井口健二のOn the Production
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2011年08月07日(日) アクシデント、孔子の教え、くまのプーさん、ラビット・ホール、カンパニー・メン、サンクタム(再)、タナトス+追悼

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『アクシデント』“意外”
2010年3月紹介『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』などのジ
ョニー・トー監督が製作を務め、元トー組の助監督で2006年
11月5日付「東京国際映画祭」で紹介した『ドッグ・バイト
・ドッグ』などのソイ・チェンが監督したサスペンスアクシ
ョン。
最初に交通事故で運転していた女性の死亡した現場が写し出
され、続いてかなり込み入った手口で標的を殺害する暗殺団
が描かれる。彼らの手口は極めて周到で、それは事故死にし
か観られない。
そして豪雨の中で次の標的の殺害が実行されたとき、いくつ
かの手違いから主要メムバーの1人が事故に巻き込まれ死亡
してしまう。しかしそれは本当に事故だったのか、自分たち
の手口ゆえに疑心暗鬼が生じる。
さらに怪しい人物を追跡した暗殺団のリーダーは、保険会社
の幹部の介在を確認し、その幹部の住むマンションの下の部
屋に入居してその背後関係を調べ始めるが…。それは次々に
疑惑を呼んで行くものだった。
何しろ暗殺の手口がトリッキーで、それはそんなにうまく行
くはずはないとも思えるものだが、その風が吹けば桶屋が儲
かる的な手口が観ていて存分に楽しめる作品だ。
ストーリー的には、途中でリーダーの過去に関する台詞があ
って、多分それが全てなのだろうと思うが、実は映画の中で
は余り明確には描かれない。でもそんなことは元々監督らの
眼中には無いのではないかな…何しろ描かれる手口にはニヤ
ニヤしてしまった。

出演は、2006年9月紹介『エレクション“黒社會”』などの
ルイス・クー、2009年2月紹介『新宿インシデント』などの
ラム・シュー、今年4月紹介『ドリーム・ホーム』などのミ
ッシェル・イエ、2005年9月紹介『シルバーホーク』などの
リッチー・レン、『冷たい…』などのフォン・ツイファン。
因に、本作の英語題名は‘accident’。中国語の原題は、映
画の中では「イーガイ」というような発音に聞こえたが、そ
れは「事故」というような意味で使われていた。一方、この
原題は日本語では‘accidental’の意味で使われるが、その
ニュアンスの微妙な違いも面白い感じがした。
それにしてもこんな連中が何組も暗躍しているなんて…。こ
れはトー監督らの独自の見解なのかな。

『孔子の教え』“孔子”
中国の国際スター=チョウ・ユンファが、中国の国教ともさ
れる儒教の始祖で哲学者の孔子に扮して、その生涯を描いた
作品。
孔子は紀元前552年、中国の魯国に誕生。周王朝が凋落し、
群雄割拠の春秋戦国の時代。魯も三恒と呼ばれる3士族が軍
を3分して私兵化するなど乱世であった。そんな中で孔子は
庶民の出でありながら、やがては魯の国相代理にまで登り詰
める。
その間には、隣国斉との会談に際して魯公に随行し、以前に
奪われた領地を取り戻すなど功績を挙げるが、三恒の居城の
城壁を取り壊させることに関してはその内の孟氏の居城は破
壊できずに失敗。国政に失望して魯を去る。
その後は弟子と共に諸国を歴訪するが受け入れてくれる国は
少なく、一時は7日間も食料もなく山野を彷徨う羽目にも陥
る。ところが斉が魯に攻め入った際に派遣した弟子が魯軍を
率いて斉軍を打ち破り、その功績もあって孔子も魯に帰国。
その帰国後は国政に関わることは固辞したが、庶民の教育の
必要性などを解き、国家・国民の育成には努めたという。し
かし弟子たちが次々に死去するなどし、やがて隠遁して紀元
前479年73歳で生涯を閉じた。

