| 2013年09月29日(日) |
僕が星になるまえに、武器人間、ウォーキング・デッド:シーズン3、ハンナ・アーレント、燦燦 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『僕が星になるまえに』“Third Star” 今年6月紹介『スター・トレック イントゥ・ダークネス』 で注目されたベネディクト・カンバーバッチの初主演作で、 2010年のエジンバラ映画祭でクロージングを飾ったイギリス 映画。 カンバーバッチが演じるのは29歳の誕生日を迎えた男性。し かし彼が30歳の誕生日を迎えられないことは、誕生パーティ に集まった彼の家族も友人たちも、彼自身も知っていた。 そして彼が希望した誕生日のプレゼントは、仲間3人との旅 行。それはすでに身体の動きに支障のある彼を特製のカート に乗せ、彼がもう一度見たかった浜辺に行くことだった。 ところが荒野を進むその旅には予想以上の困難が待ち構えて いた。その困難の中で、カートの破損や薬の紛失や仲間割れ などの問題が彼らに襲いかかる。それでも旅は続くが…。 共演は、2005年12月紹介『リバティーン』に出演のトム・バ ーク。本作の後で2011年8月紹介『キャプテン・アメリカ』 に出演のJJ・フィールド。因にフィールドは、2009年4月 に紹介と5月に追記も書いた香港映画『ラスト・ブラッド』 に比較的大きな役で出演していたようだ。それに本作のプロ デューサー補佐も担当したアダム・ロバートスン。 脚本は、俳優出身で脚本は初めてだが本作のプロデューサー も務めるヴォーン・シヴェル。監督は、編集部門の出身で本 作以前には短編作品を3本監督しているハッティー・ダルト ンが担当した。 物語は、最近では比較的目にしたり耳にしたりも多くなって いる題材と言える。従って描く側もそれなりの覚悟が必要と 思われるものだが、脚本家や出演者にもプロデューサーの肩 書きの人がいるのは、何か背景があるのかもしれない。 結末は、個人的には容認し難い部分もあるが、状況を考える と仕方ないかとも思える。人間はどんなに微かであっても希 望を持って欲しいものだが、逆にこういう結末を迎えるのが 彼の人生だったとも言えるのだろう。 そんな結末を描くことが、プロデューサでもある脚本家の特 別な思いのような感じもする。苦難の末にたどり着く浜辺の 静かな風景が、より強くそんな思いを感じさせてくれる作品 でもあった。 なお本作に関しては、“Third Star”という原題の意味が気 になるが、検索した中では“Peter Pan”に出てくる言葉と いうのが有力なようだ。確かに本作でカンバーバッチが演じ ている役名ジェームズは、『ピーターパン』の原作者にも通 じている。 そして彼らが目指すバラファンドル湾がネヴァーランドだと いうのだが…。因に、『ピーターパン』でネヴァーランドが あるのは「右から二番目の星」の方角のようだ。 日本公開は10月26日から、東京はヒューマントラストシネマ 有楽町ほかで予定されている。
『武器人間』“Frankenstein's Army” オランダのCM界で超人気ディレクターというリチャード・ ラーフォースト監督が、原案とクリーチャーデザインも手掛 けた長編デビュー作。 物語の背景は1945年=第2次大戦末期。ソ連軍の猛攻の前に ドイツ軍の敗色も濃厚となった東部戦線で、スターリンの密 命を受けた一部隊がドイツ占領地内の調査に向かう。 その調査の目的はほとんどの隊員には知らされていなかった が、そこには撮影班も同行しており、その一部始終が記録さ れた。その記録映像というfound footage設定の作品だ。 その部隊は激しい戦闘の中を、ドイツ軍がアジトにしていた らしい修道院に辿り着く。しかしそこには虐殺された死体が 散乱し、また墓地が掘り返された痕もあった。 そして修道院に侵入した隊員たちは、工場のようなその内部 と迷路のような地下道、さらに巨大な研究施設を発見する。 そこには全身に電気コードの繋がれた遺体が… 原題を見ればこれが何かは判ってしまうが、この修道院には フランケンシュタイン博士の末裔がいて、そこで最強の武器 となる人造人間が製造されていたというお話。 しかもこの人造人間が、通常のこめかみにボルトの付いた怪 人だけでなく、さらにいろいろな用途向けの改造が施された ものなど様々なクリーチャーで登場する。 それはまあそのクリーチャーのヴァリエーションだけでも楽 しめるものだし、その辺はCM出身らしいサーヴィス精神も 旺盛な作品になっていた。 ただ一言苦言を呈すると、ソ連軍が撮影したfound footage という設定なのに登場するソ連兵のセリフは英語。相手のド イツ軍はドイツ語を話していたようだが、これではなんとも 中途半端だ。 