| 2011年01月02日(日) |
心中天使、洋菓子店コアンドル、英国王のスピーチ、コリン LOVE OF THE DEAD+ベスト10 |
明けましておめでとうございます。 本年もよろしく願いいたします。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『心中天使』 2000年に『溺れる人』という作品を発表して国内外で高い評 価を得ている一尾直樹監督による10年ぶりの第2作。試写前 に監督の挨拶があり、「かなりユニークな作品になったと思 うので、よろしくお願いします」とのことだった。 その物語は、3人の若い男女が、それぞれの場所はばらばら だが同じ瞬間に上方を見上げて失神するところから始まる。 3人はほどなくそれぞれに回復はするが、以後それぞれの生 活の何かがおかしくなっているようだ。 そんな生活の中で彼らは、それぞれの感じる違和感を克服で きないままに生活が破綻して行く。それはそれぞれに独立し た物語ではあるが互いにシンクロしているようで、やがてそ れぞれは重大な局面へとつながって行くのだが… 題名は、プレス資料に書かれた監督の言葉によるとダブルミ ーニングなのだそうで、チラシなどには敢えて「しんちゅう てんし」と平仮名の添え書きがされている。因に英語題名は “Synchronicity”とされるようだ。 それで上記の物語の続きは、題名の漢字から直感されるよう な展開にはならず、これがユニークというか、かなり観客を 混乱させるものになっている。それはある種ファンタスティ ックではあるし、多分僕のような人間が評価しなければなら ない作品なのだろう。 また監督は、プレス資料によると「人類史上、個人が最も孤 独に生きていると思える現代で、その孤独からの脱却を描き たかった」とのことのようなのだが、果たしてこの描き方で 観客にそれが理解されるかどうか。 それは、仮に観客に混乱を与える展開であったとしても、結 論がそれしか観えてこないのであればそれはそれで良いのだ が。僕にはそこまでの結論が、プレス資料を参照しなければ 観えてこなかった。 でもそれは、何度か観れば理解できるものかも知れないし、 その意味ではリピーターを誘える作品ではありそうだ。僕自 身、上記の理解を踏まえた上でもう一度観る機会があれば… とは思っているところだ。 出演は、2007年に川瀬直美監督がカンヌ映画祭グランプリを 獲得した『殯の森』などに主演の尾野真千子と、2006年6月 紹介『夜のピクニック』などの郭智博、それにテレビドラマ 『ゲゲゲの女房』に出演の菊里ひかり。 他に國村隼、萬田久子、今井清隆、遠野あすか、麻生裕未、 風間トオル、内山理名らが脇を固めている。 なお監督は、1996年に作・演出を手掛けた演劇が、発表され た演劇祭の審査委員長を務めていた筒井康隆から絶賛された ことがあるそうだ。また映画の中では、シオドア・スタージ ョンの異色短編集『一角獣・多角獣』の中の一文が繰り返し 引用されていた。
『洋菓子店コアンドル』 江口洋介、蒼井優主演で、洋菓子が人々の心を繋いで行く、 そんなヒューマンなドラマが描かれる。 主人公は、九州から恋人を追って上京してきたパティシエー ル。彼女は恋人が就職したはずの洋菓子店を訪ねるが、その 恋人はすでに辞めて行き先も判らないと言われる。そこで行 く宛てのない彼女は、スタッフ募集していたその店で働くこ とにするが… テストとして自信を持って作ったケーキは、洋菓子店の女性 オーナーシェフからは商品にならないと酷評され、ちょうど 来ていた評論家からもその造り方や出来映えに注文を付けら れてしまう。 しかしオーナーシェフからは働くことを許され、やがて彼女 の作ったケーキを常連客に、「お試し」として出して貰える ようになって行くが…。そのオーナーシェフが突然倒れ、洋 菓子店は休業を余儀なくされてしまう。 こんなお話に、主人公の恋人との再会や、伝説のパティシエ と呼ばれていた評論家の秘められた過去とそこからの再生、 さらに口うるさい常連客のエピソードなどが絡んで、人を幸 せにするケーキを巡る物語が展開される。 実は先に家人に試写を観てもらったが、女性の目から観ると 江口扮する評論家がパティシエ姿で喫煙していたり、厨房で の衛生管理などが気になったようだ。その辺は僕も気にはな ったが、全体としてはそれなりに洋菓子の製作手順なども紹 介されて、最近のスウィーツブームにはうまく適合しそうと 言える作品だった。 ただ僕としては最後のシーンで、評論家の車に同乗していた 蒼井扮するパティシエーヌが奥さんに観えたらどうなるか、 少しヒヤヒヤしてしまったが…。まあそんなことは枝葉末節 のものだ。 共演は、江口のりこ、戸田恵子。他に、加賀まりこ、鈴木瑞 穂、佐々木すみ江、嶋田久作らが脇固めている。 脚本(共同)と監督は、10月紹介『白夜行』も手掛けていた 深川栄洋。前作の厳しい内容のドラマに比べると本作は落ち 着いて観ていられたが、この他にも2008年7月紹介『真木栗 の穴』や昨年1月紹介『60歳のラブレター』なども手掛け る監督は、多作の上にかなり守備範囲の広い人のようだ。
