| 2022年05月22日(日) |
マタインディオス、戦争と女の顔、女神の継承、神々の山嶺 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『マタインディオス、聖なる村』“Mataindios” 2016年にペルー文化庁主催の長編映画企画コンペティション で入賞し、現地ではシネ・レヒオナル(地域映画)と呼ばれる 形態で映画化。2018年リマ映画祭に出品されてベストペルー 映画に選出されたという作品。 物語は鍵穴から外を覗く映像で始まる。その外側には村人が 集まっており、彼らは苦労の末に鍵を開けて、現地ではマタ インディオスと呼ばれるイエス・キリストの12使徒の一人、 大ヤコブを祭るお堂に入ってくる。そんな彼らは深い悲しみ に捉われているようだ。 そして彼らは花や羊毛で紡いだマントを村の守護聖人とされ るマタインディオスに捧げ、祭礼を執り行おうとするが…。 それが白人司祭の説くカトリックとの確執を生む。アンデス 山脈の山岳地帯に位置する集落を舞台に、伝統的な信仰と現 代信仰との狭間に揺れる村人たちの姿が描かれる。 伝統的といってもスペイン人に持ち込まれたキリスト教であ り、僕らの目には変わりないように思えるが、より呪術的と いうか原初的な宗教観のようだ。そんな宗教の違いも描かれ るが、それよりも重要な映画のポイントは、村人たちが捉わ れている悲しみの原因だろう。 それは祭礼の中で1987年7月24日という同じ日付の記された 2つの十字架と「銃声がした」という台詞によって示されて いるものだが、この年号はアルベルト・フジモリが大統領に なる直前のペルー経済がどん底だった時代のものだ。つまり その時代に起きた事件が背景のようだ。 しかし物語はその悲劇を詳細には語らず、最後は村の子ども たちのはじけたような行動で締め括られる。そこには過去に 捉われない子供たちの未来が描かれているようにも見える。 そしてそれを鍵穴から見つめているのは、守護聖人マタイン ディオスなのだろうか。 脚本と監督を共同で手掛けたのは、共にペルー国立演劇高等 学校卒でペルー国立サン・マルコス大学で学んだオスカル・ サンチェス・サルダニャとロベルト・フルカ・モッタ。因に オスカル監督は、2019年7月14日題名紹介『サタンタンゴ』 などのタル・ベーラ監督を手本に本作を制作したそうだ。 その割には本作の上映時間は77分と短いが…。また作中での 司祭役はペルーのテレビで活動するカルロス・ソラノという 俳優が演じている。 公開は6月18日より、東京は渋谷シアター・イメージフォー ラム他で全国順次上映となる。
『戦争と女の顔』“Дылда/Dylda” ウクライナ生まれで2015年のノーベル文学賞受賞者スヴェト ラーナ・アレクシエーヴィチが、1985年に発表したノンフィ クション『戦争は女の顔をしていない』から想を得て映画化 された2019年製作のロシア映画。 最初に登場するのは軍病院で働く周囲からディルダ=のっぽ と呼ばれる女性イーヤ。実際に周囲の女性たちより頭ふたつ 飛び出る長身の女優が演じている。時は1945年秋、所は当時 のレニングラード。彼女は幼い男の子を育てているが、時折 PTSDの発作で身体が硬直する。 もう一人登場するのは、激戦地から復員してきたマーシャ。 彼女とイーヤは元戦友だったが、彼女もまた身体に深い傷を 負っていた。そんな二人は共同生活を始め、マーシャも軍病 院で働き出す。その病院では意識は明瞭だが首から下が麻痺 した傷病兵など、様々な戦後の悲劇が描かれる。 そしてマーシャはイーヤと病院長の秘密を目撃する。 出演は、共にロシア演劇芸術アカデミー出身のヴィクトリア ・ミロシニチェンコとヴィシリサ・ペレリギナ。この二人の 演技が素晴らしい。他にアンドレイ・ヴァイコフ、クセニア ・クテボア、イーゴリ・シローコフ、コンスタンチン・バラ キレフ、ティモフェイ・グラスコフらが脇を固めている。 製作は、ウクライナ・キーウ出身で2012年12月紹介『クラウ ド・アトラス』などハリウッド映画も多数手掛けるアレクサ ンドル・ロドニャンスキー。脚本と監督は、ロシア連邦内の カバルダ・バルカル共和国出身で本作が2作目のカンテミー ル・バラーゴフが手掛けた。 映画には600mのセットを組んで走らせたという往時の路面電 車や1938年製のメルセデスベンツなども登場するが、これら はサンクトペテルブルグの交通博物館から借り出したもの。 特にベンツを運転するシローコフには特別な緊張があったと 思うが、実は彼の本業は美術監督なのだそうだ。 原作は第2次世界大戦に従軍した 500人余りの女性元兵士に インタヴューして纏められたというものだが、勝利した闘い の戦後でもこれだけの苦しみが残っている。特にPTSDに関し ては近年いろいろな情報を見聞きする機会も増えているが、 本作ではもっと根源的な傷病も登場する。 そんなこともひっくるめて戦後になっても続く戦争の悲劇が 鋭く描かれた作品だ。それが様々な描写を通じて徐々にしか も着実に観る者の胸に迫ってくる。そんな感じにもなる。そ してその戦争が今現在も続けられている。そんな悲しい思い にもさせられる作品だった。 公開は7月15日より、東京は新宿武蔵野館、ヒューマントラ ストシネマ渋谷他で全国順次ロードショウとなる。
