| 2014年02月23日(日) |
クジラのいた夏、ギャロウ・ウォーカー 煉獄の処刑人、そこのみにて光輝く |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『クジラのいた夏』 2007年1月紹介『キトキト!』、昨年2月紹介『旅立ちの島 唄〜十五の春〜』などの吉田康弘監督による地方に住む若者 を主役にした青春ドラマ。 吉田監督の作品ではもう1本、昨年公開『江ノ島プリズム』 もあって、その作品の試写は観られなかったが、共同脚本が 1985年『星空のむこうの国』などの小林弘利によるファンタ シー作品ということだったので、映画館に観に行った。 従って、僕は吉田監督の作品を全て観ていることになるが、 いずれも都会でない場所に暮す若者たちの姿を優しいタッチ で描いた作品と言えそうだ。そんな吉田監督が、デビュー作 以来となる富山県を舞台にした作品。 主人公は都会の生活に憧れている若者。仲間は住職の息子や 町工場の社長の息子など、地元にそのまま居着いてしまうこ とが決まっているような連中で、その中で取り敢えず大学に 行ったものの挫折した主人公はちょっと浮いている。 しかしその町で生まれ育った主人公には、初恋や片思いの思 い出など柵も多い。そして彼には両想いだったが都会に旅立 つ時に引き止められなかった彼女への思いもあり、都会への 憧れにはその彼女との再会の夢もあるようだ。 そんな彼のために仲間たちは「大送別会」を開いてくれるの だが…。それは彼の故郷への思いを断ち切らせて、首尾よく 彼を都会に送り出すことができるのか? 出演は、2012年5月紹介『スープ』などの野村周平、2010年 3月紹介『ソフトボーイ』などの松島庄汰、さらに昨年9月 紹介『僕たちの高原ホテル』などの浜尾京介、ボーカルユニ ット「サーターアンダギー」の松岡卓弥。 他に、テレビ『梅ちゃん先生』などの土井玲奈、CM「麒麟 ZERO」などの気谷ゆみか、2010年7月紹介『nudo』 と『神様ヘルプ!』などの佐津川愛美らが脇を固めている。 僕自身は神奈川県平塚市の生まれで、約60km離れた東京には 中学生の頃から1人でロードショウ映画を観に通っていた。 それは当時は洋画は全国一斉ロードショウもなくて地元での 上映は数ヶ月遅れだったから仕方なかったものだ。 従って本作の主人公たちの持つ東京への憧れというのには、 今一つピンと来ないのだが、最近北関東を題材にしたテレビ 番組でその地域の若者が東京デビューの前に柏や大宮で慣す という話を聞いてそんなものかとも思っていた。 しかしそういう気分からすると、富山から東京に来るという のは一大決心なのだろうし、そんな主人公の背を押すかそれ とも引き止めるのかという仲間たちの心情にもかなり熱いも のを感じてしまう作品だった。 ただしそれを決して重くなく、はっきり言ってかなり呆気に 取られるような展開も含めて、優しい眼差しで描いているの も本作のポイントと言えそうだ。 公開は5月3日より、シネマート新宿・心斎橋ほかで、全国 順次ロードショウとなる。
『ギャロウ・ウォーカー 煉獄の処刑人』“Gallowwalkers” 2005年2月紹介『ブレイド3』などのウェズリー・スナイプ スの主演で地獄から蘇った亡者と戦う男を描いたアクション ・ファンタシー作品。 物語の舞台はアメリカ西部開拓時代の荒野。スナイプスが演 じるのは孤高のガンマン。彼は最愛の恋人を悪党一味に殺さ れ、その復讐を果たすが自らの命も絶たれる。ところが彼の 母親がそれを悲しみ、神と契約を結んで彼を復活させる。し かしそれは彼に殺された相手も復活させるものだった。 こうして主人公には殺した相手が復活するという呪いが掛け られ、その復活した奴らは彼への復讐の念に燃えている…と いう悪循環で、主人公と悪党どもの果てしない戦いが続くこ とになる。そのガンアクションと、蘇った悪党どもの奇妙な 生態が繰り広げられる作品だ。 因に本作は2006年にナミビアで撮影が行われたが、その直後 にスナイプスが脱税容疑で拘束され、2010年にはその罪で禁 固3年の実刑が言い渡されて完成が延び延びになっていたと いうもの。ただしスナイプスの仮釈放は昨年4月だが、映画 は2012年10月にイギリスの映画祭で初公開されたようだ。 なお本作に関しては、昨年2月16日付の第187回でも情報を 紹介しているので、興味のある方は参照してください。 