井口健二のOn the Production
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2023年09月24日(日) ロスト・フライト、リアリティ、他人と一緒に住むということ、隣人X疑惑の彼女

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『ロスト・フライト』“Plane”
8月紹介『カンダハル−突破せよ−』に続いて登場するジェ
ラルド・バトラー主演のサヴァイヴァル・アクション作品。
舞台となるのはシンガポール発東京経由ホノルル行きLCC
旅客機。機長はベテランで新年初飛行となる機はホノルルに
暮らす愛娘に会いに行くフライトでもあった。そして乗客は
14人、ただしそこには護送中の殺人犯も含まれていた。
そんな旅客機がフィリピン上空で激しい嵐に遭遇。迂回を提
案する機長に本社の指示は燃料節約のため上空を直進せよと
いうもの。その指示に従った機体は落雷を受けて通信機が故
障、計器にも変調をきたしてしまう。
こうしてフィリピン南部の離島に不時着を止むなくされた機
体だったが…。何とか無事不時着したその島は反政府勢力の
過激派が支配する超危険な場所だった。

共演は、2020年3月紹介『SKIN』などのマイク・コルター、
2019年2月紹介『移動都市』などのヨソン・アン、2018年の
『ジュラシック・ワールド/炎の王国』以降のシリーズに出
演のダニエラ・ピネダ、監督でもあり、2003年11月紹介『ラ
ストサムライ』などにも出演のトニー・ゴールドウィン。
監督は、フランス出身で2009年10月紹介『ジャック・メスリ
ーヌ』などのジャン=フランソワ・リシェ。脚本はスコット
ランドの人気作家でスパイ小説を多く出版しているチャール
ズ・カミング。本作は作家初の長編映画脚本だそうだ。
巻頭の空港のシーンで、娘に電話した機長の台詞に「おばさ
んの手作りハギスは美味しい」という下りがあり、乗り込ん
だ機長は副操縦士から「イギリス人ですか」と訊かれ「スコ
ットランド人だ」という答えにニヤリとした。
「ハギス」はスコットランドの民族料理で、確か1986年の映
画『ハイランダー』でショーン・コネリー扮する騎士がこれ
に言及していた記憶がある。コネリー、バトラー、それに脚
本のカミングもスコットランド人でその心意気のようだ。
因にこの「ハギス」はアメリカには持ち込み禁止だそうで、
「おばさんの手作り」という台詞にも納得した。なお日本も
持ち込み禁止で、以前にイギリス帰りの知人が持ち込もうと
して検疫で没収されたという話も聞いたことがある。
まあそんな蘊蓄も話したくなるような、気軽に楽しめる作品
だった。

公開は11月23日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国ロードショウとなる。

『リアリティ』“Reality”
2017年に起きた実際の事件を、その捜査の際にFBIが記録
した録音に基づいて詳細に再現した実録ドラマ。
登場するのは郊外の一戸建てに住む若い女性。彼女が買い物
から帰って来た時、男性2人が彼女の車に近付き、話を訊き
たいと申し出る。そして2人はFBIの捜査官だと名告り、
家に入る前に屋内をチェックしたいとも告げる。
こうして保護犬と保護ネコを飼っている女性は、2匹を屋外
のケージに入れたり、リードを付けるなどして捜査に協力す
ることになるが…。奥の空き部屋で尋問を受け始めた彼女は
徐々に捜査員の術に嵌って行く。

脚本と監督はニューヨーク演劇界で“超新星”とも評される
新進気鋭の劇作家ティナ・サッター。
出演は、ドラマ『HEROES/ヒーローズ』などのシドニー・ス
ウィーニー。2011年12月紹介『J・エドガー』などのジョッ
シュ・ハミルトン。さらに舞台出身のマーチャント・デイヴ
ィスらが脇を固めている。
本作で映画デビューを飾ったサッター監督はFBIの音声記
録(固有名詞などは消されていたようだ)をそのまま書き起こ
し、その言葉は一言一句変えずに脚本を書いたとしている。
それはFBIの巧みな誘導も如実に描かれたものだ。
事実として主人公のリアリティ・ウィナーは有罪となり刑に
服したものだが、監督は彼女の家族や本人にも取材して、そ
の了解及び支援の許にシナリオを執筆しており、それはリア
リティ自身の尊厳の尊重でもある。
それにしてもFBIの誘導の巧みさは見事で、それはFBI
の手口を晒すものにもなっているが、それも本作の目的なの
かな? 勿論FBIだってそれを判って録音を公表している
ものだが、いろいろ微妙な勘繰りもしてしまう。
ただ中国やロシアの当局などには絶好の教科書になってしま
うかな。その辺はちょっと心配にもなってしまった。それく
らいのリアルさに溢れた見事な作品になっている。日本も例
外ではないし、恐ろしい作品だ。
なお劇中では主人公の飼っている犬と猫が絶妙の演技を見せ
ており、刑期の間の2匹が心配になったが、その点もちゃん
と映画の中でフォローされているのは嬉しかった。

公開は11月18日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ
フォーラム、シネ・リーブル池袋他にて全国順次ロードショ
ウとなる。

