| 2014年11月09日(日) |
ガガーリン 世界を変えた108分、インターステラー、ミタケオヤシン |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ガガーリン 世界を変えた108分』 “Гагарин. Первый в космосе” 1961年4月12日、ボストーク1号で人類史上初の宇宙飛行に 成功したユーリイ・アレクセーエヴィッチ・ガガーリン少佐 の生涯を描いた作品。 ガガーリンの飛行時間は題名の通り108分であったとされ、 上映時間113分の映画では、その宇宙飛行がほぼ実時間で再 現されると共に、その間の地上での動きやさらにガガーリン 本人の生い立ちなどがカットバックで挿入される構成となっ ている。 そこにはアメリカとの軍事競争で優位に立たんとするニキタ ・フルシチョフ書記長の様子なども描かれる。また両親との 生活や結婚生活、厳しい訓練の様子。そしてガガーリンとは 宇宙一番乗りを争っていたゲルマン・チトフとの間で、何故 ガガーリンが選ばれたかなども紹介される。 一方、ボストークの発射から帰還までの様子は、CGI−VFXも 絡めてかなり克明に描かれる。中でも帰還の様子は、今まで 漠然としか理解していなかった高空での射出という仕組みが 目の当たりに再現され、正しく死と紙一重の危険極まりない 方法であったことが明白に確認できた。 さらに帰還後では、当時のアーカイヴ映像などが紹介され、 その中には日本の様子なども垣間見られた。またその後は重 責に苛まれ、精神的に病んで行ったことはテロップのみでの 記述になるが、それでもそのことまで触れられているのは、 ソ連がロシアになったことを感じさせてくれた。 主演は、今年4月紹介『メトロ42』に出ていたというヤロ スラフ・ザルニン。後半に出てくるアーカイヴの映像と比較 しても違和感がない程度に似た俳優が起用されている。他に フルシチョフ書記長を演じた役者も良く似せていた。 監督はパヴェル・パルホメンコ。初監督のようだが、プロダ クション・デザイナーとしては1980年代の後半からかなりの 本数を手掛けており、1960年代初頭を再現した本作でもその 手腕は発揮されていたようだ。 小学校の頃に学校から『地球は青かった』というドキュメン タリーを観に行った記憶がある。しかし内容はほとんど覚え ていない。因に「地球は青かった」という言葉は日本のみの 報道で実際にはそんな発言はないのだそうだ。 ただまあ打ち上げのシーンなどはあったと思うが、今回はそ れがCGI−VFXも駆使して見事な迫力で描かれている。しかも 帰還の様子は、当時は当然その映像はなかったはずで、それ も今回は目の当たりにすることができる。 アメリカの宇宙開発に関しては、1983年『ライトスタッフ』 などでかなり克明に紹介されたが、旧ソ連の宇宙開発などは ほとんど知ることもできなかった。それが本作では見事に再 現されたもので、それが観られるだけでも満足の作品だ。 公開は12月20日から、東京はヒューマントラストシネマ有楽 町他で、全国順次ロードショウとなる。
『インターステラー』“Interstellar” 2010年7月紹介『インセプション』、2012年7月紹介『ダー クナイト ライジング』のクリストファー・ノーラン監督が 満を持して放つ上映時間2時間49分のSF超大作。 物語の背景は、資源が枯渇し気候異変で植物も育たなくなっ た近未来の地球。植物の消滅は酸素の再生を不可能にし、人 類の余命は計れるほどになっている。そんな中で主人公は、 農業機械の修理で何とか植物を守ろうとしていたが…。 ある日のこと彼の書斎の本棚が妙な形で崩れ、そこから地図 の座標を読み取った主人公がその地点に向かうと。果たして そこには人類の未来を占う施設が隠されていた。そしてその 施設に迎えられた主人公は宇宙の果てへと旅立つ。 だがそこには、時空を超えた驚異の冒険が待ち構えていた。 さらには時間の圧縮で瞬く間に地球での時間が経過して行く 状況の中、主人公は地球に残した幼い娘との絆を信じ人類を 救うための究極の冒険に踏み出して行く。 とまあ物語の概略を書いてみたが、本作にはこの他にも実に 様々な要素が絡まっていて、それらを簡単には紹介し切れな いものになっている。さらにこの作品に掛けるノーラン監督 の想いも伝わってくる感じの物語が展開される。 