の生活はいつも滞りなく
完璧な日々が続いているようだ。しかし長らく没交渉だった
親戚の姪が訪ねて来たことで少し物語が動き始める。

共演は田中泯、雑誌モデルで映画デビューの中野有紗、柄本
時生、東京オリンピック閉会式でパフォーマンスを披露した
アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、三浦友和らが脇を固
めている。
脚本はヴェンダースと、電通のクリエイティヴディレクター
で作家、絵本作家でもある高崎卓馬が共同で手掛けている。
なおヴェンダースと高崎はプロデュースも担当している。因
に高崎は映画脚本は2作目のようだ。
映画の展開としては主人公を中心としたエピソード集のよう
な作りで、最近この手の映画を批判してきたものだが。本作
では主人公のキャラクターが明確で、エピソードというより
肉付けのような感覚で全体の物語が展開される。
この辺の作り込みが流石ヴェンダースという感じで、これは
恐らく1987年の『ベルリン・天使の詩』と変わらない、監督
の映画に対する姿勢のようにも感じるものだ。首都高を走る
車の俯瞰など『トウキョウ・天使の詩』にも見えた。
下町から山の手まで、東京が見事に美しく撮られた作品でも
ある。これがヴェンダースの観た東京なのかな。コンプライ
アンス的には気になるところもあるが、映画としては素晴ら
しい作品だ。

公開は12月22日より、東京地区はTOHOシネマズシャンテ他に
て全国ロードショウとなる。

『笑いのカイブツ』
視聴者参加番組への投稿で「伝説のハガキ職人」と呼ばれた
ツチヤタカユキの自伝的小説を、2018年12月23日付題名紹介
『こどもしょくどう』などの足立紳、山口智之の共同脚本、
吉本興業系映像専門学校NFC出身の滝本憲吾の脚本及び劇
映画監督デビューで映画化した作品。
主人公はテレビの投稿番組で連続入選して「レジェンド」の
称号を獲得。さらに芸人出演のラジオ番組でも高い評価を得
て、遂にはその芸人に請われて東京に進出。構成作家として
の道を歩み始める。
しかし元々人間関係が苦手だった主人公は、良いネタは書く
ものの周囲との軋轢に耐えられなくなり、呼んでくれた芸人
の支援はあったものの…。やがてその状況に押しつぶされて
行ってしまう。
それでも、究極の笑いを求めて藻掻き続けることを止めない
男の生き様がスクリーンに焼き付けられる。

主演は2020年3月紹介『ワンダーウォール劇場版』などの岡
山天音。共演は仲野太賀、菅田将暉。さらに2022年11月紹介
『恋のいばら』などの松本穂香、2023年5月紹介『バカ塗り
の娘』などの片岡礼子。そして前原滉、板橋駿谷らが脇を固
めている。
原作者の名前には聞き覚えがあって何となく気になっていた
が、こんな人物なのだと改めて理解できた次第。映画の主人
公はある種の適応障害なのだろうけど、自分自身も含めて現
代には多くいそうな人物だ。
そんな主人公がそれでも必死に生きようとし、挫折を繰り返
しながらも自分の生きる道を見付け出して行く。それは現代
社会に生きる若者たちへのある種のエールのような作品にも
見えた。
とは言うものの周囲にいたらウザいの一言のような人物で、
彼と付き合うのは大変だろうなあとは思わせる。でもそれは
しっかりとやっておかないと後で映画にされちゃうかもしれ
ないよ! そんなことも考えてしまう作品だった。
因に、映画に登場する漫才コンビ・ベーコンズやその他の芸
人のネタは全てツチヤタカユキが本作のために書き下ろした
ものだそうで、それを観るだけでも彼の才能が判るというも
の。正にタイトル通りの物語と言えそうだ。

公開は2024年1月5日より、東京地区はテアトル新宿他にて
全国ロードショウとなる。

『私がやりました』“Mon crime”
2002年9月紹介『8人の女たち』などのフランソワ・オゾン
監督が、同作と2010年『しあわせの雨傘』に続き女性の生き
方を魅惑的に描いた3部作の最終章と称する作品。
時は1935年、所はパリ、その郊外に建つ邸宅から女性が急ぎ
足で出てくる。その女性は駆け出しの女優で、やはり駆け出
しの女性弁護士とパリのアパルトマンで共同生活をしていた
が、家賃の払えないほどの金欠状態だった。
そんな時、彼女が出てきた邸宅で映画プロデューサーが殺さ
れたとの報が入り、警察は彼女に「パリを離れないように」
という命令を告げる。この状況に証人になれば日当が貰える
とのルームメイトの言葉に乗った彼女だったが…。
判事の許に向かった彼女は自分が容疑者にされていることを
知り、殺人犯として裁判が始まった彼女に思わぬ展開が幸運
をもたらすことになる。ところがそこに「私が真犯人」と名
告る無声映画時代の大女優が現れる。