大体この物語でfound footageの設定にする必要があったか 否かも疑問で、物語はそれなりにしっかりしていたし、特に found footage設定に向けた展開があるものでもなく、単に 流行に迎合する姿勢はあまり褒めれらない感じがした。 出演は、ソ連兵役で新人のジョシュア・ザッゼ、部隊のリー ダー役にイギリスのテレビで活躍のロバート・グウィリムが 扮する他、フランケンシュタイン博士の孫役には2009年9月 紹介『エスター』にも出ていたというチェコの名優カレル・ ローデン。 さらに、2008年1月『ライラの冒険・黄金の羅針盤』などの アレクサンダー・マーキュリー、今年1月紹介『アンナ・カ レーニナ』などのルーク・ニューベリー、6月紹介『ワイル ド・スピード/ユーロ・ミッション』などのアンドレイ・ザ ヤッツらが脇を固めている。 本作は先に開催された「米子映画事変」という映画祭でも上 映されたようだが、一般公開は11月2日から、東京はシネク イント他にてレイトショウが予定されている。
『ウォーキング・デッド:シーズン3』 “The Walking Dead: Season 3” 2011年12月にシーズン1(全7話)、昨年6月にシーズン2 (全13話)を紹介した脚本家フランク・ダラボン企画による テレビシリーズの第3シーズン(全16話)。 第2シーズンを過ごした農園を新たな仲間も加えて脱出した 主人公たちは、流浪の旅の中でフェンスに囲まれた刑務所を 発見する。そこはゾンビたちの襲撃から身を守るには絶好の 場所だった。 そこで侵入していたゾンビたちを排除し、新たな生活を始め ようとした主人公たちだったが、そこにはゾンビ化せずに生 き延びていた囚人たちも暮らしていた。しかし元警官である 主人公に彼らを受け入れる気持ちはなかった。 こうして住む場所を分けての生活を始めた主人公たちだった が、実はその近くには元々町のボスだった男が支配する集落 が存在していた。そのボスは兵士となる男女に潤沢な銃器を 与え、街の防御を固めてその中で暮らしていた。 そして住民たちには民主的と思わせる施政を行っていたが、 その実態はある目的を隠した独裁的な組織だった。そのボス が主人公らのグループに目を付ける。しかし協力を拒否した 主人公らと対立し、一触即発の状況となる。 ゾンビが徘徊する終末世界の中で、何も人間同士が対立しな くても…とも思うが、結局こんなところが人間の本性なのだ ろう。第1シーズンの紹介のときにも書いたが、本作に登場 するゾンビはあくまでシチュエーションであって、そこで繰 り広げられる人間ドラマが主題の作品だ。 そしてそのシーズン3では意外な人物の再登場などもあり、 シーズン1から観続けてきた視聴者には存分に楽しめる展開 になっている。特にその後の状況が偲ばれる展開は、設定の 巧さが際立つものだ。 その一方で本シリーズは、主人公らには銃弾に限りがあるこ とから、できるだけ銃器を使わないことが制約され、それは ある種のアメリカ銃社会へのアンチテーゼのようにも見える ものになっている。 それで前シリーズまでは主に斧や西洋弓などが活躍していた が、そこに本シリーズでは日本刀が登場。その切れ味鮮やか な武器がゾンビの首をはねたり、頭部を一刀両断にするシー ンは、正しくCGI-VFXの極致とも言える映像になっていた。 出演は、シーズン1からレギュラーのアンドリュー・リンカ ーン、チャンドラー・リッグス、サラ・ウェイン・コーリー ズ、スティーヴン・ユン、ノーマン・リーダス、メリッサ・ マクブライド。 またシーズン2からのローレン・コーハン、スコット・ウィ ルスン。そしてシーズン3では、アメリカ生まれだが両親の 母国ジンバブエで成長したというダナイ・グリアが見事な女 剣士ぶりを見せる他、2008年6月紹介『ブーリン家の姉妹』 などのデイヴィッド・モリッシーらが脇を固めている。 なおアメリカでは、10月13日からシーズン4がスタートして いる。
『ハンナ・アーレント』“Hannah Arendt” 昨年10月28日付「第25回東京国際映画祭」で紹介したコン ペティション部門作品が日本公開されることになり、改めて 試写を観させて貰った。 背景は1962年にエルサレムで行われたアイヒマン裁判。主人 公はその裁判を傍聴し、後にその記事をアメリカの雑誌に連 載したユダヤ人の女性哲学者ハンナ・アーレント。戦時中に 強制収容所を脱出し、アメリカに亡命した彼女は、誰が見て もその執筆者に相応しかった。 ところが彼女が執筆した記事はユダヤ人社会から思わぬ反感 を買うことになる。それは彼女が「アイヒマンは凡庸で、そ の所業は命令に従っただけ」と論じ、さらにユダヤ人の指導 者たちがアイヒマンに協力していたと暴露したためだ。 