| 2010年03月07日(日) |
アヒルの子、ビルマVJ、桃色のジャンヌ・ダルク、BOX 袴田事件 命とは+製作ニュース他 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『アヒルの子』 愛媛県出身で映画監督を目指している女性が、自分の幼い頃 からのトラウマである家族との諸々の関係を精算して行く姿 を追ったドキュメンタリー。 作品は、最初に自殺をほのめかす監督自身の姿から始まり、 自らが家族と過ごしてきた期間の自分自身の思いや、両親と 2人の兄及び1人の姉に対する思いを綴って行く。そこには かなり厳しい現実も語られるものだ。 さらに監督は5歳のときにヤマギシ会の幼年部に1年間入れ られたことがあり、そのことについても検証が行われる。因 に監督自身には、ヤマギシ会に入れられたこと=親に捨てら れたという想いがあり、その一方でヤマギシ会にいた期間の 思い出が全くない。 そこで映画の後半では、ヤマギシ会で何が行われていたのか を、当時の名簿を頼りに全国に散らばる同級生を訪ね歩いて その思い出を聞きながら、それによって自らの記憶を蘇らせ て行く旅にもなっている。 なお、監督が時折見せる過剰な感情表現に関しては、1999年 の映画『17歳のカルテ』に描かれた「境界性人格障害」と 診断される部分もありそうだが、僕自身が以前にこの障害に 関して学ぶ機会があったこともあり、その点では興味深かっ た。 ただ、20代後半になってもこの障害が克服できていないのは かなり心配だが、試写会場に現れた監督本人の様子はそれな りに良好だったから、この作品を作ったことで克服できてい るのかな。それならそれも良いことだろう。 作品はヤマギシ会の協力も得て製作されているので、批判的 な部分は極力押さえられているが、それでも監督の思いが伝 わってくるのは、上手い構成ということなのだろう。僕自身 が以前からこの会に感じていたことが上手く描けているよう にも感じられた。 実際、全国のヤマギシ会の同級生を訪ねて、徐々にその隠さ れた実態が明らかにされて行く映画後半の下りには、ミステ リーの謎解きのような面白さもあり、その結末も見事なもの だった。因に、僕自身が考えていたヤマギシ会の実態は当ら ずも遠からずのようだ。 公開は、沖縄にルーツのある監督が同じく家族の問題を描い たドキュメンタリー『LINE』と併映で、今年5月のポレ ポレ東中野を皮切りに全国順次の予定になっている。
『ビルマVJ』“Burma VJ” オスロに本拠を置く、在外ビルマ人活動家による民主化支援 メディア「ビルマ民主の声」から発信される軍政ミャンマー 国内の圧制の模様を伝える映像。その衝撃的な映像がどのよ うにして撮影され、如何にして海外に発信されたかを追った ドキュメンタリー。 もちろんそこには、軍事政権による民主化勢力弾圧の様子も 克明に描かれる。そこでは、2007年9月に僧侶たちが立ち上 がった民主化要求デモとその弾圧の様子や、その中で起きた 日本人ジャーナリストに対する銃撃の瞬間などが実写の映像 で綴られている。 軍政ミャンマーの国内事情に関しては、2008年『ランボー/ 最後の戦場』などでも多少は描かれたが、本作が描くのは都 市部に於ける正に民主化運動の最前線。それが若きヴィデオ ジャーナリスト(VJ)たちが生命を賭して撮影した映像に よって描かれる。 しかし、その素材となっているビルマVJたちによる記録映 像は断片的且つ膨大であり、その撮影場所や日時なども不明 確であったようだ。本作は、それらの場所をGoogleアースな どで特定し、時系列に並べ直して構成・編集されたものだ。 さらに本作では、状況の流れを理解しやすくするために、海 外に逃れた1人のVJを設定し、彼の許に情報を集約すると いう形式で物語が整理されている。従ってここには一部に再 現映像が含まれてはいるが、それが真実を歪めているような ことはなさそうだった。 ただし、日本人ジャーナリスト長井健司氏の射殺の情報に、 外国人ジャーナリストが殺されたことで状況が変わると期待 するシーンには、その後の日本政府の腰砕けに見える対応も 含めて複雑な気分にさせられた。 それにしても長井氏の銃撃シーンは、明らかに2メートルも 離れていない位置からの彼個人を狙った射殺に観えるが、こ れを至近距離からの銃撃に特有の火傷がないなどの理由で、 10メートル以上離れた流れ弾として日本政府が言い包められ ていることには納得できなかった。 まさかこのシーンが再現映像にも観えなかったが… 現状で、アウンサンスーチー女史の軟禁は解かれていないま まだし、ビルマの民主化への道はまだ遠くも見えるが、小型 カメラのヴィデオ映像がその目的達成への道程を克明に伝え てくれることに、今後も期待を寄せたい。