出演は2019年11月6日付「東京国際映画祭」で紹介『動物だ
けが知っている』(公開題名:悪なき殺人)にて最優秀女優賞
授賞のナディア・テレスキウィッツ。2011年3月紹介『黄色
い星の子供たち』などのレベッカ・マンデール。
そして2023年8月紹介『私はモーリーン・カーニー』などの
大ベテラン=イザベル・ユペール。さらにファブリス・ルキ
ーニ、ダニー・ブーン、アンドレ・デュソリエらが脇を固め
ている。
オゾン監督は2010年9月紹介『Ricky』のような作品も
発表しているが、本作は『8人の女たち』にも通じる舞台劇
のような作品で、それも日本で言えば浅草軽演劇のような人
間味と皮肉が入り混じったような展開になっている。
それは特段現代に通じるようなものでもないが、女性の生き
方という点では、正に女性目線で描かれた作品とは言えそう
だ。そしてそれに男たちがいい様に引き回されて行く様子も
小気味よく描かれている。
まあそれを男性の自分が観ても面白く観られるのだから、こ
れこそがフェミニズムの極致なのだろう。そんなオゾン映画
の魅力が最大限に引き出されている作品とも言えそうだ。若
手女優2人も魅力的だし、ユペールの怪演も見どころだ。
なお本作はコメディだが、あえて笑いを取りに行っているよ
うなシーンはオゾン監督の意向で編集段階でカットされてい
るそうだ。でも何となく爆笑ヴァージョンも観てみたい気持
ちにもなってきた。

公開は11月3日より、東京地区はTOHOシネマズシャンテ他に
て全国順次ロードショウとなる。

『マリの話』
2015年に公開された上映時間5時間17分の超大作『ハッピー
アワー』(濱口竜介監督)で助監督を務めたという高野徹監督
による長編デビュー作。
物語は4つの章に分けられ、「夢の中の人」と題された第1
章では脚本執筆中の映画監督が夢の中に出てくる女性に偶然
出会い、女性に映画への出演を要望して関係を深めて行く様
子が描かれる。
「女優を辞める日」と題された第2章では、アフレコのため
スタジオにやってきた女性が監督不在の中で台本を読む内に
監督との交流を思い出す。その結果として女優を辞めるのだ
ろうが、具体的な理由は示されない。
「猫のダンス」と題された第3章は女性と愛猫家の老女との
交流を描くもので、監督への想いに悩む女性が老女と共に失
踪したネコを探すうちに、老女との会話の中で監督への想い
を語り始める。
そして第4章は「マリの映画」と題され、フランスに渡って
映画の勉強を始めた女性が短編を作り上げ、監督への手紙と
共にその映画が紹介される。作品はフランス人の出演により
パリで撮影されたもののようだ。

出演は、フランスで俳優として活動し、リメイク版の『キャ
メラを止めるな!』にも出演の成田結美、ピエール瀧、劇団
・青年団所属の松田弘子、演劇集団円会員の戎哲史、それに
フランス俳優のパスカル・ヴォリマーチとデルフィーヌ・ラ
ニエル。
監督は短編映画では受賞歴もあるようで、本作も最初は第4
章に当る部分が短編として作られたもののようだ。しかし作
品の編集中に女性のキャラクターを明確にしたいと考え、初
の長編化に踏み切ったとのことだ。
とは言うものの長編というよりは短編集の感じは否めないか
な。確かに主人公が共通の連作ではあるのだけれど、各章の
エピソードの脈絡などが主人公の思いだけで、その思いが男
性の僕にはストレートには入ってこなかった。
まあ最近この種の映画を批判してきた中では、物語に一貫性
を持たせようとする気持ちは理解するが、1本の作品を通し
た物語をもっとしっかりと構築して欲しかったところだ。そ
れに個々の短編としての物語も少し物足りなかったかな。