共演は、2009年1月紹介『四川のうた』などのチェン・ジエ
ピン、5月紹介『酔拳』などのジョウ・シュン、昨年12月紹
介『唐山大地震』などのルー・イー、テレビ出身のヤオ・ル
ー、レン・チュアン。
製作は、『レッド・クリフ』を手掛けた韓三平、脚本も『レ
ッド・クリフ』のメイン脚本家の1人の陳汗。監督は、中国
第5世代の1人とされる胡政が担当した。
孔子と言われると、学生時代に漢文の授業で読まされた「論
語」くらいしか頭に浮かんでこないが、その興した儒教は中
国や、特に最近では韓国の国の体系をなすとも言われている
ようだ。その中心は仁にあるとされる。
しかし中国では、毛沢東「文化大革命」時代には儒教が封建
的な反動思想として弾圧されており、そのためもあってか、
孔子の生涯が映画化されるのは中国映画界では初めてのこと
だそうだ。
それにしても、この映画に描かれる孔子はかなりの策士で、
それが史実にどれだけ忠実かは不明だが、『三国志』の諸葛
孔明も顔負けという感じ。また映画にはCGIによる戦闘シ
ーンや居城の景観などもあって、いまだからこそ出来る作品
という感じだった。

『くまのプーさん』“Winnie the Pooh”
A・A・ミルン原作、E・H・シェパード挿絵により1926年
に発表された童話に基づくディズニースタジオ・アニメーシ
ョン作品。因に物語は、ミルンの原作の中の5つのエピソー
ドを再構成したものになっている。
その物語では、イーヨーがしっぽを無くして森のみんなでそ
の代りを見付けるコンテストを行うエピソードや、プーが見
付けたロビンの書き置きをオウルが読み間違えたことから始
まる騒動などが描かれる。

まあお話は到って他愛のないものだが、現在プー関連のキャ
ラクター商品は、ミッキー・マウスを上回ってディズニーで
は稼ぎ頭になっているそうで、映画もそのキャラクターを全
く裏切らないものにされている。
その本作は、『くまのプーさん』の35年ぶりの新作とされて
いるものだが、これは1966年から74年発表された短編3本を
1977年に再編集して公開した同名の作品から数えてのことの
ようだ。
監督は、2007年10月紹介『ルイスと未来泥棒』などのスティ
ーヴン・アンダースンと、同作でストーリーボードのヘッド
を務めたドン・ホール。また、ストーリー・アーティストに
は1956年『わんわん物語』から在籍しているバーニー・マテ
ィスンが参加している。
ヴォイスキャストは、日本公開は基本的に吹き替えになるよ
うだが、オリジナルも声優の専門家の担当でいわゆるスター
キャストによるものではない。ただナレーションだけは、元
モンティ・パイソンのジョン・クリーズが担当しているよう
だ。
さらにエンディングに流れる主題歌は、2007年12月紹介『テ
ラビシアにかける橋』などの女優のズーイー・デシャネルが
歌っていて、これは日本でも聞くことができるらしい。
なお本作の上映では『ネッシーのなみだ』“The Ballad of
Nessie”という短編が併映される。
ネッシーが乱開発に追われてネス湖に辿り着くというストー
リーには、伝説との関係が多少気になったが、背景に描かれ
た湖畔の古城の姿には、40年ほど前に現地を訪れた者として
は、懐かしさもあり嬉しかった。


『ラビット・ホール』“Rabbit Hole”
オスカー女優のニコール・キッドマンが初の製作も手掛け、
2003年3月紹介『めぐりあう時間たち』で受賞以来のアカデ
ミー賞候補にもなった作品。
ニューヨーク郊外の高級住宅街。庭の手入れする女性に隣家
から食事会への招待が告げられるが、女性は予定があると断
ってしまう。しかし、やがて帰ってきた夫に食事の準備をす
る彼女に予定があった様子はない。彼女には他に何か事情が
あるようだ。
その事情が徐々に明らかにされて行き、さらにそこからの立
ち直りのドラマが繰り広げられて行く。そこには心無い人の
発言や、親身になっているつもりでも相手には傷口に塩を擦
り込むような…そんな人間模様が描かれて行く。
それに傷つき、反発する主人公の姿。それは、自分でも判っ
てはいるがどうにもならない感情の爆発。そしてそれは最愛
の、最も信頼しているはずの夫にまで向けられてしまう。そ
んな中で彼女が安らぎを得たのは…、意外な人物だった。
自分がすでに子育てを完了した身としてはもはやこのような
心配はほとんどないが、以前は常に不安に駆られていたこと
を思い出す。それが実際に起きてしまったときの悲劇。それ
に自分が耐えられるか、そんなことも考えさせられた。

