井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2023年07月30日(日) 兎たちの暴走、BAD LANDS バッド・ランズ、ジャン=リュック・ゴダール反逆の映画作家、ダンサー イン Paris、こいびとのみつけかた

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『兎たちの暴走』“兔子暴力”
2020年の東京国際映画祭でプレミア上映された中国女性監督
シェン・ユーによる長編第1作となるドラマ作品。
物語の舞台は四川省攀枝花市。重工業が盛んなこの町の高校
に通う女子学生が主人公。実母は彼女が生まれてすぐに町を
出て行き、後妻の継母からは少し疎まれているが、学校には
仲間もいてそれなりの青春を過ごしている。
ところがそこに実母が帰ってくる。ダンサーでもある実母は
閉館した劇場に居を構え、何やら始めようとしているが…。
そんな母親に主人公は接近して行く。それに対して実母も、
最初は少し疎んじていたが徐々に心を開き始める。
こうして学校での仲間2人も加えた4人の女性たちで騒がし
くも楽しい時間が過ぎて行くが。実母を追ってきたらしい男
の出現が暗い影を落とし始める。

脚本と監督のシェン・ユーは1977年の上海生まれ。北京電影
学院を卒業し、過去にはNHK製作のドキュメンタリー番組
にも関ったという監督の2016年に応募した脚本が、支援プロ
グラムに入選。中国監督協会の助成で製作された。
出演は、2000年生まれで15歳でデビュー、多くのドラマ作品
に出演しているリー・ゲンシーと、1982年生まれ、2014年に
出演の作品で第51回金馬奨の助演女優賞を受賞しているワン
・チェン。
他に多くのドラマに出演のシー・アン、本作がデビュー作の
ヂォゥ・ズーユェとチャイ・イェ。さらにホァン・ジュエ、
パン・ビンロン、元アイドルグループのリーダーというユウ
・ガンインらが脇を固めている。
物語は2011年に起きた実際の事件に基づいているということ
で、従って骨子などは変えられないのだろうが、正直に言っ
て結末には別の手を加えて欲しかったかな。どうせなら劇中
話される都市伝説に沿ったファンタシーでも良かった。
でもまあこの残酷さがリアルなのだし、これを描き切ること
が映画の役割と言われればその通りなのだが…。ここまでの
過程で物語として描くべきものは充分に描かれていると思え
るし、映画としての役割は果たしていると思える。
本作は飽くまでもフィクションであってドキュメンタリーで
はない。国家犯罪でもなく、彼女らにも酌量の余地も多い。
F・W・ムルナウ監督の『最後の人』のように、無理矢理の
結末でも真意は伝わる。それも映画の描き方だと思う。

公開は8月25日より池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺
同26日より新宿K'cinemaにて、以降、全国順次ロードショウ
となる。

『BAD LANDS バッド・ランズ』
2014年上半期の直木三十五賞を受賞した黒川博行が2015年に
発表した小説『勁草』を、2011年12月紹介『わが母の記』な
どの原田眞人が脚色監督、2012年7月紹介『かぞくのくに』
などの安藤サクラを主演に招いて映画化した作品。
主人公は左耳に障碍を持ちながら社会の底辺で生きる女性。
過去には様々な法に触れる仕事もしてきており、現在は特殊
サギ集団で三塁コーチと呼ばれ、警察の動きなどを察知して
最後に実行の判断を下す重要な役割を担っている。
一方、そんな特殊サギ集団を追う警察はいくつかの現場の映
像から1人の女性の関与を判断する。その決め手は女性が左
耳に障碍を持つらしい行動だった。そしてもう1組、左耳に
障碍を持つ女性を探す組織がいた。
こんな三つ巴の状況の中で、主人公は少し異常な粗暴性を持
つ義理の弟と共に集団が集めた金の在りかを探す。しかしそ
の先には警察や彼女を追う組織などの障壁が立ちはだかる。
果たして彼女らの運命は…。
安藤の役柄には義賊的な趣もあり、そんな彼女がかなり小気
味よく障壁を潜り抜けて行く、そんなところも見ものな作品
だ。