公開は12月8日より、東京地区はシモキタエキマエシネマK2
他にて全国順次ロードショウとなる。

『東京遭難』
2018年8月19日付題名紹介『いつもの月夜に米の飯』などの
加藤綾佳による劇場長編第3作。
主人公は業務の接待のキャバクラで深酒し、何処とも知れぬ
終着駅で鞄や財布も失くして目覚めたサラリーマン。そんな
主人公はポケットに残っていた小銭で、キャバクラ嬢に渡さ
れた名刺の番号に電話を掛けるが…。
そのままベンチで寝込んだらしい主人公が目を覚ますと、そ
こはホテルの一室で傍にはキャバクラ嬢と思しき若い女性の
姿があった。そして女性は「助けた代わりに、連休の3日間
を付き合ってくれ」と半ば脅迫のように申し出る。
こうして主人公は若い女性の金で借りたレンタカーでロード
ムーヴィのような旅を始めることになるが。その女性の旅に
は、彼女の過去に纏わるある秘密があった。

出演は、京都府出身で2022年公開の映画『わかりません』で
初主演、続いて主演した短編『寓』がスペイン・シッチェス
映画祭でグランプリを受賞したという木原勝利。それと神奈
川県出身で2021年『ベイビーわるきゅーれ』で敵役を演じた
秋谷百音。
他に2022年11月紹介『餓鬼が笑う』などの永井秀樹、2019年
6月23日付題名紹介『イソップの思うツボ』などの大沢真一
郎、2018年4月29日付題名紹介『ガチ星』などの船崎良。さ
らに今里真、占部房子らが脇を固めている。
加藤監督の作品は、紹介は割愛したが2015年公開の『おんな
のこきらい』も観ていて、長編は全て観ていることになる。
それで前の2作は女性が主人公だったが、今回は男性。でも
ある意味理想的に描かれているのにはほっとしたかな。
しかもいろいろコンプライアンス的に問題になりそうなとこ
ろも、ちゃんと劇中の主人公として謝罪しているのには好感
が持てた。脚本は監督の単独のようだが、この辺はかなり周
到に作られた作品とも言えそうだ。
ここ何作か観た若い監督の作品は何というか独りよがりな感
じがして、いろいろと引っ掛かるところが多いと感じるが、
本作にはそのようなこともなく、正しく安心して観ていられ
る作品と言う感じがした。
しかも女性の抱える問題には、ある種の社会的な側面も存在
してその辺もしっかりと作り込まれた作品と言えそうだ。ま
た一人気になる監督が出てきた。

公開は11月18日より、東京地区は新宿K'cinema他にて全国順
次ロードショウとなる。

『彼方の閃光』
2022年の東京国際映画祭 Nippon Cinema Now部門で上映され
て話題を呼んだ作品が一般公開されることになり、マスコミ
試写が行われた。なお本作は試写時に情報公開が制限されて
いたため、改めて紹介するものだ。(本項は11月初旬に更新)
主人公は生後すぐに視力を失った少年。そんな少年の拠り所
は音で、彼は周囲の音響や自分の想いをカセットテープに記
録していた。そんな中で彼は「空」というものを知り、高い
ところにあって青い色の「空」に憧れを持つようになる。
そんな少年が青年期になり、視力を回復する手術の機会が訪
れる。そして手術によって視力は回復するのだが、彼に見え
たのは色のないモノクロの世界。「空」の青さは判らないま
まだった。
しかし視力を回復した青年は写真に興味を持つようになり、
2012年に没した東松照明の写真に導かれるように長崎へ。そ
して現地で知り合った男性からドキュメンタリー映画の制作
に誘われ、長崎、沖縄へと戦争の痕跡を辿ることになる。
そこで改めて知る人間の生き様とは…。そんな旅の結末は、
2070年、71歳になった老境の男性へと続いて行く。

原案、脚本、監督はホウ・シャオシェン監督やジャ・ジャン
クー監督作品などの音楽を担当し、自らの監督で2016年11月
5日付第29回東京国際映画祭<コンペティション以外>で紹
介『雨にゆれる女』なども発表している半野喜弘。
出演は2019年3月31日付題名紹介『小さな恋のうた』などの
眞栄田郷敦、2017年7月紹介『アウトレイジ最終章』などの
池内博之、沖縄県出身のラッパー/アーチストのAwich。さら
に尚玄、伊藤正之、加藤雅也らが脇を固めている。
モノクロームで表現される作品はディジタル撮影の時代にも
時折目にするものだが、主人公の心象に合せて表現された本
作の映像は、1971年ダルトン・トランボ監督の『ジョニーは
戦場へ行った』にも匹敵する衝撃を与えてくれた。
正しく作為ではない本物の映像感覚がここには存在している
もの。そんな映像で正に比類のない物語が展開される。それ
は自分の感覚にも近いものがあったもので、ある意味納得の
物語とも言えた。
しかもその主張が、2時間半を超える長尺の中で全くぶれず
に最後まで貫かれるのも素晴らしいと感じられたものだ。

公開は12月8日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国順次ロードショウとなる。


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井口健二