『他人と一緒に住むということ』
元俳優で2013年に劇団を立ち上げ、2022年の公演で劇作家協
会新人戯曲賞で最終候補に残ったという八木橋努監督の長編
映画デビュー作。
登場するのは二組のカップル。一組目は見習い美容師と売れ
てない役者のカップルで、それぞれの家には居候がいて中々
一緒になれない2人は遂に居候を追い出し、同棲を開始する
ことになるが…。
そしてもう一組はソーラーパネル事業を展開している実業家
と年の離れた年下の女性。結婚はしているが別居生活で、家
に呼び寄せても女性はそれに応じない。そんな中で事業にも
トラブルが発生し…。
そんな二組のカップルとその周囲の人々の群像劇が展開され
て行く。

出演はイヴェントショウの演出家でもある森田コウ、音楽活
動と並行して女優も務める芦那すみれ、ミュージシャンで映
画初主演の山下剛史、沖縄県立芸術大学で油絵を学んだとい
う若松朋茂、松江市でカフェギャラリーを営んでいるという
裕紀yuki、 100本以上の舞台に出ているという橋本敏明。
監督は元々舞台の群像劇で評価されているようだが、本作は
何というかエピソードがバラバラな感じで、1本の映画とし
ての纏まりに欠ける感じがした。実際にこのような作品を最
近見る機会が多いのだが、これは風潮なのかな。
それにそれぞれのエピソードも何か在りものの羅列のような
感じもして、それは多分リアルさというか、社会的な問題意
識が生み出す現実感なのかもしれないが、何となく聞いたよ
うな話が話ばかりで、新規性に乏しい感じもした。
まあその現実感が狙いなのだろうし、それを提示するために
作られた作品なのだろうとは思うが、観ていて既視感が強い
のは、狙いとは裏腹に作品を詰らなくしている感じもした。
しかも問題が解決されないのも苛立ちだった。
狙いは悪くないと思うだけに、何か新鮮味のあるエピソード
が一つ二つで良いから提示されて欲しかった。何となく全体
が何度も観てきた話のように感じられるのは、ちょっと気を
削がれる感じになってしまったものだ。
演出とか映像は手馴れている感じなだけに、勿体なくも感じ
てしまった。脚本をもっと練れば良い作品になったと思える
ところが残念だった。

公開は12月2日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ
フォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。

『隣人X疑惑の彼女』
2019年の第14回小説現代長編新人賞を受賞したフランス在住
パリュスあや子の原作を、2017年9月17日題名紹介『ユリゴ
コロ』などの熊澤尚人の脚本・監督・編集、林遣都、上野樹
里の共演で映画化したSF風味のある作品。
物語の背景は、母星での戦いによる惑星難民と称する異星人
が現れ、海外では受け入れる国も出てきたものの、その異星
人が最初に触れたものに擬態する能力を持つことから、日本
では未だにその賛否が分かれているという状況。
そんな状況の中で週刊誌記者の主人公は、擬態した異星人と
疑われる人物のリストを入手、その実態を調べる取材を開始
する。しかしある女性に接近した記者は彼女に恋心を抱いて
しまう。そして彼が掴み取った真実とは…。

他の出演者は台湾で金鍾賞受賞の黃姵嘉。さらに野村周平、
川瀬陽太、嶋田久作、原日出子、バカリズム、洒向芳。また
主題歌を2022年11月紹介『恋のいばら』の主題歌も手掛けた
childspotが担当している。
物語の概要を読むと、SF好きとしてはジャック・フィニイ
が1954年に発表した小説『盗まれた街』を思い出さずにいら
れない。1956年ドン・シーゲル監督の映画化でも知られるこ
の作品では、正に人間に擬態する異星人が描かれていた。
ただしその作品が人類に取って代わろうとする敵対的な侵略
を描いていたのに対して、本作は必ずしもそのようなものを
描いているのではない。とは言うもののそれに恐怖心を抱く
人間を描いているのは共通するテーマではある。
そんなことを考えながら映画を観ていたが、実は映画ではそ
れらの点が必ずしも明確に描かれていないような気がした。
それが原作ではどうなのか、そこで原作本を入手して読むま
で紹介を保留したものだ。
それで原作を読むと、原作者がその点をテーマとしては捉え
ていないことに気づいた。実際この原作は、フランス在住の
原作者が社会における異邦人やマイノリティが抱く圧迫感を
描いたもので、立場が逆の作品なのだ。
つまりこの原作では、惑星難民という状況は単にSFテーマ
を借用しただけであって、本来描かれているのは現実的な社
会現象の問題だった。このことは原作者自身の言葉の中にも
明確に表されている。
まあはっきり言ってしまえば、自らの言いたいテーマのため
にSFのシチュエーションを利用したものであって、惑星難
民に関してもさらにそこにSF的な考察をすることもなく、
単純に文章で解説してしまっている。
でもそれは作品の意図としては間違いではないし、SF好き
としても却って潔くて良いとも感じられた。しかも深く突っ
込んではいないが、それなりにSF的な発展性も考慮されて
いるのは、好ましくも思えたものだ。
それに対して映画化では、ある意味、物語をSFに近づけよ
うとする意図が感じられた。それはテーマの一部を隠してミ
ステリーにしようという意図でもあったと思われるのだが、
それが少し物語を判り難くしてしまったかな。
実際、物語では惑星難民は擬態するので同じ人物が2人存在
することになり、その点は原作では最初に明確に示される。
ところが映画化ではその点が隠されてしまっている。それは
SF好きなら判るような示唆はあるのだが…。
この作り方が良かったのか否か。正直に言ってSFを理解し
ない人には、単に難解な作品となってしまうようで、その辺
がSF好きとしては心配になってしまう作品だった。理解で
きれば面白い作品ではあるのだが。

公開は12月1日より、全国ロードショウとなる。


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井口健二