井口健二のOn the Production
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2017年09月17日(日) 不能犯

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『不能犯』
2015年5月紹介『戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ!』などを
手掛け、2016年6月紹介『貞子vs伽椰子』では遂にメジャー
デビューを果たした白石晃士監督が、松坂桃李、沢尻エリカ
を主演に迎えたサスペンス作品。
松坂が演じるのは「電話ボックスの男」と呼ばれる殺人鬼。
とある公園に置かれた電話ボックスに殺人の依頼を書いた紙
を貼ると、その男が実行してくれるのだという。そして彼に
狙われた者は確実に死亡するが、その死因は病死や自殺、事
故死など、いずれも殺人が立証できないものだった。
一方、沢尻が演じるのは女刑事。彼女は男の犯行がマインド
コントロールによるものと知り、その犯行を立証せんと奮闘
するが、男はなかなか尻尾を掴ませない。それでも何とか身
柄を確保して任意での事情聴取を始めるが。その席でも男は
尋問する刑事を術中に嵌めてしまう。
しかしその席で、女刑事には男のマインドコントロールの利
かないことが判明する。斯くして女刑事と男との全面対決が
進んで行くことになるが。その時、事態は新たな局面を迎え
ようとしていた。

共演は、2017年2月19日題名紹介『ピーチガール』などの新
田真剣佑、2017年9月3日題名紹介『全員死刑』などの間宮
祥太朗。他に芦名星、矢田亜希子、安田顕、小林稔侍らが脇
を固めている。
作品は、宮月新原作、神崎裕也作画により集英社『グランド
ジャンプ』にて連載中のコミックスに基づくもので、その脚
色は白石監督と、2013年12月紹介『仮面ティーチャー』など
の山岡潤平が手掛けている。
映画の中には催眠術の記録映像なども挿入され、物語が現実
に起こり得るものとして描かれている。その現実と虚構の狭
間が上手く表現された作品だ。しかもそこに白石監督得意の
ホラー演出が施され、そのバランスも良く描かれている。
特に殺人鬼による犯行は、オカルトホラーのような趣で演出
され、そこから現実に引き戻される瞬間が観客にも同時に味
わえるもので、これは新たなサスペンスの手法としても注目
しておきたい。
因に白石監督に関しては、以前からSF的な指向にも注目し
ていたが、本作ではオカルトを科学に接近させたとも取れる
もので、本作の続編も含めて今後の作品にも大きな期待を寄
せる。
それにしても、『コワすぎ!』シリーズでは自らも出演して
正に低予算を絵に描いたような作品だったが、その白石監督
がこの様に立派な作品を作るようになるとは…。正に我が子
の成功を見るような嬉しさも感じてしまった。

