井口健二のOn the Production
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2017年12月10日(日) <TANIZAKI TRIBUTE>、スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット、野球部員、演劇の舞台に立つ!

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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<TANIZAKI TRIBUTE>
谷崎潤一郎の描いた3つの短編小説が3人の監督によって映
画化され、上記のタイトルで連続上映される。
『神と人との間』
主人公は田舎町の開業医。親友の売れない漫画家と共に2人
は熱帯魚屋の女店員に恋していたが、主人公は彼女を漫画家
に譲ってしまう。そして漫画家と女店員は結婚するが、漫画
家はすぐに愛人を作り、さらに主人公には妻との不倫をけし
かける。その行動はさらにエスカレートし…。

脚本と監督は、2016年『下衆の愛』などの内田英治。出演は
同作の渋川清彦と、2017年10月紹介『ゆらり』などの戸次重
幸。それに2017年11月26日題名紹介『ピンカートンに会いに
いく』などの内田滋。
谷崎の実体験に基づくともされる原作だが、映画化ではさら
にもう1人の登場人物を加えて、ちょっと不思議な感覚の作
品に仕上げられている。

『富美子の足』
富豪の老人がデリヘルで見つけた女性を愛人にし、特にその
女性の足を偏愛する。そしてフィギュア作家の甥に彼女の足
を等身大のフィギュアにすることを命じるのだが、甥が作る
フィギュアを気に入ることはなかった。そして何度も作り直
す甥にある提案をする。

脚本と監督は、2017年『天子のいる図書館』が文部科学省選
定作品になったウエダアツシ。出演は2017年9月17日題名紹
介『あゝ、荒野』などのでんでん、舞台女優の片山萌美と、
2017年4月2日題名紹介『ダブルミンツ』などの淵上泰史。
原作は2010年にも映像化されているようだが。原作では油絵
だったところをフィギュアにすることで、フェティシズムみ
たいなものがより強烈に表現されているように感じた。原作
の時代には考えられなかった展開が面白い。

『悪魔』
主人公は大学入学のため上京した若者。閑静な住宅街の家に
下宿するが、その家には大家の女性と高校生なのに不思議な
色香を醸す娘。そしてその娘を偏愛する親戚の青年がいた。
そして環境の変化に馴染めない主人公の部屋を、娘は度々訪
れるようになるが…。

脚本は山口健人。監督は2014年『オー!ファーザー』などの
藤井直人。出演は2017年9月24日題名紹介『ビジランテ』な
どの吉村界人と、2017年5月28日題名紹介『兄に愛されすぎ
て困ってます』などの大野いと。それに2013年12月紹介『仮
面ティーチャー』などの前田公輝。
この作品では悪魔は誰なのかが焦点になるが、本来なら家の
娘であるはずの設定が、映画では何となく親戚の青年のよう
にも見えて、その辺の微妙なところが気になった。監督があ
えてそうしたのなら、それもありだと思えるが。

公開は、1本目が2018年1月27日より、2本目が2月10日よ
り、3本目が2月24日より、いずれも東京はテアトル新宿他
で全国順次ロードショウとなる。

『スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネット』
        “Starship Troopers: Traitor of Mars”
ロバート・A・ハインライン原作『宇宙の戦士』に基づき、
1997年に第1作が製作されて以降、ほぼ5年置きに製作され
ているシリーズの第5弾。2012年の前作からは日本人監督に
よるフルCGアニメーションで制作されているが、脚本はハ
リウッド製だ。
いつ終わるともしれない昆虫型生命体バグズとの闘いが続く
中、第1作からの主人公であるジョニー・リコは前線を離れ
てテラフォーミングされた火星で新兵の訓練に当っていた。
一方、その火星では地球による植民地支配から離脱する住民
運動も始まっていた。
そんな折、突如火星にバグズの群れが現れる。そこでリコは
新兵の小隊を率いてそれに立ち向かうことになる。その頃、
地球ではバグズと独立運動を一気に消滅させる計画が密かに
進められていた。斯くしてリコの小隊は、バグズと地球の両
方を敵に回すことになるが…。

