井口健二のOn the Production
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2010年05月09日(日) おのぼり物語、エルム街の悪夢+製作ニュース

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『おのぼり物語』
大阪・枚方生まれの漫画家志望の若者が一念発起して上京、
様々な体験の中で成長して行く姿を描いたカラスヤサトシ原
作の自伝的4駒漫画シリーズからの映画化。
大阪で生まれ育った漫画家志望の青年が、漫画賞の受賞や、
一応は東京の雑誌に連載を得て30歳を前に上京。ところが頼
りにしていた雑誌が上京まもなく休刊してしまい…
それでも漫画家を夢見る青年が、入居したアパートの奇妙な
住人たちや、元同級生なのに仇名は「先輩」の女性、さらに
口先だけの編集者など、いろいろな人物と交流しながら徐々
に東京での居場所を作り上げて行く。
4駒漫画が原作の映画化というのも何本か観ているが、特に
原作がギャグ漫画だったりすると、単にギャグの羅列になっ
たりして、映画としての面白さの発揮できていない作品が多
いように思える。
つまり長編映画である以上は、それなりの物語が必要になる
と思うが、日本の脚本家の多くは、自分勝手な物語は作れて
も他人の作品を、その原作の思想を活かして脚色するのはど
うも苦手のようだ。
そのため、無理矢理に付けられた物語が原作の思想に上手く
マッチしていないと思えることが多いようにも感じる。その
点で言うとこの作品は原作自体が叙情的だそうで、その辺の
感性が脚本家にも理解しやすかったのか、良い感じの物語に
なっていた。
特に、カメラマン志望の「先輩」との物語は良い感じに作ら
れていたし、他にもアパートの住人たちやアパートの大家、
さらに主人公自身の家族の物語など、いろいろなものが盛り
沢山に描き込まれていた。

出演は、主人公の青年役にミュージカル俳優で受賞もしてい
るという井上芳雄が扮して長編映画の初主演を飾り、その相
手役の「先輩」に2004年東京国際映画祭で芸術貢献賞受賞の
『ニワトリはハダシだ』などの肘井美佳が扮している。
その他、編集者役で八嶋智人、大家役で哀川翔、主人公の父
親役にミュージシャンのチチ松村が映画初出演など。脚本・
監督は、高橋伴明や黒沢清、塩田明彦らの助監督を務めてき
た毛利安孝の第1回作品だそうだ。
悪い作品とは思わない。でも、何か一つこれは…と思う所が
ないというか、全体が卒なく納まりすぎている感じがする。
配役も真面も過ぎて、折角のミュージカルスターの映画初主
演なのに、全体に何か華やかさに欠ける感じの作品だった。
それが狙いだったとは思うのだが…


『エルム街の悪夢』“A Nightmare on Elm Street”
1984年製作の名作ホラー映画のリメイク。前作ではロバート
・イングランドが扮した殺人鬼フレディ・クルーガー役を、
2006年『リトル・チルドレン』でオスカー・ノミネートを果
たしたジャッキー・アール・ヘイリーが演じる。
その殺人鬼は夢の中から襲ってくる。だからそいつに遭遇し
たら…2度と眠っては駄目。そんな夢魔の殺人鬼が再び若者
たちを襲い始める。エルム街に住み、高校で同級生になった
若者たち、お互いはそれまでに関係なかったはずの彼らが同
じ夢魔に襲われる。
それは眠った瞬間に別世界に連れ去られ、そこで襲ってくる
夢魔が現実に人を殺すのだ。そして次々仲間が襲われる中、
2人の若者がその謎を解こうとするのだが…そこには、その
街に秘められた忌まわしい過去の事件が隠されていた。
昔、オリジナルを観たときには本当に恐いと思った記憶があ
る。当時はもうこういう仕事もしていたから、この手の作品
には馴れているはずだったが、夢の中で襲ってくるという発
想が、若い頃に金縛りを何度も経験している自分には、正に
壺を突かれた感じだった。
それに物語の全体に破綻が少なく、普通なら「これはない」
と思える部分が見当たらないから、正に論理的にも逃げ場が
ないという感じにもさせられた。そのくらいに良くできた脚
本に正直脱帽した作品だった。
そしてオリジナルからは何本もの続編とテレビシリーズも作
られ、中には矛盾する作品もあったが、概ねオリジナルの思
想は受け継がれて、その他のスプラッター作品とは一線を画
した作品は、僕にはお気に入りのシリーズだった。
そんな作品のリメイク。僕にとって再訪の世界は、手の内が
判っている分、昔の恐怖感は多少は薄れたが、それでもタイ
ミングの良いショックシーンの演出には嬉しくもなった。正
直には、もう一度「初めて」見たかったものだ。