共演は、2009年“Burlesque Fairytales”や2003年『ラスト ・ホラー・ムービー』などに出演のケヴィン・ハワースと、 2002年10月紹介『スパイダー・パニック』に出ていたという ライリー・スミス。 それに2005年12月紹介『ロード・オブ・ウォー』などに出演 し、ナミビアの隣国・南アフリカで発行されたの男性雑誌で 「最もセクシーな女性100人」に選ばれたというモデル出身 のタニット・フェニックスらが脇を固めている。 脚本と監督は、日本でも1999年に公開された『エヴリバディ ・ラブズ・サンシャイン』などのアンドリュー・ゴス。共同 脚本にファンタシー作家でもあるジョアン・リエイ(と読む ようだ)。また音楽を、1999年の『恋におちたシェイクスピ ア』でオスカーを受賞したスティーヴン・ウォーベックが担 当している。 『ブレイド』もそうだが、スナイプスはスタイルにこだわる のかな。本作もスタイリッシュと言えば間違いなくその通り の作品だ。ただ、その分のストーリーが弱いというか、設定 などが多少ないがしろにされている面はある。 それは例えば復活した悪党どもが太陽光に弱くてそのために いろいろやっているらしいのだが、その辺の説明が明確では ない。また物語の根幹のはずの母親の存在も、なんとなくう やむやな感じがした。 でも最近の若い観客はストーリーよりアクションやスタイル で観ているようだから、これはこれでいいのかな。まあそう いう種類の作品ということだろう。なおスナイプスにはアク ションシリーズ『エクスペンダブルズ3』への出演の情報も あるようだ。 公開は3月15日から、東京はシネマート六本木ほかでロード ショウされる。
『そこのみにて光輝く』 2010年9月紹介『海炭市叙景』の原作者佐藤泰志が、1990年 自らの命を絶つ前年に発表した唯一の長編小説の映画化。 物語の舞台は『海炭市』のモデルとされる函館。主人公は、 その町で暮らす無職の男。本当は発破士として優れた技術を 持つが、現場での事故を切っ掛けにその職を離れたようだ。 しかし以前の職場からは常に誘いを受けている。 そんな主人公がパチンコ屋でタバコの火を求められたことで 若い男との交流が始まる。その男は浜辺に建つ粗末な家に家 族と暮らしているが、実は仮釈放中の身で、その条件となる 就職先は彼の姉を愛人にする男性から得ていた。 そのため姉は愛人関係を解消することもできず、がんじがら めの生活だった。そんな中に主人公が現れたことから、運命 の歯車が回り始める。それは老父母も抱える一家に一条の光 を見せることにもなりそうだったが…。 原作者の佐藤に関しては先にドキュメンタリー映画も公開さ れて、20世紀に亡くなった作家が21世紀になって俄然注目を 浴び始めたようだが、その作品は21世紀の今にこそ真の理解 を得られる物語だったようだ。 実際にこの映画を観ながら僕は、昨年7月に紹介した青山真 治監督の『共喰い』を思い出していた。田中慎弥の同名小説 を原作とする作品は下関を舞台にしたものだったが、描かれ る背景や家族関係は正に同類と言っていいものだ。 その『共喰い』の原作は2011年に発表され、同年下期の芥川 賞を受賞している。この賞は佐藤が5回の候補になりながら 遂にその手が届かなかったもの。これが時代の皮肉というも のなのだろう。 出演は、2003年『仮面ライダー555』でデビューし、今旬 な俳優の一人と言われる昨年5月紹介『シャニダールの花』 などの綾野剛。昨年12月紹介『ハロー!純一』などの池脇千 鶴。『共喰い』で日本アカデミー賞新人賞受賞の菅田将暉。 さらに高橋和也、火野正平、伊佐山ひろ子、2008年10月紹介 『クローンは故郷をめざす』に出ていたという田村泰二郎ら が脇を固めている。 監督は、2006年11月紹介『酒井家のしあわせ』の呉美保、脚 本は、2011年1月紹介『婚前特急』の高田亮、男性の脚本家 と女性の監督が相乗効果をもたらしたという評価もされてい るようだ。 また撮影は『海炭市叙景』も手掛けた近藤龍人が担当。他に も『海炭市』のスタッフが多数参加している。熊切和嘉監督 作品のイメージも色濃く残る作品だ。 公開は、4月12日から函館シネマアイリスで先行上映された 後、4月19日から東京はテアトル新宿、ヒューマントラスト シネマ有楽町ほかで全国ロードショウとなる。
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