公開は日本語吹替え版のみになるようだが、オリジナルでは
第1作の出演でブレイクしたキャスパー・バン・ディーンが
声優と製作総指揮も務めている。他にも第1作登場のディナ
・メイヤーが声優で復帰。そして脚本はシリーズ全作に関る
エドワード・ニューマイヤーが担当しているものだ。
1997年の実写版の第1作では、2015年6月紹介『エクストラ
テレストリアル』などの強面マイクル・アイアンサイドが主
人公らをしごく鬼軍曹に扮して、それが当時放送されていた
SFテレビシリーズのイメージとも重なって面白かったもの
だが、それを今回はリコが引き継いでいる感じかな。
その辺のオリジナルへのオマージュみたいなものも感じさせ
る作品になっている。
ただし、ハインラインが1959年に発表した原作は、パワード
スーツというアイテムで、後の『機動戦士ガンダム』などの
原点とも言われたものだが。映画化では第1作を除いてその
ようなイメージはほとんど消失してしまった。
従って映画は、舞台が宇宙なだけの普通の戦争映画といった
感じだが、そこで本作の地球政府が採る戦略みたいなものは
ちょっと短絡的に過ぎるかな。結末もこれでバグズを殲滅で
きるとも思えない。
特にせっかくテラフォーミング装置があるのならその機能を
利用した作戦もあると思うのだが…。とここまで書いて、ホ
ロコーストが思い浮んでしまった。それは正にジェノサイド
な訳だし、それをハリウッドでやるのはちょっと無理なのか
も知れない。
それにしても、太陽系内の惑星に橋頭保を築かれているのに
地球政府のこの対応は、常識的にはかなりやばすぎる訳で、
こんな政府の軍隊では、次回作も思いやられる感じかな。ま
あ5年後が楽しみになってきた。

公開は2018年2月10日より、吹替え版のみで2週間限定全国
ロードショウとなる。

『野球部員、演劇の舞台に立つ!』
福岡県八女市の高校教員が行った10年間に亙る実践記録に基
づく作品。その原作と10年前に出逢った独立プロ所属の中山
節夫監督が、同志のプロデューサーと共に歳月を掛けて地元
を巻き込み、実現に漕ぎ付けたという作品だ。
内容は題名の通りで、春の選抜出場を目指すも県の秋季大会
1回戦で逆転負けを喫した高校球児が、監督から自分たちに
足りないものを学べると言われ、こちらも全国大会を目指す
演劇部に参加するというもの。
その演劇部ではOBが執筆した脚本で、ボクシングをテーマ
にした演劇が創作されており、スポーツで鍛えられた身体の
出来ている球児たちが、主人公とそのライヴァルのボクサー
を演じることになるのだが…。

出演は、2015年3月紹介『忘れないと誓ったぼくがいた』な
どの渡辺佑太朗と、2013年『青空エール』などの舟津大地、
それに2017年4月2日題名紹介『ダブルミンツ』などの川籠
石駿平。3人はいずれも元高校球児だそうだ。
他に、2012年4月紹介『シグナル』などの柴田杏花、2015年
『リアル鬼ごっこ』などの佐々木萌詠、2017年3月12日題名
紹介『トモシビ』などの芋生悠。さらに林遣都、宮崎美子、
宇梶剛士らが脇を固めている。
この種の作品の場合、如何に説得力を持たせるかと、傍観者
にならざるを得ない我々に感動を与えられるかがポイントに
なると思えるが。その点では原作の実践記録に忠実であるこ
とが説得力の原動力と言える。
さらに監督が拘ったというスポーツで鍛え上げられた肉体が
そこにリアリティをもたらす。特に上半身をさらした瞬間の
背中は、これは本物だと思わせてくれたものだ。因に監督は
オーディションの後で筋肉の維持だけは要求したそうだ。
そして感動という点では、今年80歳という監督は実に巧みに
作品を作り上げている。それはフィクションに関る部分と思
われるが、それをあざとくなくナチュラルに描き切るのは、
ベテランの味と言えるものなのだろう。
一方、この種の地元協力の映画では、地元紹介の側面も持た
されるが、その点でもベテラン監督はそつがない。本作では
前半に八女茶の茶畑の緑の風景がインサート映像で巧みに紹
介され、それは清涼剤にもなっている。
そして後半では登場人物の実家という設定で「あまおう」と
電照菊が紹介され、特に電照菊は1本取られたという感じで
上手く織り込まれていた。なお地元は仏壇や石灯籠でも知ら
れるが、それらは高校生に合わないとして断ったそうだ。
地元の協力を得るというのも大変なようだが、本作ではプロ
デューサーの1人が7年間地元に住み込んで粘り強く話を進
めたそうで、そんな本作への想いが、作品にも見事に反映さ
れていると思える作品だった。