出演は、2009年12月紹介『エクトプラズム』などのカイル・
ガルナー、今年10月に新作の“The Scial Network”が全米
公開されるルーニー・マーラ、昨年6月紹介『96時間』に
出ていたケイティ・キャシディ。
さらに2008年10月紹介『サラ・コナー クロニクルズ』でジ
ョン・コナー役のトーマス・デッカー、2009年1月紹介『ト
ワイライト』以降のシリーズに出演しているケラン・ラッツ
らが若者たちを演じている。
ウェス・クレイヴン創造のキャラクターを基にした脚本は、
2002年3月紹介『グラスハウス』などのウェズリー・ストリ
ックと、現在撮影中“The Thing”のリ・リメイクも手掛け
たエリック・ハイセラー。監督はMTV出身のサミュエル・
ベイヤー。製作は『トランスーマー』などのマイクル・ベイ
監督主宰のプラティナム・デューンが担当した。
本作では基本の世界に立ち返って、殺人鬼が再びシリーズを
歩み始める。心機一転の作品で新たなファンを獲得し、新規
のシリーズが発展することを期待したい。
        *         *
 今週はゴールデンウィーク明けで観に行った試写会の数が
少なかったので、今までに紹介しそびれた作品も含めて製作
ニュースを纏めて紹介しておこう。
 まずは続報で、前回IMAXから発表された“The Hobbit”の
上映計画に絡めて報告した“Batman 3”に関して、その全米
公開日を2012年7月20日とすることが、ワーナーから公式に
発表された。
 その発表によると、脚本は前2作の監督を務めたクリスト
ファー・ノーランのアイデアに基づき、『ダーク・ナイト』
を担当した実弟のジョナサン・ノーランと、『バットマン・
ビギンズ』で協力したデイヴィッド・S・ゴイヤーが共同で
執筆しており、それが完成し次第クリストファーの監督で映
画化が進められるとのことだ。
 因に、2005年に公開された『バットマン・ビギンズ』の興
行成績は全世界で3億5200万ドル、2008年公開の『ダークナ
イト』の成績はいろいろあって10億ドルにも達したとのこと
で、その第3作への期待は極めて大きいようだ。
 なお前回の報告の中で、この他に挙がっていた作品につい
ても説明しておくと:
 まず“Dark Shadows”は、2008年6月15日付第161回でも
紹介した往年のテレビシリーズの映画化で、以前の情報では
ジョニー・デップが主演を希望し、ティム・バートン監督の
期待もあるものだ。
 “Fury Road”は、2009年11月8日付などで紹介した“Mad
Max 4”のことで、ジョージ・ミラー監督が計画を進めてい
る。以前の紹介では、シャーリズ・セロンの出演の情報があ
ったが、それはキャンセルされたようで、前回紹介のトム・
ハーディ(今年3月紹介『ザ・エッグ』にも出ていた)の他
には、『タイタンの戦い』のニコラス・ホルト、2007年11月
紹介『ディセンバー・ボーイズ』などのテレサ・パーマー、
2007年9月紹介『ブレイブワン』のゾーイ・クラヴィツらの
出演が発表されている。
 “Gravity”は、今年2月頃にアンジェリーナ・ジョリー
主演のSF作品ということで突然話題になった作品で、実は
ここでも取り上げるつもりだったのだが、原稿を書き始めた
直後にジョリーの出演がキャンセルされたと報じられ、掲載
を取り止めていた。因に脚本と監督はアルフォンソ・キュア
ロンが手掛けるもので、大宇宙が舞台のスリラーと紹介され
ていた。
 そして“Superman”は、現状はクリストファー・ノーラン
が製作総指揮を務め、デイヴィッド・S・ゴイヤーの原案・
脚本で進める計画が濃厚となっており、公開は2013年の予定
とされている。
 ということで、現状“Fury Road”以外はかなりあやふや
な感じの計画ばかりだが、どの作品もSF/ファンタシー系
と言ってよい作品なので、期待して待ちたいものだ。
        *         *
 次も続報になるが、前々回紹介した“Men in Black 3”に
関して、ウィル・スミスの主演とバリー・ソネンフェルドの
監督、さらに2012年5月25日の全米公開日と、撮影を3Dで
行うことがソニーから正式に発表された。なお公開日は前回
は別の日付を報告したが、それは誤報だったようだ。
 また脚本は、ローウェル・カニンガムの原作コミックスに
基づいて『トロピック・サンダー』などのイーサン・コーエ
ンが執筆したシナリオに対して、現在は『天使と悪魔』など
のデイヴィッド・コープが磨きを掛けており、そのシナリオ
に基づく撮影は今年の秋に開始されるとのことだ。
 因に配役で、もう1人のエージェントKを演じるトミー・
リー・ジョーンズ及び若き日のKを演じるジョッシュ・ブロ
ーリンは、最終的な交渉に入っているとのことだが、サッシ
ャ・バロン・コーエンについては決定ではなくなっていた。
いずれにしてもエージェントJが時間流を遡る冒険は間違い
なさそうだ。
 ただしこれで3月28日付紹介の“The City That Saild”
へのウィル・スミスの出演は無くなることになりそうだが、
その作品もSF/ファンタシー系と言えるもので、その辺は
ちょっと残念な感じもする。何とかどの作品もポシャらずに
実現して欲しいと思うものだ。
        *         *
 続いてはいろいろ関連する情報で、まずはトム・クルーズ
