井口健二のOn the Production
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2022年06月12日(日) サハラのカフェのマリカ、劇場版ねこ物件、失われた時の中で

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『サハラのカフェのマリカ』“143, rue du Désert”
2016年に長編デビュー作“Dans ma tête un rond-point”が
公開されたというアルジェリアの俊英ハッセン・フェルハー
ニ監督が、2019年のロカルノ国際映画祭で最優秀新人監督賞
を受賞したドキュメンタリー。
舞台はサハラ砂漠。その中で産業道路らしく大型トラックが
行きかう街道の傍らに若くはない女性が一人で切り盛りする
雑貨屋があった。その店には常連らしいトラックの運転手や
そのトラックにヒッチハイクする人々が訪れていたが…。
その店は、現状は一軒家だが近くには以前は店だったような
廃墟もあり、今また新たな給油所が建つ工事も進んでいる。
つまりそれなりの交通の要衝ではあるようだ。そんな場所に
建つ店にはいろいろな人物が集まってくる。
そんな人々の話を女性はただ聞いていたり、それなりの茶々
を入れたり…。中には女性の一人暮らしを心配してくれる人
もいるが、ただ自分の愚痴を言い続けるだけの様な客もいた
りもする。そして女性にある転機が訪れる。
監督は「逆説的ロードムーヴィ」と称しているようだが、撮
影場所は一か所で、そこにいろいろな人間模様が行きかう。
そしてそこには一人の主人公がいる。それは確かに監督の言
いたいことも良く判る作品だった。
本作を観ていて僕は是枝裕和監督の1999年作品『ワンダフル
ライフ』を思い出していた。その作品はドラマだが、そこで
は素人の出演者にシチュエーションだけ伝えて演技をさせ、
その様子を捉えてドラマにする手法が採られていた。
是枝監督もドキュメンタリーの出身で、その中から編み出さ
れた手法だと思われるが、特に出演者がシチュエーションを
逸脱してしまう瞬間が見事なドラマに昇華して描かれていた
ものだ。
それが本作の中でも実は途中で女性によるイレギュラーな発
言があり、何となく似た感じも受けてしまったものだ。しか
もそこに、出演者への深い愛情が感じられるところも是枝作
品に通じるものを感じた。
そして本作では共演する2匹の猫と2匹の犬の存在も生きて
いた。この動物たちがマリカの安全を保っているのかな。

公開は8月26日より、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他で全国順次ロードショウとなる。

『劇場版ねこ物件』
2022年4月8日(金)にテレビ神奈川で第1話放送、6月10日
に最終話の予告編が更新されたということは多分6月17日に
それが放送となる最新シリーズの劇場版。従ってこの記事に
は、現時点で最終話のネタバレも入っている。
そのいきなりのネタバレで本作は、ドラマの舞台である二星
ハイツから以前の住人たちが巣立った後の家主である主人公
と2匹の猫の暮らしぶりが描かれる。そこで主人公は不動産
会社の女子社員と新たな入居者の募集を始めるのだが…。
実は主人公には幼い頃の記憶がなく、そこに亡くなった祖父
からの謎の手紙が届く。そしてその手紙に触発されて僅かな
思い出が再生され、そこから自らの記憶を取り戻すための新
たな物語が展開される。
まあ何というか、かなりミステリアスな雰囲気も漂う物語の
展開となるが、そこにクロとチャー2匹の猫の存在と以前の
仲間たちとの交流などが重なって、全体としてハートフルな
物語に仕上げられている。

脚本と監督は、2022年4月紹介『劇場版おいしい給食』など
の綾部真弥がテレビシリーズに続けて手掛けている。
出演は、2018年1月14日題名紹介『曇天に笑う』などの古川
雄輝がテレビシリーズに続いて主演の他、長井短、竜雷太ら
が共演。さらに細田佳央太、上村海成、本田剛文、松大航也
らが脇を固めている。
また2022年『ウルトラマントリガー エピソードZ』などの
金子隼也、2019年の主演作でマドリード国際映画祭・最優秀
外国語映画主演女優賞受賞の山谷花純らも登場する。
実は僕はテレビシリーズを観ていなくて、物語的にはあまり
思い入れはなかったのだが、本作では上述したミステリアス
な展開もあって、それなりに楽しむことはできた。いずれに
しても猫の愛らしさが楽しめればよい作品ではある。
ただ綾部監督では、4月紹介作品もテレビとは少し違うテイ
ストだったがその辺はどうなのかな。まあテレビと劇場版と
は違うコンセプトというのも理解はするが、その辺は視聴者
の考え方次第だろう。

公開は8月5日より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロード
ショウとなる。

『失われた時の中で』
2011年8月紹介『沈黙の春を生きて』や2018年8月5日題名
紹介『モルゲン、明日』などの坂田雅子監督が、2008年公開
の『花はどこへいった』と『沈黙の春を生きて』に続けて三
度、枯葉剤の現実を描くドキュメンタリー。
監督が枯葉剤と向き合う切っ掛けとなったのは、ベトナム帰
還兵であった夫グレッグ・デイヴィスの枯葉剤の影響とみら
れる肝臓がんによる死だったが、前2作ではその点は深く描
かれていなかった気がする。
しかし本作では、フォトジャーナリストだったデイヴィス氏
が遺した作品や手記なども挿入され、監督がようやくそれに
向き合えるようになったのかな。と思うと、感慨というか、
少しほっとした気持ちにもなれた。
それはさておき本作では、監督が2011年の災害以降に原発と
核の問題を追っていた期間に起きた枯葉剤のその後が描かれ
る。それは前作の取材で出会った被害者一家との再会や、フ
ランスでの新たな裁判など多岐に渉る。
しかしそれでも枯葉剤の問題が全く進展していないことには
愕然とさせられる。ただ最大の被害国であるベトナムの家族
で、老いた母親が自分の後は社会に任せられるとしているこ
とは、共産国の優等生である国家のおかげなのかな。
これに対して未だに責任を認めない合衆国や福島の後始末も
できない日本の現状は、いったい何が違うのだろうと思わさ
れる。その一方で被害に遭った子供の体躯が、10年経っても
ほとんど変わっていないことは衝撃だった。
10年経って何も変わっていないのが現実だろう。そして戦争
が今も続いていることも現実。これらを締めくくるように挿
入されるグレッグ・デイヴィス氏の言葉が胸に突き刺さって
くるものだった。

因に本作の英語題名は“Long Time Passing”。 これは監督
の第1作の題名の元となったフォークソングの歌詞の続きだ
が、本作に込めた思いのようにも感じられた。
公開は8月より、東京はポレポレ東中野他で全国順次ロード
ショウとなる。前2作の公開は神田の岩波ホールだったが、
同館が閉館することも改めて考えさせられた。


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井口健二