『桃色のジャンヌ・ダルク』 1976年生まれ、一浪して入学の国立東京芸術大学は中退する も、2005年には「幼なじみのバッキー」という絵本作品で、 第10回岡本太郎現代芸術賞に入賞という女流アーティスト・ 増山麗奈を追ったドキュメンタリー。 映画は、巻頭で国会議事堂前にピンクのビキニ姿で登場し、 その示威行動が警察の妨害を受けるシーンから始まり、母乳 アートと称するパフォーマンスや、さらに米軍占領下のイラ クに赴いての地元芸術家と交流など、とにかく行動力溢れる 彼女の姿が綴られる。 その間には、芸大在学中からの卒業製作を拒否=中退などの 行動や、結婚・不倫・離婚・再婚などの彼女自身の生き様も 再現ドラマを含めて描かれるが、それらは何れも現状社会へ の不満に基づくものであり、それらがある種小気味よく描か れた作品だ。 監督の鵜飼邦彦は1950年生まれ。1970年代までの日活でアク ションやロマンポルノの編集を手掛け、独立後は武智鉄二監 督による1980年『白日夢』を始め多数を担当したベテラン編 集者が、2006年に増山のパフォーマンスに興味を持ち、以来 撮影を続けているそうだ。 つまり監督は、なし崩し的に終ってしまった70年安保世代の 人でもあった訳で、僕自身も同じ感覚と思われる監督自身の 欝々とした現代社会への不満が、増山麗奈という素材を得て 表現された作品とも言えそうだ。 そしてそれは、大人の見識も踏まえて見事に表現されたもの であり、興味本位や生半可な過激さに走ることもなく、情に も流されずに増山自身を捉えることに務めている。その監督 の誠実さがこの作品を観やすくし、彼女自身の訴えも明確に 伝えているものだ。 今の世の中、女性が元気とは常々言われているところだが、 こんなに元気な女性の姿を観せられると、確かにその通りだ なあとも思ってしまう。この年代の男性で彼女に対抗できる 男子など果たしているのだろうか。 それからこの作品では、中に登場する彼女の絵画の素晴らし さも注目したいところだ。特にそのデッサンの確かさは誰の 目に明らかで、その才能が彼女を支えていることも理解でき た。 それにしてもこの映画では、国会議事堂前で撮影された最初 のシーンの掴みが見事で、それで僕は一気に引き込まれてし まったものだ。
『BOX 袴田事件 命とは』 死刑判決が最高裁で確定している裁判に対して、その第一審 地方裁判所で死刑判決文を作成した元判事本人が裁判のあり 方に疑問を呈し、死刑囚の無罪を主張し、現在行われている 再審請求への支持を表明するという異例の事態となっている 実話に基づく作品。 昭和41年6月30日の未明、静岡県清水市の味噌工場が放火さ れ、焼け跡から経営者一家4人の惨殺死体が発見される。そ の後、工場の従業員で元プロボクサーの袴田厳が逮捕され、 一旦は証拠不十分で釈放されるものの再逮捕。その拘留期限 の3日前に犯行が自白される。 しかし起訴された裁判で被告人は一貫して無実を主張。とこ ろが事件から1年半もたった裁判の途中で「新証拠」が発見 され、検察官による起訴状の書き直しという異例の手続きの 末に死刑判決が下された。 しかもその判決は、本来は全員一致でなければならない3人 の判事の多数決で決定され、判決に反対していた主任判事が 慣例に従い判決文を作成するも、そこでも異例の付記によっ て警察の捜査のあり方に疑問が呈されていたという。 という実話に基づく作品だが、映画は袴田死刑囚は無実とい う主張に沿ったもので、その中では、警察の捜査が一刑事の 直感で犯人を決定した上での見込み捜査であったことや、暴 力的な尋問の様子、「新証拠」の捏造の証明などが克明に再 現されている。 それはまあ、何処までが真実かは部外者の僕らには判断でき かねる問題だが、「新証拠」の捏造の解明に至る部分などは それなりに納得できるものにもなっていた。しかしそれでも 再審請求は認められていないのが現実のようだ。 出演は判事役に萩原聖人、袴田役に新井浩文。他に石橋凌、 葉月里緒奈、村野武範、保坂尚希、ダンカン、須賀貴匡、中 村優子、雛形あきこ、大杉蓮、志村東吾、吉村実子、岸部一 徳、塩見三省、國村隼らが共演している。 脚本監督は、2008年11月紹介『ZEN−禅−』などの高橋伴 明。監督はこの作品で裁判員制度の発足によって人が人を裁 くことの重大さを訴えたかったとのことだ。 自供偏重だった以前の警察で、このような自白の強要が行わ れていたことは想像に難くないし、それが現在はなくなった のかと言うことでは、それも疑問に感じるところだ。