題名からは、主演女優の関係でオーストラリアが舞台かと想
い、生態系破壊で問題になっているウサギの話かと考えてい
たら、題名は『不思議の国のアリス』から採られたものだっ
た。しかもこの題名にはSFファンの興味を引く内容も含ま
れている。
そのSFファンの目から敢えて誤解を生むことを承知で書い
て置くと、本作は映画化もされたスティーヴン・キング原作
『ペット・セメタリー』のSF版と言えるもの。ただし、本
作はSFではないが…、という感じの作品だ。

さらに映画化用の脚色も手掛けた原作戯曲の作者も、監督も
SFに対する理解度が相当に高い人たちと感じられ、その辺
のSFに関わる部分の描き方がファンとしても納得できるも
のになっていた。その描き方に僕は充分に満足したものだ。
その脚本は、本作の原作戯曲でトニー賞とピュリツァー賞を
受賞したデヴィッド・リンゼイ=アベアー。監督は、2001年
12月紹介『ヘドウィック・アンド・アングリーインチ』や、
2007年5月紹介『ショートバス』などのジョン・キャメロン
・ミッチェルが担当した。
共演は、2008年7月紹介『ダークナイト』などのアーロン・
エッカート、1994年『ブロードウェイと銃弾』などで2度の
オスカーに輝くダイアン・ウィースト、2008年8月紹介『ブ
ラインドネス』などのサンドラ・オー、2008年12月紹介『ラ
ーメンガール』に出ていたタミー・ブランチャード、それに
本作で映画デビューのマイルズ・テラー。
監督の前の2作にはかなりトリッキーな面白さも感じたが、
本作では主題を真正面に据えてじっくりと描き切っている。
彼にこんな素晴らしい才能があったとは…。彼を監督に選ん
だ製作者キッドマンの英断にも拍手を贈りたい作品だ。

『カンパニー・メン』“The Company Men”
『ER』などのジョン・ウェルズの製作・脚本・監督で、突
然リストラされた「会社人間」たちの姿を描いた作品。
主人公の1人目は、37歳で大企業の営業部長を務める男性。
年収12万ドルで朝ゴルフも楽しめた優雅な生活が、ある日突
然激変する。彼の在籍する事業部門が業績不振で、大幅なリ
ストラが実施されることになったのだ。
彼が在籍している造船事業は複合企業の礎となった部門で、
現CEOはその設立者の1人だった。しかし現在CEOの頭
にあるのは株価を維持して企業買収を防ぐことだけ。そのた
めには不振事業のリストラが一番手っ取り早い手段だった。
そしてもう1人の主人公は、そのCEOと共に複合企業を育
て上げてきた造船部門のトップ。彼は、6000人の従業員を抱
える部門を守ろう必死に画策するが、もはや会社の(CEO
の)決定を覆すことは出来ない。
こうして1人目の主人公は馘を言い渡され、再就職の道を探
り始めるが、希望年収を半減させても再就職の口はなかなか
見つからない。しかも彼には食べさせなければならない家族
や、住宅のローンも残っていた。
自分自身が数年前に同じような目に合った身としては、主人
公たちの焦りなどは手に取るように判ったし、最初の内は高
を括っているような主人公の姿には、自分もそうだったかな
あとさえ思わされた。
そこには日本とアメリカの違いはあるが、僕も主人公と同じ
ような再就職のセミナーみたいなものに通って、職歴の書き
方や自己アピールの仕方なども練習したから、その辺は同じ
様なものだったなあと納得したりも出来た。
実は試写会では、主人公の焦る姿に対して馬鹿にしたように
けたたましく笑う女声の笑い声も聞こえてきた。その人は多
分こういう目に合ったことなど無いのだろうけど、いざとな
ったときの現実の厳しさは、その内に思い知って貰いたいも
のだ。