公開は2018年2月24日より、東京は渋谷ユーロスペース他、
Tジョイ久留米、小倉コロナシネマワールドなどで全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『コンフィデンシャル共助』“공조”
(北朝鮮で国家機密のドル紙幣の偽造原版が強奪され、その
真実は隠したまま、韓国警察に逃亡犯逮捕のための共助の要
請が届く。そしてちょうど停職中だった主人公に、北朝鮮刑
事に協力し監視する任務が命じられるが…。止めを刺すべき
相手にそうしなかったことで事件が起きる典型みたいな展開
で、やれやれと思ってしまったが。そこを除けば刑事2人の
バディムーヴィとしてはアクションもありで成立している。
ただ北の国家犯罪があからさまなのは、現在の両国の関係の
反映なのかな。韓国では大ヒットしたそうだ。出演は2006年
11月紹介『百万長者の初恋』などのヒョンビンと、名脇役の
ユ・ヘジン。他に「少女時代」のイム・ユナらが脇を固めて
いる。公開は2018年2月に全国ロードショウ。)
『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL』
(すでに公開されているため割愛)
『バーフバリ王の凱旋』“ಬಾಹುಬಲಿ 2:ದ ಕನ್‍ಕ್ಲೂಝ಼ನ್”
(2017年2月紹介『バーフバリ伝説誕生』の続編。原題にも
2とあるが、元々前後編として製作された作品のようだ。前
作で王家の元に戻った主人公が、国民の絶対的な支持や隣国
の美しい姫の愛などを得ながらも、兄との確執によって運命
に翻弄されて行く。そのような物語が壮大なセットや高水準
のVFXと共に展開される。その流れの中には実はかなり予
想外の展開もあって2時間21分の長尺も飽きさせなかった。
ただ物語には親子関係や国王の権限の在り方、奴隷の身分な
ど、多少判り難い部分もあったが、その辺は文化の違いでも
ある訳だし、柔軟に理解したい。でもまあトリッキーなアク
ションや何よりVFXでそれらをカヴァーしている作品とも
言える。公開は12月29日より、全国ロードショウ。)
『犬猿』
(会社の営業担当で生真面目な弟と粗暴なヤクザの兄。家業
を切り盛りする聡明な姉とタレント志望のギャルな妹。そん
な2組が織りなす人間模様。出演は窪田正孝+新井浩文と、
江上敬子+筧美和子。脚本と監督は2016年2月紹介『ヒメア
ノ〜ル』などの𠮷田恵輔。自分も少し歳の離れた兄がいる身
としては、本作ほどひどくはないにしても、こんな感じで面
倒臭かったなという想いにはなる。その辺は上手く描かれた
作品で、確かに犬猿の仲というのは有りそうだ。一人っ子も
多い時代には、正しく描かれるべき作品とも言えるだろう。
正直には面倒臭いだけで、本作のような結末はあまりないの
かもしれないが…。公開は2018年2月10日より、東京はテア
トル新宿他で全国ロードショウ。)
『巫女っちゃけん。』
(2011年『ハードロマンチッカー』などの下関出身、在日韓
国人二世グ・スーヨン監督が、福岡県の宮地嶽神社をロケ地
として撮った作品。宮司の娘で巫女を務めてはいるが全くや
る気のない主人公が、境内で悪戯を働く少年を介して徐々に
自己を啓発して行く姿が描かれる。出演は広瀬アリスとオー
ディションで選ばれた山口大幹。他にMEGUMI、飯島直子、リ
リー・フランキーらが脇を固めている。監督の以前の作品は
かなり過激なようで、本作は初めて人が死なない作品だそう
だ。とは言え本作の台詞はかなり過激だが、それがユーモア
として機能しているところは上手い。国宝もある神社がロケ
地というのもすごい作品だ。公開は2018年2月3日より、東
京は新宿武蔵野館他で全国ロードショウ。)
『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』“西遊記之大聖帰来”
(最近ではチャウ・シンチー監督作品や、ドニー・イェン主
演作品などもある中国の古典を3Dアニメーションで映像化
した作品。同じ題材のアニメーションでは手塚治虫の『悟空
