| 2010年11月01日(月) |
第23回東京国際映画祭<コンペティション部門> |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※今回は、第23回東京国際映画祭のコンペティション部門※ ※に出品された残り4本の作品と、その結果について紹介※ ※します。なお文中物語に関る部分は伏せ字にしておきま※ ※すので、読まれる方は左クリックドラッグで反転してく※ ※ださい。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ビューティフル・ボーイ』“Beautiful Boy”(アメリカ 映画) 息子の通っている大学で乱射事件が発生。その犯人は…我が 子だった。そんな子供を育てた親なら、一度は考える究極の 状況に陥った夫婦の物語。 その夫婦はすでに結婚生活に行き詰まり感じていた。母親で もある妻は、大学の寮に入っている息子の携帯に何度も電話 しているが、いつも留守電のままだった。しかしその留守電 に夏休みの家族旅行の相談を入れた日、突然息子から電話が 掛かってくる。 そこにはちょうど父親である夫もいて、3人の弾まない会話 の末に旅行の計画は妻に任されるが、その会話自体にはさほ ど不審な点はなさそうだった。ところがその翌日、大学で乱 射事件が発生。被害者の氏名もなかなか発表されず、不安の 募る中に警官がやってくる。 僕も2人の子供が大学の近くに間借りして家にいなかった頃 には、その方面で事故や事件の情報があると不安が募ったも のだ。そんな時に願うのは、もちろん事件に巻き込まれてい ないことだが、さらにその加害者には絶対にならないで欲し いと考えることもあった。 そんな親にとってこの作品は、正に究極の事態が描かれてい る。そこにはもちろん本作の舞台であるアメリカと日本の違 いもあるかも知れないが、事件とは別のところに描かれてい る人間の行動には共通する部分も多いものだ。 出演は、2008年2月に紹介した『ジェーン・オースティンの 読書会』などのマリア・ベロと、昨年1月紹介『フロスト× ニクソン』などのマイクル・シーン。それに2002年12月紹介 『ケミカル51』などのミート・ローフがちょっと儲け役で出 ていた。 監督のショーン・ウーは、学生時代に撮った短編が2004年の サンダンス映画祭で喝采を浴びたとのことで、本作はその長 編第1作。2007年にヴァージニア工科大学で起きた事件に想 を得た作品とのことだ。
『フラミンゴNo.13』“فلامینگو شماره 13”(イラン映画) イランの山岳地にある流刑の村を舞台に、そこでの流刑人た ちの生活が描かれる。 物語は、刑務官の男が流刑人のチェックのため村を訪れると ころから始まる。そして1人1人呼び出して名簿に拇印を捺 させることで、一通りの人物紹介がされる。 その物語の中心になるのは、未亡人の女性と、違法にフラミ ンゴを撃ったことで流刑に処された狩人の男。それに未亡人 に一方的に恋心を募らせている粗野な男。他には、村長や語 り部でもある詩人や、ちょっと頭の弱いらしい若者などが登 場する。 そして、粗野な男のしつこさに手を焼いた未亡人が、狩人を 新たな配偶者に決めたことから物語は動き始める。それでも 諦めない粗野な男と、フラミンゴにとり憑かれている狩人の 男。やがて男たちの行動が新たな展開を生む。 そんな物語が、四季を通じたイラン山岳地帯の風景と共に綴 られて行く。そこには、民俗楽器で歌う流しの歌手や、詩人 が詩作を朗読する形式のナレーション、さらにはちょっとフ ァンタスティックなシーンなども挿入されている。 ただあまりにも淡々とした物語の展開は、1日に4本も5本 も観ている映画祭の会場では多少体力的に厳しい面もあった ようで、実は、映画の後半にはタイトル通り脚に13の刻印の リングを付けたフラミンゴも登場していたが、見逃した人も 多かったようだ。 監督のハミド・レザ・アリリアンは長編作品は初めてのよう だが、1980年生まれで、大学で映画製作コースに学び、すで に短編や3Dアニメーションの実績もあるとのこと、本作も 落ち着いた演出ぶりに感じた。 なお脚本は、主人公の狩人を演じたラスール・ユーナンが書 いたもので、演出も二人三脚だった可能性はありそうだ。