出演は、ベン・アフレック、トミー・リー・ジョーンズ。他
に、ケヴィン・コスナー、クリス・クーパー、ローズマリー
・デウィット、マリア・ベロらが脇を固めている。
結末はかなり甘い感じもするが、夢を売るハリウッド映画と
してはこれで良いのだろう。

『サンクタム』“Sanctum”
2月にも1度紹介したが、震災の影響で公開の延期されてい
た作品の公開日が9月16日に決定し、試写が再開された。そ
こで今回は吹き替え版で見直したので、再度紹介をさせても
らう。
実は前回の紹介では多少否定的だったものだが、今回見直し
ていていろいろ訂正させて貰いたくなった。それは前回は字
幕版で観ていて、3Dの字幕はその存在自体が煩わしく、作
品への集中を阻害されていたかもしれないという認識にも到
ったものだ。
物語の舞台は、パプア・ニューギニアの密林の中にぽっかり
開いた陥没孔。そしてその底から広がる鍾乳洞。その大半は
地下水の中に没し、そこをケイヴ・ダイヴィングで探索し、
海に抜ける水路を発見するのが冒険家たちのテーマだ。
しかし探索開始からすでに1カ月以上が過ぎ、スポンサーの
声も厳しくなり始めた頃に、そのスポンサーが恋人の女性登
山家を現地に連れてくるところから映画は開幕する。そして
その現地にはサイクロンも接近していた。
と来れば物語の展開は大体想像がつくが、降雨によってどん
どん水嵩の増す洞窟内に閉じ込められた主人公たちの決死の
サヴァイバル劇が展開されるものだ。
そこで前回の紹介では、この後に続く登場人物たちのいろい
ろな行動に疑問を呈したものだが、吹き替えで観ていると、
登場人物の台詞のニュアンスや、細かい仕種なども気がつく
もので、その辺が前回は鑑賞に集中できていなかったと感じ
たところだ。
そこでは特にリーダーの決断や親子の確執、さらに現状を正
確に把握できないもどかしさなどが交錯して、登場人物たち
の行動にも一定の理解は生じてきた。でもまあかなり考えが
浅はかで甘い印象は変らないが、取り敢えず本作は実話に基
づくものだ。
それに加えて、前回も指摘したソリッド・シチュエーション
・スリラー的なサスペンスはなかなかのもので、特に洞窟内
の閉塞感などは、閉所恐怖症の人には耐え切れないのではな
いかと思わせる。
その一方で、3Dカメラに納められたパプア・ニューギニア
の密林や鍾乳洞の内部の景観などはまさに一見の価値はある
もので、これは出来たらドキュメンタリーでも観たい感じの
するものだった。

製作総指揮は、ジェームズ・キャメロン、監督は、2006年に
“Kokoda”という第2次世界大戦中の日本とオーストラリア
の戦闘を描いた作品で絶賛されたというアリスター・グリア
スン。
出演は、2005年8月紹介『ステルス』などのリチャード・ロ
クスバーグ、オーストラリアのテレビ出身のリース・ウェク
フィールド。他に、2009年4月紹介『ブッシュ』などのヨア
ン・グリフィス、2009年11月紹介『かいじゅうたちのいると
ころ』などのアリス・パーキンスンらが共演している。

