井口健二のOn the Production
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2023年07月23日(日) クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル、おしょりん

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル
                トラヴェリン・バンド』
 “Travelin' Band: Creedence Clearwater Revival
              at the Royal Albert Hall”
1959年−72年に活動したアメリカのロックバンドが1970年に
行った唯一のヨーロッパツアーで、その最終日のロンドン・
ロイヤル・アルバート・ホールでの演奏をフルヴァージョン
で収め、その他の映像と共に構成したドキュメンタリー。
何時も書いているように僕は音楽には全く疎くて、もちろん
バンドの名前ぐらいは知っていたが、彼らの音楽性などは頭
の中になかった。従ってProud Maryが流れた時には、これが
彼らのオリジナル曲だったと再認識したものだ。
そんな状態で観た作品だったが、終盤のロンドン公演のシー
ンでは図らずも目頭が熱くなり、思わず落涙してしまうほど
の感動を覚えた。そんな見事に構成されたドキュメンタリー
と言える。
その映画では、高校の同級生だったというバンドの来歴から
解き明かされる。さらにバンドの活動時に収録されたインタ
ヴューなども登場するが、これが意外と優等生。メムバーは
兵役にもついていたという。
それが後年にはアメリカ一政治意識の高いバンドとまで言わ
れるのだからその変遷も知りたくなるが、その政治意識は本
人たちが否定しているもののようだ。でもそんなこんなが本
作では要領よく纏められている。
そしてそれに並行してヨーロッパツアーの様子が挿入され、
各国での演奏の模様やプライヴェートの姿が描かれ、その結
末としてのロイヤル・アルバート・ホールのコンサートへと
繋がって行く。
ところがここではとんでもない事態が彼らを待ち受ける。そ
れによって彼らは凄まじいプレッシャーを受けることになる
のだが…。1曲ごとに会場が盛り上がり、最後はそれまで冷
静だったカメラまでもが舞い上がるのだ。
しかも(これは日本版だけのことになってしまうのだが)この
ロンドンのシーンでは歌詞の翻訳字幕が付く。実はその前の
シーンでは「英語判るのかな?」という台詞もあって、それ
がここでは理解できる仕組みにもなっているのだ。
こんな配慮も感動の要因かも知れない。そんな全てが完璧に
配慮された作品と言えるだろう。

監督は、過去にはザ・ビートルズやジミ・ヘンドリックスの
ドキュメンタリーでグラミー賞を受賞しているボブ・スミー
トン。またナレーションを自らがCCRの大ファンだという
ジェフ・ブリッジスが担当しており、これも素晴らしい。
公開は9月22日より、東京地区はヒューマントラストシネマ
渋谷、角川シネマ有楽町他で全国順次ロードショウとなる。

『おしょりん』
題名は福井県地方の古い方言で、春先に積もった雪が晴れの
日に少し溶けて、翌朝再び凍結した状態。子供ならその上を
歩ける程度に固くなっているものを指すようだ。そんな福井
の地場産業の黎明期を描いた作品。
プロローグは「福井県ニュース」。北陸新幹線の延伸に向け
て福井県の様々な魅力が紹介される。その最後に全国シェア
が90%を超えるという鯖江の眼鏡産業が紹介される。
そして物語は明治時代に戻り、映画の主人公は代々続く庄屋
の娘。隣村から嫁入りの話があり、折しも在宅中の彼女の家
に隣村の若者が贈答品を持って訪ねてくる。その若者に彼女
は好意を寄せるが…。
6年後、隣村に嫁いだ主人公は子宝にも恵まれるが、村の有
力者でもある夫は、農業だけで他に仕事のない冬場の村から
の若者の流出に頭を悩ませている。そんな時、大阪に出てい
た夫の弟が新たな産業の見込みを持ってくる。
それは当時はまだ需要の広がっていない眼鏡の製造。しかし
初めて見る眼鏡に集まった村の有力者たちは懐疑的だった。
それでもある切っ掛けで、眼鏡製造の準備が始まるが、そこ
にはいろいろな困難が待ち受けていた。
そんな困難に打ち勝ち、眼鏡産業を勃興させた先人たちの努
力が描かれる。

出演は2008年11月紹介『ハルフウェイ』などの北乃きい。相
手役に2018年5月紹介『クジラの島の忘れもの』などの森崎
ウイン。他に駿河太郎、高橋愛、秋田汐梨、磯野貴理子、津
田寛治、榎木孝明、東てる美、佐野史郎、かたせ梨乃、小泉
孝太郎らが脇を固めている。
原作は藤岡陽子(ポプラ社刊)、脚本は2008年8月紹介『櫻の
園』などの関えり香。製作は河合広栄、監督と共同脚本には
児玉宜久。なお河合と児玉は2018年に福井県が舞台の『えち
てつ物語』という作品も手掛けている。
まあいわゆるご当地ものだから悪い話は聞こえてこないが、
現代の目で見ると、何となく自信を無くしているような日本
人に対して喝を入れるというか、先人の努力を見て勇気を与
えられる、そんな感じの作品にはなっている。
これも今の時代を反映している作品と言えるのだろう。

福井県各地で撮影された地元の魅力も満載の作品だ。
公開は10月20日より福井県で先行上映の後、11月3日からは
全国ロードショウとなる。


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井口健二