井口健二のOn the Production
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2015年02月01日(日) 神々のたそがれ

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『神々のたそがれ』“Трудно быть богом”
1981年公開『ストーカー』などの原作者としても知られるロ
シアのSF作家ストルガツキー兄弟の『神様はつらい』を、
2000年公開『フルスタリョフ、車を!』などのアレクセイ・
ゲルマン監督が13年の歳月を掛けて映画化した作品。
物語の舞台は地球を遠く離れた外宇宙の惑星。その惑星には
地球人と同じような人々が暮らしていたが、その文明は地球
より800年ほど遅れた中世のようなものだった。そこに調査
のため科学者の一団が派遣される。
その調査は原住民の暮らしを変えないよう密かに進められた
が、高い知識レヴェルの科学者たちは徐々に神のように崇め
られる存在となって行く。そして科学者たちは少しでも文明
が発展するよう助力を模索するのだが…
こうして20年が経過。しかし原住民たちの暮らしに変化は訪
れず、かえって発展を拒否するかのような反動化が起きる。
そして権力者たちの蛮行が繰り返され、その事態を科学者た
ちはただ傍観しているしかなかった。

出演は、2006年『ミッション・イン・モスクワ』などのレオ
ニド・ヤルモルニクと、『フルスタリョフ、車を!』で主演
を務めたユーリー・ツリーロ。その他のエキストラまで監督
が自分で選んだという配役。因に監督はエキストラとは言わ
ず前景俳優、中景俳優、後景俳優と呼んでいたそうだ。
原作は1964年に発表されたものだが、ゲルマン監督はその直
後から映画化を構想していたそうだ。そして1967年に共同制
作でデビューした監督は自らの長編第1作として1968年には
脚本の第1稿を完成させていた。
ところがこの年には、「プラハの春」として知られるチェコ
スロヴァキアの自由化に対するソビエト政府による弾圧及び
ソ連軍の侵攻が行われ、その状況を予言したかのような本作
の映画化は禁じられてしまう。
その後に原作は、1989年にストルガツキー兄弟も共同脚本に
参加する形でソ連=西ドイツなどの合作で映画化されるが、
原作者は製作途中でドイツ人監督との共同作業を放棄するな
ど散々な結果になった。
その原作が、1989年当時にストルガツキー兄弟も希望したと
言われるゲルマン監督によって2000年に再び着手されたもの
だが、製作は13年の長きに亘り、ゲルマン監督はその完成を
観ずに他界してしまった。
しかし作品はゲルマン監督の手で編集作業も完了し、音楽な
どのリミックス作業の直前まで行われていたということで、
その後を監督としての実績もある未亡人と監督デビューして
いる実の息子が引き継いで完成させたものだ。
とは言うものの上映時間177分の本作は、正直に言ってかな
り長い。これは上記のようにゲルマン監督自身の編集による
ものだが、果たしてそれは公開までも想定したものか否か。
完成品を観てそれを圧縮する可能性はなかったか…
ただ先日、本作をすでに鑑賞していたSF作家の山田正紀氏
と話す機会があり、その際に氏は「でも、主人公たちの遣る
瀬無さみたいなものは実感できるよな」とのこと。その意見
には僕も同感したものだ。
いずれにしても本作は、最初からディレクターズカットが観
られることになったもので、その作品は
間違いなく今年度の
SF映画ベスト10には選ばれるもの。SF映画ファンは必ず
観ておいて欲しい作品だ。
公開は3月21日から、東京は渋谷ユーロスペースほかにて、
全国順次ロードショウとなる。


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井口健二