井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2023年04月02日(日) 推しが武道館いってくれたら死ぬ、渇水、探偵マリコの生涯で一番悲惨な日、テノール(仮題)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『推しが武道館いってくれたら死ぬ』
岡山県出身の漫画家平尾アウリによる同名原作から、2020年
にテレビアニメ化され、さらに2022年10月にドラマ化された
作品の劇場版。
主人公はアイドルオタクの女性。元から興味があった訳では
ないが、ある切っ掛けで地下アイドルグループの1人を推し
ている。そんな彼女の周囲には他のメムバーを押す男性らも
いたが…。
そのグループが少し売れ始めた時、彼女の推すメムバーが怪
我で出遅れてしまう。そして徐々に自信を無くして行く推し
メンを再起させるべく、主人公の押し活が始まる。果たして
その活動は推しメンを救えるか?

出演は元乃木坂46の松村沙友里、4歳から女優活動をして
いるという朝ドラ『とと姉ちゃん』などの伊礼姫奈。さらに
2019年7月紹介『いなくなれ、群青』などの中村里帆と、モ
デル出身で映画初出演の和田美羽。
他に4人組みアイドルグループ@onefive のMOMO、KANO、SA
YO、GUMIと、2023年2月紹介『銀河鉄道の父』などの豊田裕
大、お笑いコンビ・レインボーのジャンボたかおらが脇を固
めている。
監督はドラマ版も手掛けた2013年12月紹介『黒執事』などの
大谷健太郎。脚本はテレビ制作美術スタッフ出身という本山
久美子。音楽はアニメ版から担当の日向萌が本作も手掛けて
いる。
正直に言ってお話は実に他愛ないものだし、特に見所がある
というものでもないが、オタク文化を肯定的に描いていると
いう面では好感が持てるし、それを2005年『NANA』を手掛け
た大谷監督が実にツボを心得て見事に描き切っている。
僕自身が決してメジャーではないサッカーチームを応援して
いる身としては、対象とする分野は違っても感覚的に共通す
る部分もあってクライマックスには謀らずも感動してしまう
ところもあった。
また舞台となっている岡山市の表町商店街にも、2017年4月
紹介『桃とキジ』の記事で書いたように多少思い入れがあっ
たりもして、残念ながら今回その映画館での上映はないよう
だが、いろいろ懐かしくも思い出したものだ。

公開は5月12日より、東京地区は新宿バルト9、渋谷シネク
イント、グランドシネマサンシャイン池袋他にて全国ロード
ショウとなる。

『渇水』
1990年の文学界新人賞を受賞し、その年の芥川賞候補作にも
なった河林満原作小説の映画化。
映画の舞台は群馬県前橋市。日照りが続く渇水でプールも営
業できなくなっている状況で、主人公は市の水道局の職員。
彼の仕事は水道料金の滞納者に支払いを促し、応じない時は
水道を止める「停水」を行うというもの。
しかし滞納者にもいろいろな事情があり、そんな中で黙々と
職務を果たす主人公だったが…。ガス、電気、水道、電話、
どれが止まっても生活に支障をきたすが、中でも水道は状況
が厳しそうだ。
そんな中で主人公は、幼い姉妹の居る母子家庭の停水を執行
しなければならなくなる。しかしその姉妹の姿には主人公自
身の生い立ちも重なって行く。果たして主人公はその家の停
水を行うことができるのか?

出演は2012年2月紹介『僕等がいた』などの生田斗真。共演
は2018年12月紹介『チワワちゃん』などの竹脇麦と、2022年
5月紹介『ビリーバーズ』などの磯村勇斗。さらに尾野真千
子、子役の山��七海、柚穂らが脇を固めている。
監督は2010年2月紹介『月と嘘と殺人』などの高橋正弥。脚
本は2004年4月紹介『機関車先生』などの及川章太郎。実は
脚本は10年ほど前に完成しており、高橋監督の許で企画され
ていたが進んでいなかった。
その脚本が、2018年7月29日付題名紹介『止められるか、俺
たちを』や、2017年11月19日付題名紹介『孤狼の血』などの
白石和彌監督の目に留まり、白石の企画プロデュースで実現
されたものだ。
背景となる事象は社会性のある出来事だが、物語はその点に
フォーカスするのではなく、あくまでも主人公と幼い姉妹、
それによって想起される主人公の出自などがヒューマンドラ
マとして描かれる。
その点で、特に結末などには物足りなさを感じる向きもある
かもしれないが、これも人間社会の一側面を描いた作品と言
えるものだろう。そんなドラマが渇水というある種の極限の
中で語られる作品だ。
因に映画の結末は原作小説からは改変されているようだが、
それも映画という媒体が取るべき姿なのだろう。この辺は監
督らの愛も感じるところだ。