共演は、2017年7月紹介『ナミヤ雑貨店の奇跡』などのHey!
Say!JUMP山田涼介、2023年4月紹介『水は海に向かって流れ
る』などの生瀬勝久、黒川博行の直木賞受賞作で2016年12月
11日題名紹介『破門』に出演の宇崎竜童。
他に2022年6月紹介『川っぺりムコリッタ』などの江口のり
こ、舞台出身で原田監督の前2作にも出演の吉原光夫、大阪
出身で劇団「突劇金魚」主宰のサリngROCK、2023年3月紹介
『忌怪島/きかいじま』などの大場泰正。
さらに淵上泰史、天童よしみ。他にも重要な出演者はいるが
情報解禁前となっているものだ。
実は原作では安藤と江口の役柄は男性。しかし脚本も執筆の
原田監督は原作を読みながら女性にすることを考えていたと
のこと。しかも原田監督作品で女性の主人公はほぼ初めてだ
そうだが、そんな逆転の発想が見事な作品を作っている。
そしてそれを演じ切った安藤サクラの演技も、見事に作り上
げられたものになっている。安藤と原田監督は初顔合わせの
はずだが、何か特別な化学反応が生じたようだ。とにかく小
気味よく面白く作られた作品になっていた。

公開は9月29日より、全国ロードショウとなる。

『ジャン=リュック・ゴダール反逆の映画作家』
              “Godard, seul le cinéma”
2022年9月13日に91歳で他界したフランスの映画監督の生涯
を 105分に纏め、2022年9月10日まで開催のヴェネチア国際
映画祭にて上映されたフランス10.7 Production 製作による
テレビドキュメンタリー。
僕ら団塊の世代の人間にとって、ゴダールの名前はちょっと
特別かな。多分僕が最初に観た作品は1965年製作の『気狂い
ピエロ』で、最後は2014年10月紹介『さらば、愛の言葉よ』
だと思うが、その間に実に様々な映画を観させてくれた。
そんな監督は生涯で 140本の作品を発表しているそうで、当
然本作ではその全てが網羅されているものではないが、長編
デビュー作の『勝手にしやがれ』に始まる多くの作品が、出
演者や評論家らの発言を含めて紹介される。
その中には当時のヌーヴェルヴァーグが、時流に載せた流行
作品だと看破する発言もあり、当時は「新しい波」として信
奉していた身としては心が騒ぐところでもあった。それはま
あ後の本人の発言を見れば明らかでもあったが。
その他にも1968年のカルチェラタン闘争での街頭デモにアン
ナ・カリーナと共に参加している様子や、同年のカンヌ国際
映画祭を開催不能にした演説なども、当時のニュース映像を
使って紹介されている。この辺は懐かしくもあった。
本作は、そんなこんなを実に手際よく纏めたものであって、
逝去によって回顧上映なども展開されている状況の中では、
ゴダールに新たに触れる人たちにとって格好の入門編と言え
る作品になっている。
ただそれなりに同時代を生きてきた人間としては、かなり寂
しさも湧いてくるかな。特に逝去が自ら選んだ安楽死と知っ
た後では、本当の理由は別にあるとしても、悲しく冥福を祈
りたくなる作品だった。

脚本・監督・編集は、シャンソン歌手のバルバラやジャン=
ピエール・メルヴィル監督、歌手・俳優のモーリス・シュヴ
ァリエのドキュメンタリーなども手掛けるシリル・ルティ。
本作はゴダール監督の全承認を得た作品だ。
公開は9月22日より、東京地区は新宿シネマカリテ、シネス
イッチ銀座、渋谷のユーロスペース、アップリンク吉祥寺他
にて全国順次ロードショウとなる。

『ダンサー イン Paris』“En corps”
2006年4月紹介『ロシアン・ドールズ』などのセドリック・
クラピッシュ監督が、パリ・オペラ座とブルターニュのシャ
トーを舞台に若きダンサーの成長を描いたドラマ作品。
主人公はオペラ座でエトワールを目指す若い女性。ところが
主演の舞台で出番の合間に目撃したのは、恋人が別の女性と
キスを交わしている姿だった。それに動揺した彼女は次のダ
ンスでミスをし負傷してしまう。
そんな彼女に下された診断は、無理をしたら踊れなくなると
いう過酷なもの。そこで彼女は同様の過去を持つ昔の仲間に
相談するが、その女性はダンスは諦めて別の道を目指すと語
り、さらに料理人の恋人と行く料理の旅に彼女を誘う。
こうして訪れたブルターニュの古いシャトーには、新たな出
会いが彼女を待ち受けていた。