公開は2018年2月1日より、全国ロードショウとなる。

この週は他に
『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』
        “Twin Peaks: Fire Walk with Me”
(1990年代初頭に日本でも放送され、一世を風靡したとも言
えるテレビドラマ。その放送終了の翌年に原案者のデヴィッ
ド・リンチ監督により発表されたシリーズの前日譚に当る作
品。当時に観ているかどうかは記憶が定かでないが、今観る
と当時のテレビシリーズのことも思い出され、中々興味深い
作品になっていた。特に細かい描写が記憶を呼び覚まして、
シリーズをもう一度観たくなるものだ。出演は、シェリル・
リー、ヘザー・グラハム、カイル・マクラクランらが同じ配
役で登場の他、キーファー・サザーランド、デヴィッド・ボ
ウイらが新たに参加。公開は9月30日より、「デヴィッド・
リンチの映画」と題されたシリー上映の1本として、東京は
角川シネマ新宿他にて全国順次ロードショウ。)
『エキストランド』
(近年、全国的に広がりを見せるフィルムコミッションを題
材にしたコメディ作品。前作で大失敗し、制作会社を潰した
というプロデューサーが無理難題の脚本を押し付けられ、た
だ映画が好きというだけで事務局を立ち上げた田舎町の職員
を騙して、無茶苦茶な映画製作を開始するが…。出演は吉沢
悠、戸次重幸、前野朋哉、金田哲。脚本と監督は2013年12月
紹介『神奈川芸術大学映像科研究室』などの坂下雄一郎。配
役はそれぞれキャラクターは立つが、全体的にステレオタイ
プかな。物語も如何にもありそうなことばかりが起きて、も
う少しの捻りが欲しい感じがかな。結末を逆にできれば…。
公開は11月11日より、東京は渋谷ユーロスペース他で全国順
次ロードショウ。)
『リュミエール!』“Lumiere!”
(現在の映画の生みの親とされるフランス人兄弟が、1895年
から1905年の間に製作した1422本の短編作品の中から108本
を厳選し、4Kディジタルによる修復を施した作品。有名な
「工場の出口」や移動撮影を行った作品。さらにコメディや
世界各地にカメラマンを派遣したドキュメンタリーなど多様
な作品が紹介される。また初歩的なトリックを施した作品な
どもあり、兄弟の映画への取り組み方が鮮明に判る作品にも
なっている。そして最後には、2017年4月23日題名紹介『ザ
・ダンサー』に描かれたロイ・フラーのパフォーマンスが手
書き着色を施して登場し、正に伝記映画と同じものが見られ
たことにも感激した。公開は10月28日より、東京は恵比寿の
東京都写真美術館ホール他にて全国順次ロードショウ。)
『レゴ ニンンジャゴー ザ・ムービー』
              “The Lego Ninjago Movie”
(情報解禁前のため割愛)
『希望のかなた』“Toivon tuolla puolen”
(フィンランドの名匠アキ・カウリスマキが、中東からの違
法移民をテーマに撮ったヒューマンドラマ。主人公は戦禍を
逃れてフィンランドに辿り着くが、自身の出身地が戦地から
離れていたために難民申請を拒否されてしまう中東出身の男
性。実は国を出た時には妹と一緒だったが、国境での混乱か
ら離れ離れになってしまっていた。そんな男性が妹の行方を
探しつつ、自らの居場所も求めて行く。そこには人間同士の
温かさや逆に諍いなども発生する。恐らくヨーロッパの各地
で起きている出来事が、政治的な背景などは極力排して人間
個人の物語として描かれる。公開は12月より、東京は渋谷の
ユーロスペース他にて全国順次ロードショウ。)
『一礼して、キス』
(加賀やっこ原作少女コミックスを、共に映画初主演となる
2017年3月紹介『ReLIFE』などの池田エライザと「動物戦隊
ジュウオウジャー」中尾暢樹の共演で実写映画化した作品。
前々回題名紹介『覆面系ノイズ』と同様、若い女性の願望を
具現化した物語なのかな。高校3年、最期の全国大会で満足
は結果を残せなかった弓道女子が、譲った後輩の部長から秋
季大会の出場にエントリーを告げられる。そしてその後輩の
男子から恋心を告げられ…。脚本はぴあフィルムフェスティ
バルに入選経験もあるという浅野晋康。監督は『ReLIFE』や
2017年8月紹介『恋と嘘』などの古澤健。ベテランと呼べる
スタッフが手堅く作品を纏めている。公開は11月11日より、
東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)
『ユリゴコロ』
(沼田まほかる原作ミステリーの映画化。余命僅かな父親の
書斎で見つけた手書きのノート。そこには人の死だけを心の
拠り所として罪を繰り返した殺人者の告白が記されていた。
それは真実か?創作か?そして自分との繋がりは? 出演は
吉高由里子、松坂桃李、松山ケンイチ。さらに佐津川愛美、
木村多江らが脇を固めている。脚本と監督は2017年7月2日
