井口健二のOn the Production
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2022年05月01日(日) 三姉妹、帰らない日曜日、宇宙人の画家

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『三姉妹』“세자매”
2004年1月紹介『Oasis』 などのベテラン女優ムン・ソリが
脚本に感動し、自ら製作も手掛けて映画化した2020年本国公
開の韓国映画。
ソウルに暮らす三姉妹。長女は潰れかけた小さな花屋を営み
ながら女手一つで娘を育てているが、別れた夫の遺した借金
の取り立てが来たり、反抗期の娘は売れないミュージシャン
に入れ挙げたり。そして彼女自身も体調に異変を感じる。
次女は見た目は裕福で教会の聖歌隊の指揮者を務めている。
しかしその内実は、夫の浮気に苦しんでおり、姉の窮状にも
かまっていられない状況だ。そして三女は劇作家として活動
しているが現在はスランプ中。しかもアル中気味でバツイチ
夫の連れ子の息子にはかなり疎まれている。
そんな三姉妹が、父親の誕生日を祝うことになるが…。韓国
社会の縮図の様な、様々なトラブルが彼女らに襲い掛かる。

ムン・ソリが次女を演じ、長女役は2020年3月1日題名紹介
『マルモイことばあつめ』などのキム・ソニョン。三女役は
モデル出身で映画出演は2作目のチャン・ユンジュが演じて
いる。
脚本と監督はキム・ソニョンの夫でもあるイ・スンウォン。
次女や父親は敬虔なキリスト教徒として描かれており、その
家族が陰で何をやっているか、そんな韓国社会の矛盾が描か
れている。その描き方はかなり執拗で、観ている間は苛々さ
せられるが、それが結末に向かって一気に収斂して行く展開
は、正に映画を観ているという感じの醍醐味だった。
これは結末を字面で読んでも判らない面白さで、そういうこ
とをする人たちには判らない世界だろう。これぞ映画という
感じの作品だ。特に最後に登場する2つの動画が、心に深く
突き刺さってくる。
これが映画だ。
それにしても本作には韓国人の二面性みたいなものが描き尽
くされている感じで、これは日本人には理解が困難とも感じ
られた。因に監督はクリスチャンなのだそうで、その立場で
これが描けるというのも二面性の表れなのかな? 韓国人は
考えていた以上に複雑だ。

それを見事に表現した3女優には青龍映画賞他、韓国各映画
賞の演技賞が贈られている。
公開は6月17日より、東京は新宿武蔵野館、ヒューマントラ
ストシネマ有楽町他で全国ロードショウとなる。

『帰らない日曜日』“Mothering Sunday”
1996年に英国で最も権威ある文学賞の一つとされるブッカー
賞を受賞した作家グレアム・スウィフトが、2016年に自身の
10冊目として上梓した小説の映画化。この原作も1919年に創
設された英国で最も古い文学賞とされるホーソーンデン賞を
受賞している。
1924年3月の第4日曜日。英国で母の日とされるこの日は、
貴族の邸宅などで働くメイドが里帰りを許される日だ。しか
し孤児院育ちの主人公ジェーンには帰る家もなく、館の主人
から借りた自転車で遠出をして同じく借りた本の読書に耽る
つもりでいた。
ところがそこに1本の電話が架かる。それは隣家の跡継ぎの
息子からの誘いの呼び出しだった。実はその息子は別の隣家
の娘と2週間後の結婚式が決まっており、主人公とは最後の
逢瀬となるかもしれなかった。そしてその日は主人公が働く
一家を含む3家族で会食をする予定だった。
そこで息子はその席に遅刻することで時間を作り、家族やメ
イドが出払った邸宅で主人公との逢瀬を楽しもうとしたのだ
が…。この物語にその24年後の出来事と、さらにその後の出
来事が重ねられ、文学を糧に20世紀を駆け抜けた1人の女性
の姿が描かれる。

出演は、1998年オーストラリア生まれで撮影時22歳の新星オ
デッサ・ヤング。相手役に1990年イギリス生まれのジョシュ
・オコナー。その脇をコリン・ファース、オリヴィア・コー
ルマンらが固め。さらにグレンダ・ジャクソン、ソープ・デ
ィリスらが登場する。
監督は、2018年11月11日題名紹介『バハールの涙』などのエ
ヴァ・ユッソン。脚本は主にテレビで活躍し2016年『レディ
・マクベス』で英国インディペンデンス・フィルム・アワー
ド受賞のアリス・バーチによる映画2作目のようだ。
実は1924年という年号が最初はピンと来なかったのだが、物
語が進む内にその持つ意味が重くのしかかってくる。そして
それが1948年という年号に重なって行く構成も見事だった。
しかもそれを巧みな演出で描き切っている。これもまた映画
の醍醐味を感じさせてくれる作品だった。

こういう作品を観ていると本当に嬉しくなる。
公開は5月27日より、東京は新宿ピカデリー、ヒューマント
ラストシネマ有楽町、シネリーブル池袋他で全国順次ロード
ショウとなる。

『宇宙人の画家』
保谷聖輝監督は1999年岐阜県恵那峡生まれ、高校時代に地元
の映画祭で入賞を果たし、京都大学文学部・宗教哲学専攻で
在学中の2019年に撮った作品がカナザワ映画祭「期待の新人
監督」2020グランプリを受賞。その基金によるスカラシップ
で制作された2021年度の作品。
巨大な観音像が聳え虚無ダルマという首領の居る犯罪組織に
支配された裏日本のK市を舞台に、組織が究極の兵器を入手
するとの情報を基に送り込まれた米国スパイの活動と、その
物語を描いた漫画の作者の少年を巡る物語。
有り勝ちな発想の作品だが、スパイの話は活劇であり、少年
の話は苛めの絡む学園もので、この両者に奇妙な符合がある
ところは少し新趣向と言えるかな。ただしそれを97分の上映
時間に収めるとかなり舌足らずな作品になる。
実際問題として新人監督が書いたオリジナルの脚本はもっと
シンプルだったようだが、カナザワ映画祭の主催者でもある
本作の製作者がそれに膨らみを持たせたとのこと。その辺で
新人監督の力量を超えてしまった面はあるようだ。
とは言えその辺を見極めるのが製作者の仕事とも思えるが、
その人物の来歴は良く判らないけど、映画製作の実務にはあ
まり携わったことがなかったのかな? そういう制作現場が
監督の思いとは裏腹になってしまったのかも知れない。
因に同じスカラシップで製作の作品は他にもあるようだが、
データを観るとその作品の監督はシネマワークショップなど
で学んできた人のようで、その辺の違いが出てしまった可能
性もある。
いずれにしても本作の監督には、この体験を基に新たな作品
へ挑戦して欲しいものだ。ただしタルコフスキーの『ソラリ
ス』が好きでスパイ活劇は少し違う感じもする。オリジナル
はそういう脚本ではなかったようだが。

出演は、2019年の映画『阿吽』などの渡邊邦彦と保谷監督の
前作にも出ていた丸山由生立。他にプロラッパーの呂布000
カルマ、Kカップアイドルの桐山瑠衣、2015年5月紹介『戦
慄怪奇ファイル超コワすぎ!』などの大迫茂生、芸人のシソ
ンヌじろうらが脇を固めている。
公開は7月2日より、東京は新宿K's cinema、アップリン
ク吉祥寺他で全国順次公開となる。

 今回は以上の3本。次週はゴールデンウィーク明けのため
更新はありません。


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井口健二