『英国王のスピーチ』“The King's Speech” 1936年12月、兄の英国王エドワード8世が離婚歴のあるシン プソン夫人との結婚のために退位したことから、急遽その跡 を継ぐことになったジョージ6世を巡る物語。 先代の英国王ジョージ5世の次男として誕生したジョージ王 子(ヨーク公)は、幼い頃に左利きを右利きに直されたり、 X脚の矯正などによる精神的重圧から吃音症となり、人前で 話すことや人前に出ることも嫌がる内向的な性格だった。 そんなヨーク公には、後のエリザベス2世女王となるエリザ ベス王女やマーガレット王女を授かった妻がいた。その妻の 勧めでヨーク公は、オーストラリア人で民間人の言語聴覚士 ローグの指導を受け、吃音症は徐々に克服されて行く。 ところがそのヨーク公に、上記の経緯から英国王への即位が 求められる。しかも当時の世界情勢は、ドイツにヒトラーが 現れるなど戦雲が立ち込めていた。そしてその戦争を始める のは議会だが、その国民への説明は国王が行うことが慣例と なっていた。 すなわち即位したジョージ6世には、国民に向かって演説を 行う義務があったのだ。そんな英国王にやがて訪れるドイツ との開戦の日。果たして吃音症の王は国民に向けラジオ放送 されるその演説を、首尾良く行うことが出来るのか… 世に言う「王冠を賭けた恋」として美談のように伝えられる エドワード8世の退位だが、その裏側ではこのようなドラマ ティックな出来事が進行していた。それは吃音症という障害 (しかも王家の)を扱うということで多少タブーだったのか も知れない。 しかしここに語られる物語には、国民のために自らの障害を 克服し、その王としての役目を全うしたジョージ6世の素晴 らしい人物像が描かれているものだ。因にジョージ6世は、 戦時中も戦後もロンドンに留まり、国民と苦楽を共にしたこ とでも知られているそうだ。 そんな英国王の、国民も詳しくは知らなかった秘話が描かれ ている。 出演は、ジョージ6世にコリン・ファース、その妻にヘレナ ・ボナム=カーター、ローグにジェフリー・ラッシュ。他に ガイ・ピアース、ティモシー・スポール、ジェニファー・イ ーリー、デレク・ジャコビ、マイクル・ガンボンらが脇を固 めている。 オーストラリア人のラッシュが初の製作総指揮も手掛け、母 親がオーストラリア人というトム・フーパーが監督。脚本は 1988年のフランシス・フォード・コッポラ監督『タッカー』 などのデイヴィッド・サイドラーが執筆した。
『コリン LOVE OF THE DEAD』“Colin” 製作費は45ポンド(主にロケ先で足りなくなったテープ代) のみ。他は、フェイスブックなどの告知で集まった人たちの ボランティアという基本無予算で製作されたゾンビ映画。 物語の舞台はゾンビ化が蔓延しているロンドン。遠くに銃声 や砲声が聞こえ、テレビではアメリカ政府が国内での原爆使 用を承認したというニュースも報じられている。そんな中で ハンマーを片手に1軒の家に入って行く若者。その腕からは 血が滴っている。 家に入った若者はひとしきりその家の住人らしい名前を呼ぶ が、やがて腕の血に気づき袖をまくり上げる。そこには噛み 跡と思われる傷跡から血が流れ出ていた。そう若者はすでに ゾンビに噛み付かれ、ゾンビ化の道を歩み始めていたのだ。 そんな若者がゾンビの群れに入って人間を襲ったり、そこか ら救出されて実家に閉じ込められたり、さらにゾンビに噛み 付かれるまでの経緯などが描かれる。つまりこの作品は、ゾ ンビの視点からゾンビ映画を描いているものだ。 現代ゾンビ映画の創始者も言えるジョージ・A・ロメロは、 ブーム化しているゾンビ映画について、「死者に敬意を表し て描かなければいけない」と語っているが、本作はまさにそ れを地で行くような作品だ。 実際、多額の資金を掛けて製作されたロメロ=ゾンビ作品の リメイクの中には、到底死者への敬意が表されているとは思 えない作品も数多く観られるが、その意味で本作はロメロ= ゾンビ映画の正統な継承者とも言えるものだ。 しかもこの作品には、ゾンビを遊び半分で襲撃したり、利用 しようとする人間の姿や、それに対するしっぺ返しなど、ロ メロも描き切れなかったゾンビ・ワールドが見事に描かれて おり、それはまさにロメロ=ゾンビの発展形とも言える。 製作、監督、脚本、撮影、編集、録音はマーク・プライス。 大学でコンピュータによる映画製作は学んだが、実際の映画 製作の知識のほとんどは書籍やDVDの特典で付いてくるメ イキングヴィデオから得たという在野の新人が、映画界に新 風を吹き込んでいる。 また、特殊メイクのミシェル・ウェッブと、出演者のアラス テア・カートン、デイジー・エイトケンズ、タット・ウォー リーらは商業作品に参加したことのある経験者だが、彼らも 本作には無償で協力しているとのことだ。 