井口健二のOn the Production
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2022年05月29日(日) アプローズ、ALIVEHOON、とら男、島守の塔

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『アプローズ、アプローズ!』“Un triomphe”
1985年にスウェーデンで起きた実話を基にフランスで映画化
され、2020年のカンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション
に選出された人間ドラマ。
主人公は売れない舞台俳優。娘とやはり舞台俳優の妻もいる
が、娘は学業が忙しいと父親には会いたがらず、それでも母
親の舞台は観に行っているようだ。そんな主人公の許に刑務
所での演技ワークショップの講師の依頼が来る。それは舞台
の先輩に押し付けられた断れない仕事だった。
そんな訳で気乗りがしないまま訪れた刑務所だったが…。案
の定、集まっているのは不満ばかり述べ立てる受刑者たち、
特に先任者がやり残した寓話の舞台劇は不評の的だった。そ
の一方で刑務所の所長からは、支援者を集めるために形だけ
でも整えて欲しいと言われてしまう。
そんな中で、囚人の一人が発した「俺たちは待っているだけ
だ」という言葉が光明をもたらす。そこで主人公が思い付い
たのはサミュエル・ベケットの不条理劇『ゴドーを待ちなが
ら』の上演。そこには幾多の困難も待ち受けていたが、ある
モチベーションが囚人たちを纏めて行く。

脚本と監督は、舞台俳優出身で2010年11月紹介『君を想って
海をゆく』のオリジナル脚本も手掛けたエマヌエル・クール
コル。出演は、2018年6月17日題名紹介『オーケストラ・ク
ラス』などのカド・メラッド。コメディアン出身だが前作と
言いこの役柄にはぴったりの人だ。
作品に関しては、実話の当事者である舞台俳優が自ら演じる
舞台劇もあるようだが、プレス資料に掲載された俳優の弁に
よると、事件当時存命だったベケットは彼に対して「これは
自分の戯曲に関わる最高の出来事」と語ったそうだ。ただし
本作ではかなり大幅な脚色もされているが。
因に劇中で上演される不条理劇に関しては中々難解ではある
のだけれど、個人的には先に2019年3月31日題名紹介『柄本
家のゴドー』を観ていたお陰で、主人公の言っていることも
理解はし易かったかな。そこに本作が重なってさらに理解も
進んだ感じがした。
特に劇中劇の結末にはニヤリとしたものだ。そして映画の結
末にはそれを上回る感動があった。

公開は7月29日より、東京はヒューマントラストシネマ有楽
町、新宿ピカデリー他で全国ロードショウとなる。

『ALIVEHOONアライブフーン』
日本発のモータースポーツとされるドリフト。そのレースと
そこに繰り広げられる人間模様をCGIなしのリアル映像で
描いた作品。因に題名の中のHOONとは「走り屋」を表す俗語
だそうだ。
物語の中心は伝説のドライバーが率いてドリフトに参戦する
弱小チーム。ところがそのドライバーがレース中に負傷し、
スポンサーを持たないチームは解散の危機の陥る。この危機
にドライバーの娘がスカウトしてきたのは、eゲームのドリ
フトで日本チャンピオンの若者だった。
実際に海外のドリフトレースではeゲーム出身のドライバー
もいるそうだが、言ってみればオタクで実車経験はなく、し
かも人付き合いも上手くない若者が、如何にしてチームとの
輪を構築し自らのアイデンティティーを構築して行くか、そ
んな物語が展開される。

企画・原案は本作のエグゼクティブプロデューサーでもある
2019年2月17日題名紹介『JK☆ROCK』などの影山龍司。実は
試写の前に挨拶があったが、かなりの熱意が伝わってきた。
脚本は2019年9月29日題名紹介『いのちスケッチ』などの作
道雄と多くの作品で監督補などを務める高明。
そして監督と編集は、2014年5月紹介『キカイダーREBOOT』
などの下山天。撮影には車載カメラやドローンなども多用さ
れているが、本作の見どころの一つは監督自身による巧みな
編集だろう。特に登場するレースというかドリフトシーンの
捉え方が視点や緩急を変えて見事だった。
ドリフトと言うと映画の台詞にも出てくる「峠の走り屋」を
描いた2005年6月紹介『頭文字D』を知っている程度で、正
直に言ってそれ以外のことは全く知らなかった。ましてやそ
れが国際的なモータースポーツになっているということにも
驚かされた。
一方、eゲーム=eスポーツに関しては近年耳にする機会も
多くなったが、本作ではどちらかに偏るのではなく、その融
合も心地よく描いている。それはどちらのファンにも納得の
できる展開で、製作者たちにはその辺の状況が良く理解され
ての作品とも言えそうだ。

出演は、2018年8月26日題名紹介『ビブリア古書堂の事件手
帖』などの野村周平と、2018年4月15日題名紹介『虹色デイ
ズ』などの吉川愛。他に劇団 EXILEのメムバーで2016年9月
25日題名紹介『たたら侍』などの青柳翔、2019年1月20日題
名紹介『翔んで埼玉』などの福山翔大。
さらに陣内孝則、本田博太郎、モロ師岡、土屋アンナらが脇
を固め、2006年公開『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』
のスーパーバイザー及びドライバーを務めたプロレーサーの
土屋圭市が特別出演と監修も担当している。他にもプロレー
サーが多数出演しているようだ。
公開は6月10日より、東京はイオンシネマ シアタス調布、
池袋HUMAXシネマズ、ユナイテッド・シネマ アクアシティお
台場他で全国ロードショウとなる。