の大冒険』や、近年では『ドラゴンボール』なども知られる
ものだが、アニメ=子供向けということではいろいろ工夫が
なされる。その方策として本作のように子供を語り手兼脇役
に据えるのは有りだと思うが、本作ではそれがあまり上手く
機能しているようには見えなかった。でもまあお子様向けと
いうことではこの程度でいいのかな。中国本国では2015年の
公開時に国産アニメーションでの歴代興行記録を打ち立てた
そうだ。日本公開は2018年1月13日より、東京は新宿ピカデ
リー他で全国ロードショウ。)
『サニー/32』
(2017年11月19日題名紹介『孤狼の血』の白石和彌監督が、
2013年『凶悪』の脚本家高橋泉と再び組んだ作品。因に本作
は、2人が2010年の監督デビュー以前に企画しできなかった
作品への再挑戦だそうだ。発端は13年前の女子小学生による
同級生殺害事件。ネットで犯人が特定され「かわい過ぎる殺
人者」と囃された事件だ。そして13年後、女性教師が拉致さ
れ、拉致犯は彼女をその殺人者だとするのだが…。事件はネ
ットを介して奇怪な様相を呈して行く。出演は先にNGT48
から卒業が発表された北原里英。他にピエール瀧、門脇麦、
リリー・フランキーら脇をが固めている。物語はネット配信
からドローンまで登場して正しく現代という感じのものだ。
公開は2018年2月17日より、全国ロードショウ。)
『生きる街』
(2015年8月紹介『木屋町DARUMA』などの榊英雄監督が夏木
マリを主演に招き、大震災から5年経った宮城県石巻を舞台
に描いた作品。主人公は津波で夫を失った女性。娘と息子が
いるが、娘はヴォランティアで来た男性と結婚して名古屋で
暮らし、息子も街に出たまま家に寄り付こうとしない。そし
て本人は、借り受けた高台の家で民宿を開いていた。共演は
佐津川愛美、堀井新太、イ・ジョンヒョン。他に岡野真也、
吉沢悠、升毅、原日出子らが脇を固めている。震災から6年
経って記憶は心の隅に追いやられている感もあるが、本作で
その現実が改めて胸に突き刺さってきた。韓国人を絡めた脚
本も巧みな作品になっている。公開は2018年3月3日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
『目撃者 闇の中の瞳』“目撃者”
(台湾製の心理サスペンス。主人公が購入した中古車はある
事故の被害に遭っていた。その事故に興味を持った主人公は
経緯の調査を始めるが、それは驚愕の事実を彼に突き付ける
ことになる。話の展開は確かに面白い。だが主人公の意図や
心情が判り難い。それでも物語的にありだと言われれば仕方
がないが、人間性を無視した展開は観ていて居心地が悪いも
のだ。もっともこのように人間性の欠如した連中が増えてい
るというメッセージなら、それもありではあるが…。出演は
共に新進のカイザー・チュアンとティファニー・シュ。他に
2010年11月紹介『モンガに散る』などのアリス・クーらが脇
を固めている。公開は2018年1月13日より、東京は新宿シネ
マカリテ他で全国順次ロードショウ。)
『パディントン2』“Paddington 2”
(2017年6月に亡くなったイギリスの作家マイクル・ボンド
原作による人気シリーズの映画化で、2014年本国公開作品の
続編。前作はペルーからイギリスにやってきた主人公が、ブ
ラウン家で暮らすまでを描いたものだったが。本作ではいよ
いよロンドンでの彼の活躍が描かれる。そして今回はペルー
で暮らす養母の100歳の誕生日に贈り物をするというテーマ
で骨董品の飛び出す絵本を選ぶのだが、それが大冒険を招き
寄せる。出演はベン・ウィショー(声)と、サリー・ホーキン
ス、ジュリー・ウォルターズ、サミュエル・ジョスリン、マ
デリン・ハリス、ヒュー・ボネヴィル。他にヒュー・グラン
ト、ジム・ブロードベント、ブレンダン・グリースンらが登
場する。公開は2018年1月19日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二