『ブッダ・マウンテン』“觀音山”(中国映画) 成都の大地震を背景にした2009年が舞台の作品。 成都で奔放な暮らしをしている男2人女1人の若者たちのグ ループと、元は京劇のスターだったらしい年上の女性の4人 を中心に今の中国の状況が描かれる。 女性はすでに舞台は引退しているが、リハーサルに立ち寄っ てはいろいろ注文をつけて若い俳優からは煙たがられている ようだ。そんな女性がアパートの部屋の一部を貸間にし、そ こに男女3人が引っ越してくるが、口煩さは変わらない。 その3人組は、奔放ではあってもそれなりに真面目な暮らし 振りをしていたのだが、女が引き起こしたあるトラブルから 大金が必要になる。一方、彼らに部屋を貸した女性にも何か 特別な事情がありそうだった。 そんな4人が徐々に心を通わせて行き、やがて一つのことに 協力するようにまでなるのだが…。そんな若者たちの成長し て行く姿が、未だに復旧の手が届き切っていない成都と、そ の周辺の山々の大自然の風景などと共に描かれる。 出演は、若手人気スターのチェン・ボーリン、ファン・ビン ビンと、2007年8月紹介『呉清源』や1998年『レッド・ヴァ イオリン』などのベテラン女優シルヴィア・チャン。特に、 女優2人の華やかさが魅力的だった。 監督のリー・ユーは1974年生まれ、大学卒業後に中国中央電 視台に入社、制作したドキュメンタリーでは国内外で多数受 賞しているとのことだ。また、長編劇映画の監督もすでに4 本目だそうで、本作も多少青臭いところはあるが、全体は落 ち着いていた感じだ。 なお上映後に行われたQ&Aの情報によると、結末について シナリオではもっと明確だったがチャンの反対で修正された とのこと。ただ監督も譲らず、現行の曖昧な表現になってい るのだそうだ。
『鋼のピアノ』“钢的琴”(中国映画) 妻には金持ちの男の許に逃げられた男性が、ピアノの好きな 娘を自分の許に置きたいという一念から、廃業した製鋼所の 元従業員らの協力を得て、ゼロからピアノ製作に取り組んで 行く姿を描く。 主人公は元国有工場の職工だったらしいが、工場は閉鎖され 彼自身は葬列などで演奏する楽団のアコーデオン弾きで暮ら している。しかし生活は厳しく、ピアノの好きな娘に楽器を 買ってやることなど夢のまた夢だ。 そんな時、別の男の許に走った妻が突然現れ、離婚と娘の養 育権を要求する。そして娘は、ピアノが弾けるならどちらに 行ってもいいようだ。これに対して主人公は学校からピアノ を盗み出そうとしたり、必死の金策を試みるがいずれも失敗 してしまう。 さらに考えあぐねた主人公は、図書館で見つけたロシア語の ピアノ製作の教本を基にゼロから楽器を作ろうと思い付き、 ピアノを盗もうとしたときの仲間などに声を掛ける。やがて 集まった中間たちは、それぞれの特技を活かしてピアノ製作 を始めるのだが… 元々の中国語でピアノは鋼琴、さらにそれを鋼で作るという のは、多少駄じゃれもあるのかな。ただし、鋼というと日本 語では焼き入れされた鋼鉄の意味だが、中国では鉄製品の全 般を指すそうで、その辺のニュアンスがちょっと違ったよう だ。 なお、上映後に行われたQ&Aの情報によると、ピアノ製作 は映画の進行の通り実際に行われたとのこと。その製作には 専門家の指導も受けたが、残念ながら完成品の音色はあまり 良くなかったそうで、演奏シーンの音色には細工がされてい るとのことだった。
以上でコンペティション部門に出品された全15作品の紹介 を終了。その結果は、 東京サクラグランプリ『僕の心の中の文法』 審査員特別賞『一枚のハガキ』 最優秀監督賞ジル・パケ=ブレネール(サラの鍵) 最優秀女優賞ファン・ビンビン(ブッダ・マウンテン) 最優秀男優賞ワン・チエンユエン(鋼のピアノ) 最優秀芸術貢献賞『ブッダ・マウンテン』 観客賞『サラの鍵』 などとなった。 グランプリの作品に関しては、僕自身の中ではいろいろ考 えるところがあって、これが一番と思える作品ではなかった が、同じニル・ベグルマン監督が前作でグランプリを取った 時も同様の感想だったから、それは仕方がないのかも知れな い。僕の考える映画とはちょっとずれるが、これも映画だと いうことだ。 その他は、大体順当という感じの受賞結果だった。
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