出演は幼少期からパリ・オペラ座のダンス教室で学び正式団
員になったマリオン・バルボー。監督は「ダンスをする俳優
ではなく、演技をするダンサーを選ぶ」という観点で、プル
ミエール・ダンスーズ所属のバルボーを抜擢、彼女は本作で
セザール賞の有望若手女優賞にもノミネートされた。
他に著名な振付師であるホッフェシュ・シェクターが本人役
で出演、彼は本作の振付けだけでなく音楽も担当している。
さらに2006年6月紹介『隠された記憶』などのドゥニ・ポダ
リエス、監督の前2作にも出演のフランソワ・シヴィルらが
脇を固めている。
クラシックバレエのダンサーが傷害を経てコンテンポラリー
ダンスに目覚めるという展開は過去作品にもあるような気が
するが、本作ではそこにブルターニュの風景や様々な料理な
ども取り入れて、シンプルかつ魅力的に若い女性の再生を描
いている。
それはその物語自体が深く感動を呼べるようなものではない
が、特に若い観客には共感を呼び起こすかな。クラピッシュ
監督の狙いもその辺にあるのだろうし、シンプルな描き方だ
からこそそれが生きているようにも感じた。まあ万人に愛さ
れるような作品ということだ。
そしてそんな物語が、パリ・オペラ座の現役のダンサーたち
や、振付師シェクターのカンパニーの団員達の見事なダンス
に彩られ、その中では振付師の振り付けの妙味なども紹介さ
れる。これはダンスファンには垂涎の作品と言えそうだ。

公開は9月15日より、東京地区はヒューマントラストシネマ
有楽町、澁谷Bunkamura ル・シネマ、シネ・リーブル池袋他
にて全国ロードショウとなる。

『こいびとのみつけかた』
2011年1月紹介『婚前特急』で共にデビューした前田弘二監
督と脚本家の高田亮が、2021年に再タッグを組んでで発表し
たちょっと不思議なラヴストーリー『まともじゃないのは君
も一緒』に続く、第2弾と称される作品。
主人公は植木職人の見習いのような仕事をしている若者。そ
んな若者がコンビニで働く女性を好きになる。しかし内気な
のか何なのか、中々彼女に話し掛けることができない。それ
でもある手段で彼女と付き合うことになるが…。
こうして付き合い始めた2人だが、若者が話す話題はポケッ
トに詰め込まれた新聞や雑誌の記事の情報ばかり、しかもそ
れに意見を加えるでもなく、記事を読み上げるだけ。従って
会話などは成立しないが、2人はそれで満足なようだ。
そんな傍からは謎に包まれたような2人の関係だったが、実
は彼女には若者には告げられない秘密があった。

出演は、2022年7月紹介『窓辺にて』などに出演の倉悠貴と
2020年3月8日付題名紹介 『HOKUSAI』などの芋生悠。他に
成田凌、宇野祥平、川瀬陽太、奥野瑛太、高田里穂、松井愛
莉らが脇を固めている。
また音楽を、CM楽曲などを数多く手掛けるモリコネンが担
当していることも話題のようだ。
主人公はある種のアスペルガー症候群なのかな。そんな障碍
を持つ人に寄り添うような作品にも見える。でもまあ、全体
的にはほんわりとした独特の雰囲気の中で綴られている作品
でもある。
脚本家の高田は、2014年2月紹介『そこのみにて光輝く』や
2017年4月2日付題名紹介『武曲MUKOKU』などでも知られる
俊英だが、それらの作品とは対極と見えるものの、その根底
は同じなのかな。優れた人間味のある作品だ。
とはいうものの観る者としては、2006年1月紹介『かもめ食
堂』に始る荻上直子監督の一連の作品や、高田がテレビ版を
手掛けたという2008年5月紹介『グーグーだって猫である』
に連なるような心が休まる作品と言えそうだ。
結末も素敵だし、昨今の殺伐とした現実世界にあっては毒に
も薬にもならないとも言われそうだが、一服の清涼剤になる
とは言えそうな作品だ。

公開は10月27日より、東京地区は新宿シネマカリテ他にて全
国ロードショウとなる。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二