この作品の製作の経緯に関しては、本ページの製作ニュース では2006年7月1日付第114回、2007年4月1日付第132回で 紹介し、2013年3月16日付の第189回で製作開始を報告した ものだ。 その中で本作には当初はスティーヴン・スピルバーグ監督が 関っていたことも紹介しているが、それを踏まえると本作の 前半には『未知との遭遇』を思わせる展開もあり、ニヤリと させられる。 とは言え全体を見渡すと、本作における『2001年宇宙の旅』 へのオマージュはさらに容易に見出されるところだが、実は 神の存在を根底に置いた『2001年』に対して、本作では人類 自身の行為こそが未来への鍵と主張している。 これは恐らくはスタンリー・クーブリックの『2001年』では なく、アーサー・C・クラークの『2001年』に寄せられたも のだと思うところだ。それは映画の終盤でスクリーンの右下 に映されるディスプレイの映像にも現れている。 そしてさらにその想いは、現在はデヴィッド・フィンチャー の監督が決まっているクラーク原作『宇宙のランデブー』の 映画化に対して、まるで「やらないなら俺に任せろ」と言っ ているような、そんな気分にもさせられた。 出演は、マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ジェシ カ・チャスティン、マイクル・ケイン。マコノヒーの名前は 1997年『コンタクト』で初めて認識したが、本作はその回答 編のようでもある。 他に、2013年9月紹介『死霊館』などのマッケンジー・フォ イ。さらにマット・デイモン、ケイシー・アフレック、トッ ファー・グレイス、エレン・バースティン、ジョン・リスゴ ーら多彩な顔ぶれが脇を固めている。 公開は11月22日から、全国一斉のロードショウとなる。
『ミタケオヤシン』 武蔵野美術大学出身の現代アーティスト加藤翼の姿を追った ドキュメンタリー作品。 加藤が行うアートは「引き興し」と称され、現地で自身が制 作した造形物に何本ものロープを結び付け、それを多数の参 加者の団結した力で引き興すというもの。そこには達成感も 有り、参加型のアートとして成立している。 その「引き興し」を加藤は福島の被災地でも実施し、そこで 引き興された灯台のモニュメントは、参加した被災者たちに 心地よい感情を湧き立たせたようだ。そんな加藤のパフォー マンスアートがアメリカで実施される。 実施場所は、アメリカ合衆国のノースダコタ、サウスダコタ 両州に跨るスタンディングロック・インディアン居留地。こ の場所にはアメリカインディアンのスー族が多く暮し、北部 で最大級の居留地が設けられている。 その場所で加藤は、最初に巨大なティピの引き興しを計画す る。ティピは本来はテントだが今回の造形では引き興しのた めに木材で制作され、その壁面には子供たちなどが参加して 様々な絵が描かれていた。 続いて加藤はそのティピを造形した木材を持参して、かつて インディアン寄宿学校(ボーディングスクール)が置かれた 場所に赴き、そこで校舎を模した造形を制作。今回はそれを 引き興し、さらに引き倒すことを計画する。 そんな加藤の活動が、武蔵野美術大学の同級生だという江藤 孝治監督によって記録されている。因に江藤監督はドキュメ ンタリー制作会社のグループ現代に所属し、本作も製作は同 社になっている。 という作品だが、実は本作ではボーディングスクールの歴史 も一歩踏み込んで紹介されている。この寄宿学校については 2011年6月紹介『ワン・ヴォイス』でも紹介されたが、正に 民族の歴史を奪う同化教育が行われていた。 従って本作は、そんな歴史認識に関する政治的な意識も織り 込まれた作品になっている。実はこの点に関しては、試写後 に会場を訪れていたアーティスト本人とも少し話をしたが、 加藤氏自身もそれは意識しているとのことだった。 そこで僕は加藤氏には、「一つ次元の違う領域に踏み込む」 として応援する旨を伝えたものだが。しかしそれは諸刃の剣 でもあって、アートと政治意識とのバランスは極めて慎重を 要するものにもなる。 そんなことも踏まえながら、このアーティストの今後の活動 にも注目したくなったものだ。 公開は12月6日から、東京は新宿バルト9他で、全国順次の ロードショウとなる。 因に題名はスー族の言葉で「全てのものは連環している」と いう意味とのこと、インディアンの言葉というのは哲学的で 深いものだ。
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