題名紹介『心が叫びたがってるんだ。』などの熊澤尚人。所
謂イヤミスと呼ばれる作品のようだが、最近何本か観た中で
は最もそのタイトルに似合った作品と言えるかな。流れる血
の量もそこそこだし、後味も悪い。ただ主演の3人がその心
情をしっかりと表現しているのは良かった。公開は9月28日
より、東京は丸の内TOEI他で全国ロードショウ。)
『あゝ、荒野・前篇』
『あゝ、荒野・後篇』
(1983年に亡くなった寺山修司が唯一残した長編小説の映画
化。舞台は2021年、来る東京オリンピックの翌年を背景に、
新宿歌舞伎町で明日をも知れない境遇で暮らす2人の若者が
ボクシングを軸に自らを取り戻して行く姿が描かれる。出演
は菅田将暉とヤン・イクチュン。他に木下あかり、ユースケ
・サンタマリア、でんでん、木村多江、モロ師岡、高橋和也
らが脇を固めている。脚本と監督は、2016年5月29日題名紹
介『二重生活』などの岸善幸。前後編で5時間を超える大作
で、公開は2部に分けて行われるが、一気に上映された試写
会はかなり強烈だった。でも、このお話を近未来にする意味
はあったのかな? 公開は前編が10月7日より、後編は10月
21日より、東京は新宿ピカデリー他で全国ロードショウ。)
『BRAVE STORMブレイブストーム』
(1970年代の特撮テレビシリーズ「シルバー仮面」と「レッ
ドバロン」を合体させた企画作品。物語は2050年に宇宙人の
侵略により人類が滅びたという背景で、最後の生き残りの兄
弟が過去に遡り、その1人がシルバー仮面となる一方、未来
の技術で巨大ロボット・レッドバロンを開発。それらで宇宙
人の侵略をその発端で阻止しようとするものだ。出演は大東
駿介、渡部秀、山本千尋、タモト清嵐、藤田富、吉沢悠。他
に壇蜜、泉谷しげる、寺脇康文らが脇を固めている。監督は
2009年11月紹介『ウルトラ銀河伝説』などの岡部淳也。まあ
アイデアは寄せ集めだが、往年の特撮ヒーローの復活がファ
ンにどうアピールできるかが勝負だ。公開は11月10日より、
TOHOシネマズ上野他にて全国ロードショウ。)
『ポンチョに夜明けの風をはらませて』
(卒業式を控えた高校生3人が、取り立ての運転免許で旅を
敢行。そこにいろいろな人物が絡む旅の行方は…? これが
男子の夢の具現化かな。出演は太賀、中村蒼、矢本悠馬。こ
れに佐津川愛美、阿部純子らが絡み、染谷将太、佐藤二朗、
西田尚美、角田晃広らが脇を固めている。監督は2009年のデ
ビュー作が世界各地の映画祭で注目を集めたという廣原暁。
物語の展開にはかなり無理もあるが、映画としては成立して
いるかな。まあ男の子の夢ということで理解しよう。原作は
早見和真の青春小説だが、その原作にはないという主人公の
1人の出生の謎に関る写真の裏書の下りは、その過程も含め
て見事だった。公開は10月28日より、東京は新宿武蔵野館他
で全国順次ロードショウ。)
『プラハのモーツァルト 誘惑のマスカレード』
                “Interlude in Prague”
(1984年度のアカデミー賞受賞作『アマデウス』でも描かれ
た音楽家の姿を描いた作品。「フィガロの結婚」が大成功す
るも家族の不幸に見舞われたウィーンの音楽家は、その想い
を振り切るようにプラハにやって来る。そこで依頼された新
作の作曲を始めるが、才能に溢れた若い女性歌手が現れ、音
楽家の生活が狂い始める。出演は、2017年8月6日題名紹介
『ダンケルク』などのアナイリン・バーナード、2016年9月
11日題名紹介『VRミッション:25』などのモーフィッド・ク
ラーク、2016年5月紹介『ハイ・ライズ』などのジェームズ
・ピュアフォイ。監督はジム・ヘンスンの許でVFXを担当
していたジョン・スティーブンスン。公開は12月2日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)
『オトトキ』
(2001年に活動を休止し、2016年に再集結したロックバンド
THE YELLOW MONKEYが、その年に行ったツアーの模様を中心
としたドキュメンタリー。その初日に僕は代々木体育館の横
を通っており、その盛況ぶりは明瞭に記憶している。なので
それなりに気になっていた。作品はコンサートの模様が中心
でファンには結構な作品。さらにデビューから活動休止まで
の貴重な映像も織り込まれて正にファンのための作品と言え
るものだ。ただ傍目から見ると、活動休止の理由や再結集の
経緯などが明確には語られず、それはファンには自明なのか
もしれないが、その辺が僕にはちょっとフラストレーション
だったかな。公開は11月11日より、東京は丸の内TOEI他で全
国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。


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井口健二