『タナトス』
元WBA世界ミドル級で日本人初の王者となった竹原慎二が
原案を提供し、2007〜08年に小学館「ヤング・サンデー」誌
に連載された落合祐介原作コミックスの実写映画化。
主人公は、幼い頃のトラウマから他人との付き合いが上手く
出来ず、一匹狼で暴走族の抗争に助っ人をして金を稼いでい
るような男。ところがある日、族のメムバーが因縁を付けた
ジャージ姿の男の繰り出した1発のパンチが彼を昏倒させて
しまう。
その後、主人公はジャージの背に書かれていたボクシングジ
ムを訪ねるが、件の男はおらず、代りに出た男には1発のパ
ンチも入れることが出来なかった。一方、主人公は目の前で
倒されたことで暴走族からも信用されなくなり…。
こうして再びボクシングジムを訪れた主人公は、彼を倒した
男の素性を知り、さらに強靱なボディを持ちながらも勝利す
ることの出来ないプロボクサーなど、様々なボクサーの生き
様と関りながら自らのプロボクサーへの道を歩み出す。
物語は竹原の自伝と言うものではないようだが、彼が選手生
活の中で見聞きしたり妄想したようなことが描かれているの
だろう。それはそれなりに真実味のあるものでもあるし、観
ていて違和感もなく鑑賞することが出来た。
以前にも書いていると思うが、僕は珍秘らが殴り合っている
だけのお話は大嫌いで、本作も最初の内はそのような色合い
も観えるのだが、そこから後の展開が真っ正直で、そこには
好感が持てたものだ。
しかも本作では、演じている役者たちにボクシングの経験者
が集められているようで、特に後半の試合のシーンの迫力は
なかなかのものだった。それは逆に前半の喧嘩シーンではフ
ァイトポーズが取れないためにぎこちなさが出たりもしてい
るが、それが主人公の成長を描くのにも役立ったようで、妙
な納得もしてしまった。

主演は2008年『炎神戦隊ゴーオンジャー』などの徳山秀典。
共演は、2005年6月紹介『せかいのおわり』で店長役の渋川
清彦、2008年『20世紀少年』などの平愛梨、2008年8月紹介
『キズモモ』などの古川雄大、そして2006年『仮面ライダー
カブト』などの佐藤祐基。
他に元日本ライト級新人王で俳優の大嶋宏成、2003年『仮面
ライダー555』などの大口兼悟。さらに秋本奈緒美、升毅、
梅沢富美男らが脇を固めている。また、竹原やガッツ石松、
輪島功一、薬師寺保栄らの元世界チャンピオンが特別出演し
ている。
脚本、監督、編集はピンク映画、Vシネマ出身の城定秀夫。
低予算でも期日通りに予算以上の作品を作ることで定評のあ
る監督だそうだが、本作でも、恐らく脚本段階から撮影順な
ども考えられた効率的な作品が見事な完成度を観せている。
        *         *
追悼
 日本SF界の巨星とも言うべき作家の小松左京氏が亡くな
られた。
 僕と小松氏のお付き合いは1970年の大阪万博の年に、氏が
中心になって開催された「国際SFシンポジウム」の事務局
に学生アルバイトとして入らせて戴いてからのことだ。それ
から41年間にも亙ることになったが、その間には、氏が葬儀
委員長を務められた故大伴昌司氏の葬儀や、映画『さよなら
ジュピター』の準備会議への参加、「小松左京研究会」の発
足の橋渡しなどいろいろなことがあった。
 そこには様々な思い出も去来するものだが、僕の中では、
「国際SFシンポジウム」の事務局で精力的に活動されてい
たお姿が目に焼き付いて離れない。それは正に、1973年版の
映画『日本沈没』で主人公の肩をポンと叩いて「ヨッ!」と
声を掛けるあの雰囲気そのままだった。そして20歳近くも年
の違う若造の僕らの発言に対しても、いつも真剣に耳を傾け
て的確な答えを出してくださる、そんな面倒見の良い伯父貴
のような方だった。
 そんな小松氏に、僕は最後まで甘え切ったままで終ってし
まった様な気がする。晩年の車椅子生活になられてからは、
ご本人も相当に辛かったであろうと想像されるが、聞けば最
後はご家族に囲まれて機嫌良く旅立たれたとのこと。あちら
の世界には、星さんや矢野さんや、半村さん、光瀬さん、野
田さん、手塚さんなど昔の仲間も大勢待っているはず、今は
そんなSFの同志たちと楽しく再会されているのかな。その
様子を想像しながらご冥福を祈らせてもらう。
 小松さん、長い間本当にありがとうございました。


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井口健二