公開は6月2日より、全国ロードショウとなる。

『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』
2017年4月23日付題名紹介『獣道』などの内田英治監督と、
2009年8月紹介『母なる証明』でポン・ジュノ監督の助監督
を務めたという片山慎三監督の共同監督で、『獣道』で主演
の伊藤紗莉を主演に迎えたオムニバス作品。
物語の舞台は新宿歌舞伎町。その片隅でバーを営む主人公は
同時に探偵も稼業にしている。そんな主人公の許にFBIの
捜査官と名告る3人の男女から自衛隊が捕えアメリカへの移
送中に逃亡した宇宙人を探せという依頼が舞い込む。
その逃亡は宇宙人に寄り添っていた天本博士という科学者が
手引きしたというのだが…。そんな宇宙人探索劇を主軸に、
主人公の周囲にいる忍者や姉妹の殺し屋、行方不明の娘を探
す落ちぶれたヤクザの話などが展開される。

共演は竹野内豊、北村有起哉、宇野祥平。さらに乃木坂46
の久保史緒里、2022年7月紹介『夜明けまでバス停で』など
の松浦祐也、ミュージカル『刀剣乱舞』などの高野洸、舞台
女優の中原果南と島田桃依、2018年7月29日付題名紹介『止
められるか、俺たちを』などの井島空らが脇を固めている。
まあメインの話が宇宙人探しで『E.T.』へのオマージュみ
たいなものもあるから、ジャンルとしてはSF映画だと思う
のだが、その他のエピソードは多少荒唐無稽なものはあると
は言え、SF映画ファンを唸らせるようなものではない。ま
あ博士の名前にはニヤリとはしたが…。
と言いながら造型やVFXなどもそれなりの頑張りは感じら
れたところで、やるならもっと真っ当なSF映画も出来たの
ではないかな。そこはわざと外したような感じもするが、次
にはもっと真っ当な作品も観てみたいものだ。
それと伊藤紗莉のキャラクターがあまり立ってこないのも気
になった。これではただの狂言回しでしかない感じで、この
辺は映画的にもう少し工夫があっても良かったのではないか
な。せっかく旬な女優なのに、勿体ない感じもした。
主人公が営むバーの壁面にはハヤカワSF文庫が並ぶ本棚が
あったりして、それなりの仕掛けはあるようにも思ったのだ
が、それがただのお飾りなのも残念だったところだ。いろい
ろやりたいことが多そうな作品だけに惜しい感じがした。

公開は6月30日より、東京はテアトル新宿他にて全国ロード
ショウとなる。
なお本作は、2022年度の第40回ブリュッセル国際ファンタス
ティック映画祭で、WHITE RAVEN賞を受賞したようだ。

『テノール(仮題)』“Ténor”
6月公開予定のフランス映画を内覧試写で見せて貰った。
主人公はパリのすし店で出前の仕事をしながら会計士の勉強
をしている若者。そんな若者がパリオペラ座に寿司の出前に
行ったことから物語は始まる。
そこで若いレッスン生のアリアの練習を見掛けた時、立ち止
まっていることを咎められた若者は、思わずオペラ歌手の物
まねで美声を轟かせてしまう。その声に驚いたのはレッスン
の指導をしていた女性教師。彼女は直ちに店に若者の所在を
確認しようとするが…。
若者が暮らすのは下町の一角。そこで兄と暮らしていたが、
その兄はストリートファイトで日銭を稼ぐような輩で、若者
には幼馴染の女性もいたが、体力自慢の彼女は軍への入隊の
日が迫っていた。そんな中で居場所を突き止められた若者は
オペラ座のレッスン生の道を進み始める。
出演はオーディション番組で優勝して一躍人気者になったと
いうラッパーのMB14。実際に途轍もない美声の持ち主のよ
うで、映画の中でもラップバトルを繰り広げる一方でオペラ
の歌唱にも挑み、そのどちらも自分で歌っている。
共演は1997年『ぼくのバラ色の人生』や2000年『メルシィ!
人生』などのミシェル・ラロック。他にテノール歌手のロベ
ルト・アラーニャらが登場して脇を固めている。
なお本作は、一般のドラマ作品では初めてオペラ座内部での
撮影が許可されたそうで、その絢爛豪華な装飾なども余すと
ころなく撮られている。それにしてもなぜこのような作品に
とも思えるが、映画を観るとなるほどこれはオペラの啓蒙に
も繋がる作品だと理解できた。
実は3月紹介の『ノートルダム炎の大聖堂』を鑑賞したとき
に、東京でこれに匹敵するような建物があるだろうかと考え
たが、本作を観ているとオペラ座も同様にパリを象徴する建
物であることに気づかされた。
それは映画の登場人物たちによってもそのような敬愛を込め
て描かれているもので、歴史の重みというか伝統の深さを感
じさせられた。このような建造物は日本、ましてや東京には
ないとも思い知らされたものだ。

公開は6月、東京は新宿ピカデリー、ヒューマントラストシ
ネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国順次
ロードショウとなる。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二