井口健二のOn the Production
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2015年09月06日(日) CRASS:SEMI-DETACHED VIDEO COLLEGES 1978-84

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『CRASS:SEMI-DETACHED VIDEO COLLEGES 1978-84』
1977年から8年間だけ活動したイギリスのパンクバンドが、
ライヴの背景用に制作した映像のコレクション。当時VHS
でセルフリリースされたという作品集がDVDで日本初紹介
されることになり、サンプル版を鑑賞した。
収録されているのは5作品だが、その内の最大作“Yes Sir,
I WILL”のみがオリジナルの演奏とリミックスによる2つの
ヴァージョンで収められ、全体で107分に達する本格映画並
みの作品になっている。
その楽曲はアナーコ(無政府主義)と呼ばれる反体制的なも
ので、社会や風俗やあらゆるものに反抗的ないわゆる怒れる
若者たちといった感じの作品だ。その矛先は男女の関係から
反戦にまで向かっている。
実は最初にDVDだけ送られてきて、シャウトする歌詞はほ
とんど理解できなかったのだが、後から歌詞の対訳が届いて
それも把握できた。その内容は男女問題などは成程と頷かさ
れる一方で、反戦の部分は今こそ意味があると言える。
というのも彼らが活動した時期にイギリスはフォークランド
戦争を引き起こしており、その歌詞に歌い込まれている内容
は、今まさに日本が向おうとしている武力国家の姿を髣髴と
させるものなのだ。
そしてその背景の映像には、サッチャー、レーガンの演説の
映像と共に、非武装の市民が追い立てられる姿や、子供と思
われる遺体を無造作に放り投げて積み上げる映像などが繰り
返され、全体国家さながらの光景となっている。
この風景こそが、今の自民党政権が安保法制をその一歩目と
して思い焦がれている日本の近未来の姿だろう。そしてそれ
を止められるのは今しかないのだが…。それを止めようとい
う風潮も興らないのが現実と言える。
僕自身が70年安保世代の人間として、このような反抗精神の
末路の虚しさは痛いほど体感しているものだが、今こうして
これらの楽曲を聞いていると、止められなかったことの悔し
さが今更ながらに甦ってくる。
絶対に今度こそ止めて欲しい。そんな目的のためにも、この
DVDが今の時期に紹介されることに大きな期待を持つ。彼
らの意思を今こそ日本の若者に伝えることに意義を感じる。
こんなことを思わせる作品だ。

本DVDの発売は10月21日。英語・日本語歌詞ブックレット
付で価格4000円+税。発売元:キュリオスコープ。販売元:
ディスクユニオンでリリースされる。
なお、CRASSの関連では5月劇場公開された『Crass: There
Is No Authority But Yourself』というドキュメンタリーも
9月17日にDVDリリースされるようだ。


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井口健二