『とら男』
石川県警の元刑事が在職中の未解決事件を再捜査する。その
模様を元刑事本人の出演で描いたセミドキュメンタリー。
映画の主人公は東京の大学に通う女子学生。植物学の授業で
メタセコイアに興味を持った彼女は、ネット検索でその植物
が石川県に自生していることを知り現地を訪問する。そして
金沢おでんの店で食事中に元刑事と出会う。
元刑事の名前は西村虎男。彼が追う未解決事件は1992年9月
に起きた「金沢女性スイミングコーチ殺人事件」。その事件
の被害者の髪にメタセコイアが絡みつき、事件の犯行現場が
特定されたのだ。
そしてその事件にも関心を持った主人公は元刑事と共に事件
の再捜査を開始するが…。すでに公訴時効も成立している過
去の出来事には人々の関心も薄かったが、徐々に証言する人
も現れ始める。

脚本と監督は石川県生まれでニューヨーク市立大学卒業とい
う村山和也。大学在学中から映像制作を始め、帰国後は映像
ディレクターとしてCM−MVなどを手掛けながら短編映画
も発表していたという俊英の長編デビュー作だ。
共演は加藤才紀子。加藤は2016年1月紹介『リップヴァンウ
ィンクルの花嫁』でスクリーンデビュー、2019年11月7日付
「第32回東京国際映画祭」で紹介『海辺の映画館―キネマの
玉手箱』にも出ており、本作が初主演作となっている。
因に映画の中で主人公のメモ帳に描かれるイラストや垂れ幕
の筆字は全て加藤自身が描いたものだそうだ。
試写会の後で監督と出演者2人による会見があり、そこでは
何故この事件が未解決に終ったかというような発言も飛び出
した。それによると元刑事は事件捜査の途中で突然配置転換
になったのだそうだ。
しかも今回の映画撮影に関しても、石川県警からは妨害はな
かったものの協力は全く得られず。他にも行政からの協力は
ほとんど拒絶されたようだ。これは相当の裏事情をうかがわ
せる発言が出ていた。
その一方で映画の後半に登場する県警の刑事は、名前をクレ
ジットに載せない約束で、現職の刑事が出演しているとのこ
と。元刑事には犯人の目星は付いているということだが、こ
の辺にも複雑な事情が隠されているようだ。
警察の癒着というのは、湾岸署や特命課でもいろいろ描かれ
ているが、絵空事のようなことが現実に起きている。そんな
ことが描かれた作品だ。

公開は8月6日より、東京は渋谷ユーロスペース他で全国順
次ロードショウとなる。

『島守の塔』
第2次世界大戦末期の米軍による沖縄上陸作戦を背景に、戦
争に巻き込まれた庶民の姿を描いた作品。
物語の中心になるのは戦前の沖縄県で最後の官製知事となっ
た島田叡。兵庫県出身の島田は1945年1月に辞令を受け、家
族の反対を押し切り単身で着任した。もう一人は沖縄県警察
部長の荒井退造。栃木県出身の彼は島民の本土疎開を推進す
るが、その中で対馬丸の撃沈が起きてしまう。
それでも二人は、一億総玉砕が叫ばれる中で「命どう宝、生
き抜け!」と住民を鼓舞し、1945年3月までに7万3千人の
県外疎開を実現し、米軍の侵攻で疎開が困難になってからは
激戦地となった島の南部から15万人を北部に避難させ、その
命を救ったとされる。
そんな二人が最後は同じ壕に居たとされるが、その遺体はい
まだに見つかってはいないそうだ。

出演は、萩原聖人、村上淳。他に吉岡里帆、池間夏海、榎本
孝明、成田浬、水橋研二、勝矢、香川京子らが脇を固めてい
る。
監督は、2010年8月紹介『半次郎』などの五十嵐匠、脚本は
監督と2010年8月紹介『武士の家計簿』などの柏田道夫が執
筆している。
第2次世界大戦での沖縄戦と言われると、美談のように描か
れる『ひめゆりの塔』のようなものもあるが、現実は2018年
5月紹介『沖縄スパイ戦史』で描かれたような悲惨かつとん
でもないものだったようだ。
それを踏まえると本作はある意味美談ではあるものの、その
現実として2018年紹介作の様な悲惨な物語が描かれて行く。
実際監督らはその現実を知って本作の脚本を執筆したのでは
ないかと思えるほどのものだ。
戦勝国のアメリカが戦争を美化するのは致し方ないが、日本
国民はこの沖縄戦の悲劇を、もっと現実として知っておくべ
きではないか。そんなことを考えさせられる作品だった。

東京での公開は7月22日よりシネスイッチ銀座にて。その後
8月5日から沖縄、兵庫、栃木で上映開始され、さらに全国
順次ロードショウとなる。


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井口健二