の主演によるシリーズ第4弾“Mission: Impossible 4”の
全米公開を、2011年12月16日に行うことがパラマウントから
発表された。
 また、このアクション映画の監督を、2004年『ミスター・
インクレディブル』や、2007年『レミーのおいしいレストラ
ン』などのアニメーション監督ブラッド・バードが行うこと
も併せて発表されている。因にバード監督には、“1906”と
いう作品で先に実写デビューという計画もあったはずだが、
その前に本作を手掛けることになるようだ。
 脚本は、クルーズと、シリーズ前作を手掛けたJ・J・エ
イブラムスの原案から、エイブラムス製作のテレビシリーズ
“Alias”などを手掛けているジョッシュ・アップルバウム
とアンドレア・ネメックが執筆したもので、内容は明らかに
されていないが、シリーズ前作もよく似た体制で作られてい
たから、大体同じような展開のものになりそうだ。
 一方、前作を監督したエイブラムスには、スティーヴン・
スピルバーグとの共同製作で“Super 8”という作品を監督
することが発表された。
 この作品は、「スーパー8」という言葉が昔の8ミリフィ
ルムのカメラを指すことから、一時はエイブラムスが2008年
に製作した『クローバーフィールド』の続編ではないかとい
う情報も流されていたが、現状でそれは否定されたようだ。
ただし内容については、エイブラムスが「自分が若い頃に大
好きだったスピルバーグの初期の作品からヒントを得た」と
の発言もしているもので、ファンタスティックな内容が期待
されている。
 そしてこの作品が2011年の公開に向けて今年の秋に撮影さ
れると、それに続けてエイブラムスは、2009年に前作を発表
した“Star Trek”の続編を、2012年の公開に向けて製作す
る計画とのことだ。
 この続編に関しては、昨年4月1日付第180回でも報告し
ているが、パラマウントではかなり早い時期から契約も進め
ていたもの。後はエイブラムス側がそのタイミングを観てい
たようで、今回の発表でそれが2012年と確定されたものだ。
主な出演者も再登場する見込みだが、これで新たなシリーズ
が定着することを期待したいものだ。
 ということで、2012年には“Star Trek”の続編も観られ
そうだが、上記の“Batman 3”“Men in Black 3”もこの年
の公開予定だし、さらにこの年には“The Hobbit”の第1作
や1月17日付で報告した“Spider Man”の新作、前々回報告
の“Monsters,Inc.”の続編、4月4日付報告のワーナー版
『ゴジラ』、1月3日付で報告の“John Carter of Mars”
なども予定されていて、何とも華々しい年になりそうだ。
        *         *
 もう一つ続報で、4月25日付で報告した1982年公開『ダー
ク・クリスタル』の続編“Power of the Dark Crystal”の
製作を、オーストラリアで3Dで開始するとジム・ヘンソン
・カンパニーから発表された。
 この計画では、2006年2月15日付第105回でも紹介したよ
うに再び力を持ち始めたクリスタルを永遠の葬るまでの冒険
が描かれることになっているが、その脚本にはバズ・ラーマ
ン監督の『ムーラン・ルージュ』などを手掛けた脚本家のク
レイグ・ピアースも参加しているようだ。そして監督には、
昨年のトロント国際映画祭で、“Daybreakers”というSF
スリラー作品を発表したピーター&マイクル・スピーリグと
いう兄弟監督の起用も発表されている。
 愛嬌のある人形劇で知られるマペッツだが、そこに登場す
るのはモンスターたちであり、その世界観には独特のものが
ある。そんな世界観の極致とも言えるのが1982年の作品。そ
こに描かれた世界が再び観られるのも楽しみだ。
        *         *
 最後はヨーロッパ発の情報で、2008年3月と2009年10月に
紹介した『●REC』シリーズ。その第3作、第4作の計画
が、スペインのFilmax社から発表されている。
 全編が登場人物によるヴィデオカメラで撮影されたという
設定のこの作品は、巧みなカメラワークと、特に第2作では
その編集の上手さでも、先行の類似作品を見事に超える作品
になっていた。その作品は、実は前2作はいずれもジャウマ
・バラゲロとパコ・プラザという2人の共同監督だったが、
今回の発表では、2011年秋に公開予定の“[Rec] Genesis”
がプラザ、2012年の公開予定の“[Rec] Apocalypse”はバラ
ゲロの監督とされており、それぞれが単独で手掛けることに
なるようだ。
 その理由は明らかにされていないが、2人の監督は以前は
それぞれ独立して監督をしていた人たちであり、また今回は
バラゲロが別の監督作品を単独で手掛けるという状況もある
ようで、そのため第3作はプラザが単独で監督し、その後に
バラゲロがシリーズ・ファイナルとされる第4作を手掛ける
ことになったのかもしれない。
 いずれにしても、シリーズの第3作と第4作はあまり間を
置かずに観られることになりそうだが、第1作の単独カメラ
から第2作ではマルチカメラに進化したカメラの活用が、今
度はどのような進化形をとるか、その完成が待ち遠しい。


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井口健二