そんな でっち上げの証拠で裁判が行われる。 しかも今後の裁判では、裁くのは一般市民による裁判員。一 般人がこのような不正を見抜けるものか…。取り敢えず僕が 選ばれたら、警察が出す証拠は全てでっち上げという立場で 行くことにしよう。 * * ニュースの最初は1月25日付第182回で紹介したVES賞 の結果報告で、『アバター』はほぼ予想通り、作品賞、単独 VFX賞、アニメーションキャラクター賞、マットペインテ ィング賞、ミニチュア賞、背景賞を獲得、『第9地区』に譲 った合成賞を除く6部門の受賞となった。その内の複数候補 となっていた単独VFX賞はネイティリのシーン、背景賞は ジャングルのシーンでの受賞となっている。 その他の部門では、VFX主導でない映画のVFX作品賞 は『シャーロック・ホームズ』、アニメーション作品賞及び アニメーション映画におけるキャラクター賞、エフェクトア ニメーション賞は、それぞれ『カールじいさんの空飛ぶ家』 が受賞。結局、合成賞以外は『アバター』と『カールじいさ ん』が取れるだけ取った形で、特に『カールじいさん』のア ニメーション賞は完勝となったものだ。 まあ大体この手の賞では特定の作品に受賞が集中する傾向 が強いが、『アバター』はこのままアカデミー賞にも雪崩れ 込めるのだろうか。その結果ももう直ぐ判るところだが… * * 後は製作ニュースで、まずは共同製作で『9』を成功させ たティム・バートンとティムール・ベックマンベトフの両製 作者が再度手を組んで、セス・グラハム=スミス原作による “Abraham Lincolin: Vampire Hunter”という作品の映画化 を手掛けることが報告されている。 この作品は、題名通り第16代アメリカ大統領が吸血鬼ハン ターになるもののようだが、その背景には歴史的な事実もい ろいろ織り込まれていて、そこではリンカーンがホワイトハ ウスの住人となった真の目的や、南北戦争の真の原因などが 別の側面から描かれるとのことだ。 因にこの原作者のグラハム=スミスは、先にナタリー・ポ ートマンが製作主演することでも話題になった“Pride and Prejudice and Zombies”という作品の原作者でもあって、 どちらもかなり捻った作品になりそうだ。なおこちらの作品 は2011年の公開予定ですでに準備が進められている。 そして今回の計画では、バートンらが自己資金でグラハム =スミスに脚本の執筆を依頼したとのことで、その脚本が出 来上がってから製作会社との交渉や、投資家の募集などが開 始されることになるようだ。つまり『9』の時も先に製作を 開始させて、その後からフォーカス・フューチャーズとリレ イティヴィティ・メディアの製作参加が決まったものだが、 本作でも同様の手法が取られることになるようだ。 何れにしても、バートンと『ウォンテッド』のベックマン ベトフのコラボレーションなら信用度はかなり高そうだが、 どこが製作会社に選ばれるか、それも話題になりそうだ。 * * お次も配給会社等が未定の計画で、『シュレック』シリー ズなどの脚本・監督・製作を手掛けたアンドリュー・アダム スンが、“Fountain City”と題された製作費100億ドル以上 とされる実写の大型ファンタシーの計画を発表した。 この作品は、2007年にヘイデン・クリステンセンが主演し た“Awake”という作品の脚本監督を手掛けたジョビー・ハ ロルドの原案からハロルド自身が脚色し、アダムスンが監督 するとなっているものだが、具体的な内容に関しては題名と 大型ファンタシー・アドヴェンチャーという以外は秘密にさ れている。 そしてこの計画では、すでにロサンゼルスに本拠を置くラ イトストリーム・ピクチャーズという会社が製作を担当する ことになっており、ハロルドによる脚本の執筆が進められて いる。従ってこの脚本が完成されたら、こちらも配給会社な どの交渉が開始されることになるようだ。 因にアダムスン監督は、先に『ナルニア国物語』の第1章 と第2章の監督も務めているが、同シリーズの配給権がディ ズニーからフォックスに移ったのを機会にシリーズ監督から 降板。現状では最終話となる“Shrek Forever After”と、 第3章の“The Chronicles of Narnia: The Voyage of the Dawn Treader”の製作は担当しているものの、監督としての スケジュールは開いており、じっくり準備をして大作に臨め そうだ。 内容は不明だが、題名からは美しい街の風景が目に浮かん できそうで、その風景を背景に繰り広げられる冒険が楽しみ だ。 * * もう1本ファンタシー系の話題で、サンテグジュッペリ原 作による世界的なベストセラー“Le Petit Price”(星の王 子様)を、3Dアニメーションで映画化する計画がフランス 人の製作者から発表された。 この原作は1943年に発表され、現在までに180以上の言語 に翻訳され、全世界で8000万部以上が出版されたと言われて いるものだが、同原作からはすでに1974年、『シャレード』 などのスタンリー・ドーネン監督による実写での映画化も行 われている。その物語を今回は3Dアニメーションで映画化 しようというもので、原作に添えられたイラストレーション 通りの世界が映像化されることになりそうだ。 因に計画を進めているフランス人の製作者は、2007年2月 に紹介した『ルネッサンス』なども手掛けた人たちとのこと で、モーションキャプチャーを駆使した前作の評価も高く。 4500万ユーロという今年度フランス映画では最大の製作費が 投じられる作品には、相当の期待が寄せられているようだ。 実際の製作は2011年初旬に開始の予定とのことで、公開は その1年後ぐらいになるのかな。 * * 2004年2月15日付第57回や、2006年12月15日付第125回で も少し触れたケネス・ロブスン原作“Doc Savage: The Man of Bronze”の再映画化の計画が再燃している。 この原作に関しては、1975年にワーナーでジョージ・パル 製作脚本、マイクル・アンダースン監督による映画化が行わ れており、僕自身は当時旅行先のロンドンで観た記憶のある ものだが、1930年代のパルブ雑誌のイメージをそのままにし たどちらかというと他愛ないお話が展開されていた。 その原作から以前の報告ではフランク・ダラボンが脚色を 担当し、パラマウントでの製作が予定されていた。しかしそ の計画は頓挫したようで、今回は改めてソニー傘下のコロム ビアが計画を発表している。 その発表によると、脚本には『リーサル・ウェポン』シリ ーズなどのシェーン・ブラックが契約し、ブラックは2006年 3月に紹介した『キスキス,バンバン』以来の監督にも再挑 戦することになっている。製作は『ワイルド・スピード』な どのニール・モリッツが担当するとのことだ。 お話は、原作通りなら北極に秘密基地を持つ科学に裏打ち された超能力を持つヒーロー=ドク・サヴェジが仲間達と共 に世界の悪と対決して行くというもので、そこに登場する珍 発明なども楽しめる作品になっていたはずだ。 何れにしても前回の映画化はかなりお子様向けに作られて いたもので、今回はブラックの脚本監督でどのような作品が 登場するか、それも興味津々というところだ。因にブラック は、ハリウッド有数のパルプ雑誌のコレクターとのことで、 その辺の思い入れにも期待できそうだ。 * * 後は続報で、2月14日付で紹介のローランド・エメリッヒ 監督による“Foundation”の計画について、その時も報告し たロバート・ロダットによる脚本がエメリッヒの許に届けら れたようだ。しかしこの脚本は240ページもあり、このまま 映画化すると上映時間が4時間近いものになってしまうとの こと。そこで現在はそれを200ページ以下に縮める作業が行 われているとのことだが、それでも3時間を超える作品には なりそうだ。元々壮大な物語だから、そのくらいは覚悟でき そうというところではあるが…。 因にエメリッヒ自身は、その前にシェイクスピアの時代を 背景にした“Anonymous”という作品を手掛けることになっ ており、脚本の圧縮作業には多少の時間は掛けられそうだ。 * * 最後に、これも2月14日付で紹介した“Superman”の次作 の計画に関して、さらにワーナーがデイヴィッド・ゴイヤー ともコンタクトしていることが報告された。今回の報告によ ると、すでに前作を手掛けたブライアン・シンガー監督と、 主演のブランドン・ルースに対しては映画会社側は期待を持 っていないのだそうだが、ワーナーとしても2011年中に新作 の製作を開始しないと、原作者たちと交わした契約が失効す るタイムリミットも迫っているとのことで、多少焦り気味の 状況にはなっているようだ。 ということでゴイヤーの登場となったものだが、ゴイヤー 自身はすでに敵役としてレックス・ルーサー及び最強の敵ブ レイニアックの登場するアクション満載のストーリーを考え ているとのことで、『バットマン・ビギンズ』で組み『ダー ク・ナイト』のストーリーにも協力したクリストファー・ノ ーラン監督との再度のタッグも期待できそうだ。
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