『女神の継承』““ร่างทรง/랑종” 2017年1月15日に題名紹介した韓国映画『哭声/コクソン』 などのナ・ホンジン監督が原案と製作を担当し、2014年8月 紹介『愛しのゴースト』などのタイ国の俊英バンジョン・ピ サンタナクーンが脚本と監督を手掛けた作品。 舞台はタイ国東北部のイサーン地方。その地方では代々受け 継がれる祈祷師が病気の治療や悪霊のお祓いを行っていた。 そんな祈祷師の一人の女性に密着取材が試みられる。その女 性は、本来継ぐはずだった姉がキリスト教に改宗して勤めを 拒否したために祈祷師を継いだものだった。 そんな姉にはすでに社会人となっている娘がいたが、取材を 始めてほどなくその娘に異変が生じ始める。そこで取材班は その娘にも密着取材を始めるのだが…。取材陣のカメラや市 中の監視カメラの映像などを通じて、祈祷師一族を襲う恐怖 がモキュメンタリーの手法で描かれて行く。 出演は、監督の前作『一日だけの恋人』にも出ていたという 舞台女優のサワニー・ウトーンマと、オーディションで抜擢 されたナリルヤ・グルモンコルペチ。特に後者には『哭声/ コクソン』や2017年7月紹介『新感染ファイナル・エクスプ レス』などのパク・ジェインの指導の許、撮影中に約10�圓� 減量を含む役作りが行われたそうだ。 監督の2014年作に関しては、上記の記事を読んで貰えば判る ように気に入っていない部分はある。しかし作品全体として は適度なユーモアもあって評価したくなるものではあった。 その点に関して本作は少しやりすぎの感はしてしまうかな。 正直に言ってしまえばタイ映画の良さが消えて、韓国映画の どぎつさが目立つ感じはしてしまった。でもまあこの方が今 の観客には受けるのだろう。その辺を判っての本作と思う。 後はこれが監督の次の作品にどのように反映されるか。それ を期待して待ちたいところだ。 公開は7月29日より、東京はシネマート新宿、ヒューマント ラストシネマ渋谷他で全国順次ロードショウとなる。
『神々の山嶺』“Le sommet des dieux” 日本では2016年に実写映画化された夢枕獏原作による山岳小 説から、故谷口ジロー氏(2017年に逝去)の作画によって発表 された漫画作品に基づき、前々作でセザール賞長編アニメー ション映画賞を受賞のパトリック・インバート監督が制作。 本作でも同賞に輝いた2021年本国公開の作品。 主人公はフリーの山岳カメラマン兼ライター。彼は金持ちの 道楽の様なエベレスト遠征隊に同行し、登頂に失敗した後で 現地に留まっていた。そして酒場で話しかけてきた男からあ る登山家の遺品とされるカメラを見せられる。そしてその時 はインチキと一蹴するが…。 その遺品と、消息不明だった伝説の日本人登山家が重なり、 主人公はその日本人登山家の影を追って日本とネパールを結 ぶ探索行が始まる。そこには天才と謳われた日本人登山家の 哀しい過去が横たわっていた。そんな物語が精緻に描かれた 山岳の風景と共に語られて行く。 正直に言えば、すでに実写で映画化されたものをわざわざア ニメ化するという辺りには疑問を感じるが、本作が製作され たフランスでは原作小説の翻訳はなく実写映画も公開されて おらず、ただ漫画の翻訳はあったということで、この流れは 納得できた。 そこで本作では、巻頭に実写と見まごうばかりの山岳風景が 展開され、その精緻な描写にはなるほど大きな賞を受賞する だけのことはある作品だと思わされた。その他にも故谷口氏 の原画に基づく東京などの風景も妥協なく映画化されている ようだ。 なお日本公開は全て吹替版で行われるようで、その声優には 堀内賢雄、大塚明夫、逢坂良太、今井麻美らの名前が並んで いる。 公開は7月8日より、東京は新宿ピカデリー、ヒューマント ラストシネマ有楽町他で全国順次ロードショウとなる。
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