井口健二のOn the Production
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2014年10月05日(日) 6才のボクが、大人になるまで。ダムネーション

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『6才のボクが、大人になるまで。』“Boyhood”
2006年9月紹介『スキャナー・ダークリー』などのリチャー
ド・リンクレーター監督が、制作に12年を費やして描いた少
年の成長ドラマ。
主人公は、物語の始まりで6歳の少年。テキサスの田舎町で
母親と姉と共に暮らしていたが、突然母親がヒューストンの
お祖母ちゃんの家に引っ越すと言い出す。それは母親がもっ
と収入の良い仕事に就けるよう大学で勉強するためだった。
こうして一家はあたふたと出発する。
そんな主人公には父親もいるが、アラスカかどっかに行った
ままで母親とはすでに離婚しているようだ。しかし突然お祖
母ちゃん家にやってきてキャンプに誘ってくれたりもする。
一方、母親は大学で出会った教授と再婚を果たす。その教授
にも2人の子供がいて4人の子供たちは仲良くなるが…
両親の離婚に引っ越し、さらには上昇志向の強い母親の進学
と再婚。そして新しい家族との交流や軋轢など、正に家族に
振り回される少年の飛んでもない成長期が描かれる。そこに
大統領選挙なども絡んで、これはアメリカの縮図と言っても
良い物語なのかもしれない。

出演は、6歳から18歳まで本作の主人公を演じたエラー・コ
ルトレーン。母親役には今年2月紹介『チャールズ・スワン
三世の頭ン中』などのパトリシア・アークェット、時々現れ
る父親役に2013年4月紹介『フッテージ』などのイーサン・
ホーク、そして主人公の姉役に監督の娘のローレライ・リン
クレーター。
リンクレーター監督は1993年の『恋人たちの距離』に始まる
3部作を2013年『ビフォア・ミッドナイト』まで20年掛けて
完成させているが、それらはその時々に物語が創作されたも
のだろう。それに対して本作は当初からの長期計画で、ある
程度の展開は想定されていたと思われる。
しかしそれが監督の思惑通りに進んだのかな。特に2008年の
大統領選挙戦までのそれなりにハイテンションな展開から、
その後は一気に落ち着いた作風になっているのは気になった
ところだ。勿論主人公がアーティスティックな指向になった
ことが原因であることは認めるが…
この監督の心境の変化が、民主党大統領への期待と新大統領
に裏切られたことへの挫折に起因するようにも思えて、僕に
は何となく痛々しくも感じられた。本作はベルリン映画祭で
銀熊賞(監督賞)を受賞しているが、果たしてそれは監督の意
に沿うものだったのだろうか?

公開は11月14日からロードショウが予定されている。

『ダムネーション』“DamNation”
アメリカ合衆国の全土に7,5000基以上あると言われる河川を
堰き止めるダム。そのダムを環境破壊の元凶として除去する
ことを目指す人々の活動を描いたドキュメンタリー作品。
作品の冒頭で、コロラド川フーヴァーダム竣工当時のものと
思われるダム建設を称える米大統領の演説の音声が流れる。
しかしそのダムが、実際にはその建設当時の目的とされた水
力発電や治水、灌漑などの役にたっておらず、さらには重大
な環境破壊を引き起こしている。
そんな現実を捉えて合衆国では、すでに無用とされたダムを
除去する事業が進められている。とは言え、既得権益の塊の
ようなダムの除去が一朝一夕に進んだ訳はなく、そこに至る
歴史や、現状ではそのアピールのためのカヌーでの川下りや
ダムにグラフィティを描く活動なども紹介される。
それはまあ地道な活動というか、一部には法律に触れるもの
もあるものだが、そんな行為が徐々に人々の意識に変革を与
えて行ったのだ。
そしてその結果が本作に繋がるものだが、その作品の見どこ
ろは、何と言っても迫力あるダム破壊の映像。その映像には
隠しカメラで撮影されたというものもあるとされているが、
何たってダムの基部にダイナマイトを仕掛けて、一気に大穴
を開けてしまうのだから…。
以前のテレビ番組などでは、再開発のために既存のビルを爆
破してしまうという映像もよくあったが、アメリカ人のやる
ことは全く途轍もない。
ただし、当初はダムの上部から徐々に削岩機などで破壊して
行く手法も採られたが、それだとダム湖に堆積した泥などが
残され、その撤去にも時間や労力が掛かる。それなら基部に
穴を開ければ一気に泥なども流されてしまうということで、
このアイデアが生まれたのだそうだ。
とは言うものの、こんなことを日本のダムでやったら、下流
域に飛んでもない被害が及ぶのだろうな。そんなことを思い
ながら映像を眺めていた。
逆に言えば、そんなことができるほどの辺鄙な場所にあった
ダムが治水や灌漑、水力発電にしてもその場所からの送電の
問題があったことは容易に理解できるし、そんな無用の長物
を除去して自然環境を復興させることの意義も間違いなく理
解できる。
しかしこの理論を日本にそのまま適用して良いか否か、単純
にこの作品の展開を鵜呑みにして良いものかどうか。作品の
サイトには数多くの識者という人たちのコメントが寄せられ
ていたが、僕には諸手を挙げては賛成しかねる意見もあるよ
うに感じられた。
特に水力に替える発電の問題は、狭い国土の日本では即原発
推進にも繋がるもので、その危険な論調が看過できない感じ
もした。まあ中にはダムも原発も反対などという単純な論調
もあったようだが。
ところでダムが抱える問題点として本作では、サケの遡上な
どの環境問題の他に、アメリカ原住民の歴史的な遺物の水没
なども語られるが、その辺は多少意向は異なるがダム建設に
伴って水没する地域社会での反対運動など、日本でも似た事
態の起きていたことが記憶されるものだ。
しかし歴史的遺物などはダムが無くなって復旧するものでも
なく、失ってしまったものの大きさがこれによって際立つ効
果は認めてもこれを直ちにダムの除去に繋げることはできな
い。それにサケの遡上にしても、それが復旧する保証はまだ
得られていないものだ。
それよりも上述のコロラド川では河口域での塩害問題など、
ヌード写真と共に語るには語り切れない深刻な環境破壊も起
きているもので、その辺が語られないことには些か製作者の
意図も考えさせられた。
同様のことは日本でも、建設秘話の映画化が最近リメイクも
された「黒部川第四ダム」ではダム湖周囲の樹木の立ち枯れ
問題なども起きており、これらも踏まえたもう一段真剣な作
品も求めたくなったものだ。

公開は11月22日から、東京は渋谷アップリンクほかでロード
ショウされる。


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井口健二