井口健二のOn the Production
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2014年05月04日(日) 毎日がアルツハイマー2、野のなななのか

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『毎日がアルツハイマー2〜関口監督、イギリスへ行く編』
横浜市出身で長らくオーストラリアに暮らし、1989年の監督
デビュー作『戦場の女たち』がメルボルン国際映画祭ドキュ
メンタリー部門のグランプリを獲得している関口祐加監督に
よる新作。
関口監督は、1992年にアムステルダム国際ドキュメンタリー
映画祭で観客賞を受賞した第2作(日本未公開)が、アン・
リー監督にそのコメディセンスを絶賛されて、コメディ・ド
キュメンタリーという新たな分野を確立。
2007年には、自らを被写体にした『THE ダイエット』という
作品がオーストラリアのテレビ局でその日の最高視聴率をた
たき出し、2009年度の全米ライブラリー協会賞を受賞したと
のことだ。
しかし2009年、横浜に住む母親が認知症の疑いとなって介護
のため帰国。その母親を被写体にした映像をYouTubeに投稿
したのが話題となり、2012年にその映像をまとめた『毎日が
アルツハイマー』が公開された。本作はその続編となる。
なお僕はその前作を観ていなかったが、今回は試写会場で前
作のDVDを貸し出して貰えたので、併せて鑑賞することが
できた。
その前作では、最初は自転車にも乗れた母親の認知症が徐々
に進行して行く様子が巧みに描写され、それは傍目から見れ
ば面白おかしいものだが、以前にも書いたと思うが自分の親
族に患者を持つ身としては忸怩たる思いもある。
ただし僕自身は親族の介護に直接携わった訳ではないので、
実際に介護をしているとこんな気分にもなるのかな。もっと
も僕の親族の場合は徘徊もあったものだから、その辺の感覚
は多少違っているかもしれない。
という前作からさらに症状が進行しての今回の作品。それは
映画の最初に、「患者の物分りが良くなった」という証言で
始まるが、実はそれが認知症が進行したことの表れなのだそ
うだ。
そして監督は、タイトルにもあるようにアルツハイマー介護
の実際を学ぶためにイギリスへと旅立つ。そのイギリスでは
何カ所かの施設を訪問し、さらに権威と言われる学者らにも
インタヴューをして、その現状を紹介して行く。
そこでは僕自身が学んできた中ですでに知っていたことも多
かったが、これから介護に向かう人には参考になる事柄が数
多く紹介されていた。日本は高齢化社会で認知症の割合も高
いと言われる中で、これは実に有用な作品と言えるものだ。

公開は7月19日より、東京はポレポレ東中野ほかで全国順次
に予定されている。なおポレポレ東中野では、本作の公開に
合わせて前作の特別上映も予定されているようだ。

『野のなななのか』
2012年4月紹介『この空の花』に続く大林宣彦監督の新作。
前作は新潟県長岡市における第2次世界大戦の敗戦秘話に基
づき、その現代との関わりを描いて見せたが、本作では監督
自身が映画学校を主宰する北海道芦別市を舞台に、こちらも
第2次世界大戦の敗戦に関わる物語が展開される。
物語は芦別で長年開業医だった男性の死から始まり、男性の
四十九日の法要までの間に、彼の孫やひ孫たちが訪ねる思い
出話の中で、第2次世界大戦の敗戦時に樺太で起きた悲劇が
浮かび上がってくる。
それはその地で亡くなった人々への鎮魂歌とされると共に、
3・11を踏まえての悲劇の後を生きる人々への賛歌にもなっ
ている。さらに戦前の芦別炭鉱に徴用されて異国の地で亡く
なった朝鮮の人々の話など様々な要素が積み重ねられる。
第2次世界大戦敗戦時の樺太での出来事については、すでに
2010年5月紹介『樺太1945年夏 氷雪の門』などでも描かれ
ていたが、本作ではそれを個人の問題に落とし込んで、より
普遍な悲劇として描いている。
ただし本作の脚本も手掛けた大林監督は、それを単なる悲劇
としてではなく、未来への希望の物語としても描いて行く。
しかもそこには謎の女性を配して、何やらミステリアスな物
語にも仕上げている。

出演は、品川徹、常盤貴子、村田雄浩、松重豊、窪塚俊介、
寺島咲、さらに安達祐実、左時枝、伊藤孝雄、原田夏希、根
岸季衣らが物語を彩る。
前作は上映時間が2時間40分だったが、本作はさらに2時間
51分、間違いなく長大な作品だが、観ている間は飽きさせる
こともなく、別段瞠目のアクションがある訳でもないのに、
あれよあれよという感じの作品になっている。
それに本作ではディジタルで撮影された上に映像合成が多用
され、その合成の映像には大林監督の初の商業映画であり、
僕が初めて大林作品に接した1977年『HOUSE ハウス』を思い
出していた。
実は本作に関しては、先に1月末に行われた完成披露試写も
観させて貰って、その際に安達祐実が、「今までブルースク
リーンの前で演技したことは何度もあるけど、自分がブルー
スクリーンになったのは初めて」と挨拶した。
そのシーンはかなり強烈なものだったが、ふと1977年の作品
でも、確か神保美喜がそんなことをやらされていたのではな
いかな、そんな気もしてきた。大林監督が原点に戻ってくれ
たような、そんな気分にもさせて貰えた作品だ。
僕は「尾道三部作」なども認めない訳ではないが、本作では
一旦原点に戻っての、ここからの新たな大林作品の展開にも
期待したいものだ。

公開は5月10日、11日に北海道で先行上映の後、5月17日よ
り、東京は有楽町スバル座、T・ジョイ大泉他で、全国順次
ロードショウとなる。


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井口健二