これらの論調にユダヤ人社会が反発し、彼女は誹謗中傷の嵐 の中に投げ込まれることになる。そんな彼女は、夫や親友の 女流作家メアリー・マッカーシーに支えられ、ついに教鞭を 執っていた大学の教壇で反論を開始するが… この物語に、後にナチスに入党する恩師との若き日の恋愛問 題や、ドイツ・シオニスト連盟書記長との交流と対立などを 絡めて、アーレントが構築して行く理論と彼女の人生が描か れる。 脚本と監督は、1981年の『鉛の時代』でヴェネチア国際映画 祭金獅子賞、1986年の『ローザ・ルクセンブルグ』ではカン ヌ国際映画祭の受賞も果たしているマルガレーテ・フォン・ トロッタ。 因に、監督が描いた『鉛の時代』の主人公はドイツ赤軍創設 メムバーの1人をモデルにし、『ローザ・ルクセンブルグ』 はドイツ共産党の創設者で、いずれも歴史に名を残す重要な 女性たちを描いているそうだ。 主演は、『鉛の時代』『ローザ・ルクセンブルグ』にも主演 したバルバラ・スコヴァ。共演は、昨年12月紹介『アルバー ト氏の人生』などのジャネット・マクティア、2005年5月紹 介『ヒトラー〜最後の12日間〜』などのウルリッヒ・ノエ テン。 正直に書くと、昨年の映画祭で本作を鑑賞した時には作品の 意図がよく理解できていなかった。それは映画祭の期間中は 毎日4、5本ずつ観ることになるし、その内容を咀嚼してい る時間もない。しかも本作はユダヤ人問題が背景で僕自身の 理解も充分ではなかった。 しかし今回は一応内容を把握した上で作品を鑑賞することに なり、特にアーレントが本当に言いたかったことは理解でき た感じがした。それは「ナチスに学ぼう」と公言して憚らな い政治家のいるような国では、特に心して観るべき作品のよ うにも感じられた。 公開は10月26日から、東京は岩波ホールでロードショウされ る。
『燦燦』 老老介護の問題を描いた2010年制作の短編『此の岸のこと』 が、2011年のモナコ国際映画祭で短編部門最優秀作品賞など 5冠に輝いた外山文治監督による長編デビュー作。 主人公は77歳の女性。長年連れ添った夫が闘病と介護の末に 先立ち、残された彼女は幼馴染で夫の親友だった病院長が主 催する老人会にも参加するが、如何にも老人のリクリエーシ ョンの場には馴染めないものを感じる。 そんな彼女が街でふと目に留めたのは、結婚相談所のウィン ドウに飾られた純白のウェディングドレス。そして「毎日が スタートライン」をモットーとする彼女は、「人生のラスト パートナー」を求めて婚活を開始する。 こうして結婚相談所のカウンターに座った彼女は、意外にも 多い高齢者の登録リストを目にすることになるが…。彼女の 起こした行動は、「そんな恥ずかしいことは止めろ」という 声など、周囲に様々な波紋を広げて行くことになる。 外山監督の前作は、老老介護のかなり悲惨な結末を描いてい たようだが、元々監督は本作のような作品を先に構想してい たそうだ。そのリサーチを続けた中で生まれてきたのが、こ の2作だった。 しかし監督は、まず明暗の暗の部分を描いたことで、明の部 分にはより慎重な対応が必要と思うことになる。そして高齢 者の恋愛を単なる恋愛物語や悪戯な挑戦物語ではない「命の 輝きを取り戻すための応援歌にしたい」と考えた。 こうして誕生した本作の企画は、昨年5月紹介『バルーンリ レー』と同じSKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ主催の若手 育成プログラムD-MAPのシネマプロットコンペティションに 出品され、自身の脚本、監督による映画化が実現した。 出演は、吉行和子、宝田明、山本學、それに2006年6月紹介 『フラガール』でメムバーの1人を演じ、日本映画批評家大 賞の助演女優賞を獲得した田川可奈美。さらに蜷川幸雄主宰 さいたまゴールドシアターの面々が、その他の老人クラブの 会員やお見合い相手などを演じている。 吉行が1935年、宝田が1934年、山本が1937年の生まれだそう だから、正に等身大の演技というところかな。そんなベテラ ン俳優たちの実に楽しそうな演技が見られるのも面白い作品 だ。 それにしても僕はこの人たちの若い頃の演技も覚えているの だから、こっちも高齢者の仲間入り一歩手前かな。そんな高 齢の俳優たちが、意外と若々しく恋愛物語を演じてくれる。 これは確かに高齢者への「応援歌」と言える作品だ。 僕の父親はすでに他界して、母親は90歳を過ぎて最早こうい う状況ではないが、こんな人生の応援歌がこれからの時代に は必要なようにも感じられた。 公開は11月16日から、東京はヒューマントラストシネマ有楽 町の他、全国順次で行われる。
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