なお、プライス監督の次回作には、“Thunderchild”という 第2次世界大戦を背景にしたホラー作品が、今度はちゃんと 通常予算で準備中だそうだ。 * * 以上が、昨年末最後に鑑賞した試写作品なので、以下には 2010年の個人的なベスト10を紹介させて貰うことにします。 対象は昨年度に日本国内で一般公開された作品で、例年通り ベスト10は、外国映画とSF/ファンタシー映画のそれぞれ について選出してあります。 外国映画 1 フーズン・リバー(2009年12月紹介) 2 ハート・ロッカー(2010年2月紹介) 3 インセプション(2010年7月紹介) 4 白いリボン(2010年9月紹介) 5 クロッシング(2010年2月紹介) 6 オーケストラ(2010年2月紹介) 7 ミレニアム/ドラゴンタトゥーの女(2009年10月紹介) 8 君を想って海をゆく(2010年11月紹介) 9 デザート・フラワー(2010年10月紹介) 10 シチリア!シチリア!(2010年9月紹介) 1位と2位の作品はフィクションではあっても現在の世界 の状況を見事に描いた作品に思えた。3位の作品は視覚効果 やSF映画として優れているのと同時に、描かれるドラマの 巧みさにも感激した。4位の作品もフィクションだが、人間 の心の闇の部分を描き切った作品と思えた。 5位に選んだ作品には、同名のアメリカ映画(2010年9月 紹介)もあってどちらも素晴らしい作品だったが、ここでは あえて韓国映画の方を挙げる。6位の作品はゴールデン・グ ローブ賞の外国語映画部門の候補にも選ばれているが、コメ ディのスタイルの中に見事な人間ドラマが描かれていた。 7位は3部作が一気に公開された内の第1作で、シリーズ の開幕としても登場するキャラクターの新鮮さでも感心した 作品だった。8位と9位は共に題名からは想像もできない厳 しい内容の物語でどちらも感動した。10位は堂々とした歴史 絵巻にこれも感動したものだ。 SF/ファンタシー映画 1 インセプション(2010年7月紹介) 2 月に囚われた男(2010年1月紹介) 3 トイ・ストーリー3(2010年5月紹介) 4 第9地区(2010年3月紹介) 5 ゾンビランド(2010年5月紹介) 6 デイブレイカー(2010年9月紹介) 7 サロゲート(2009年11月、12月紹介) 8 アワ・ブリーフ・エタニティ(2010年8月紹介) 9 ウルトラマンゼロ(2010年12月紹介) 10 ちょんまげぷりん(2010年6月紹介) 1位の作品は、視覚的にも物語でも間違いなくSF映画史 に残る作品と思える。万人に受ける作品でもあったし、特に エンドクレジットに掛かってからの展開が見事だった。それ に対して2位はコアなSFファン向けと言える作品で、この 2作の順位は逆でも良いくらいのものだ。 3位はSF/ファンタシー以外の部分の良さが際立つ作品 だったが、10年ぶりの3部作の結論がまさに完璧に締め括ら れたことにも感激した。それにしても1995年に初めてのフル CGIアニメーションとして登場した第1作を観た時には、 ここまでの発展は考えてもいなかった。 4位はテーマの面白さや製作の経緯などにも興味を引かれ た。なお昨年は、本作の他にも『9』(2010年2月紹介)と 『NINE』(2010年1月紹介)という題名の作品もあって、特 に後の2作品は紛らわしかったが、いずれもそれぞれに興味 の湧く作品だった。 5位のゾンビ映画に関しては、ジョージ・A・ロメロ監督 の『サバイバル・オブ・ザ・デッド』(2010年4月紹介)も 公開されたが、今回はコメディ版の方を選択した。上記の映 画紹介に書いた来年公開の作品もあって、ゾンビ映画の可能 性もますます広がりそうだ。 6位のヴァンパイア映画に関しても、『エクリプス/トワ イライト』(2010年9月紹介)なども公開されて、こちらも ブーム化しているが、本作ではその中でも最も本来のシチュ エーションが活かされており、さらにSF映画としても評価 できる作品だった。 7位はSF/ファンタシーと視覚効果がうまくマッチング していた作品と言えるものだ。同様の作品では、『Gフォー ス』(2009年12月紹介)『アリス・イン・ワンダーランド』 (2010年3月紹介)『アデル』(2010年4月紹介)などもあ ったが、SFと言う観点でこの作品を挙げておきたい。 8位〜10位はいずれも日本の作品。一昨年は過半数の6本 を占めたから、それに比べると多少寂しい感じはするが、そ れなりに頑張ってはいてくれるようで嬉しいものだ。なお、 超大作の方は試写状を貰っていないので選考の対象外となっ ている。 因に、2010年の試写会で観た作品は、映画祭関連を含めて 360本、DVDのサンプルで観た作品が10本の計370本。試写 状を貰ったのに時間の都合などで観られなかったのは昨年も 2本でした。 今年もこんな調子でやっていきますので、何卒よろしくお 願いします。
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