井口健二のOn the Production
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2009年11月29日(日) 人間失格、白鳥の湖/チェネレントラ、50歳の恋愛白書、監獄島

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『人間失格』
1948年に発表された太宰治の代表作を、太宰の生誕100周年
に当たる2009年に角川映画が満を持して映画化した作品。
貴族院議員でもある津軽の資産家の父の許に美貌を持ってい
生れた主人公が、やがて没落し、自らを見失って行く姿を描
いた原作に関しては、僕は破滅文学と心得ていたが、今回は
現代にも通ずる青春文学として紹介されていた。
確かに、美貌を持って生れた若者が幾人もの女性に慕われて
女性遍歴を繰り広げ、それと共に主人公が没落して行くとい
う展開は、青春文学の類型の一つのようではあるし、実際に
原作本は、漱石の『こころ』と並んで文庫本の売り上げトッ
プを競っているそうだ。
しかも今回の映画化では、原作が太宰の自伝的な側面を持つ
という説に基づき、主人公が通うバーを文壇バーという設定
にして、太宰が実際に交流した中原中也なども登場させ、特
に中原は主人公にも影響を与える重要な人物として描かれて
いるものだ。
という、一見、受け狙いの感じもする構成の作品だが、その
物語は心中などの重いテーマを描き続け、さらに後半では、
麻薬中毒など正に破滅的な主人公の姿を描き出す。その印象
はかなり強烈だった。
主演は、ジャニーズ所属の生田斗真。共演は、堀木役に『ブ
ラインドネス』などの伊勢谷友介、ヒラメ役に石橋蓮司、ま
た中原中也役にはジャニーズ系V6の森田剛が扮している。
そして本作では、主人公の女性遍歴の相手として、寺島しの
ぶ、小池栄子、石原さとみ、坂井真紀、室井滋、大楠道代、
三田佳子が登場。華やかさというより、かなり癖のある感じ
の女優陣が、アイドル系の主人公を盛立てている。
なお、同じ原作からは日テレ系の深夜枠『青い文学』シリー
ズでアニメ化された作品も、追加映像及び再編集されて劇場
公開される。こちらには中原中也は出てこないが、主人公の
感じる「おばけ」が映像として登場するアニメーションらし
い作品になっていた。
ただしこのアニメ版では、麻薬に係わる後半の部分が削除さ
れているのは、テレビ放送を考慮したのかな。それぞれいろ
いろな仕掛けはあるが、この両方を観れば、原作の全貌がそ
れなりに掴めてくる感じはしたものだ。

『白鳥の湖』“Swan Lake”
『チェネレントラ』“La Cenerentola”
前回紹介の『アイーダ』に続いてオペラなどの舞台を撮影し
たHD映像の試写が行われた。
因に今回は“World Classics@Cinema”と称して、今年上演
の新作だけでなく、2003年から昨年までのアーカイブの作品
も含め8作品が上映されるもの。その内から試写では、バレ
ーとオペラの2作品を観せて貰った。
バレーの『白鳥の湖』は2006年にロシアで撮影されたものと
のことで、製作はBBCだったと思うが、舞台面だけでなく
別撮りで舞台上にカメラが上がって撮影されたシーンも挿入
されていた。
僕は、このようなクラシックバレーをちゃんと観るのも初め
てだったが、作品の内容はまあ知られたもので、特に黒鳥の
踊りの有名なターンは迫力も満点で堪能できた。ただし、バ
レーというのは本当に踊りだけで物語が進むもので、予備知
識がないと理解が難しいことは認識できた。
もう1本は『アイーダ』と同じくヴェルディ作曲のオペラ。
『チェネレントラ』とは、イタリア語での「シンデレラ」の
ことのようで、不幸な境遇の娘が最後は王子様に認められる
という大筋は童話と同じものだ。
しかし魔女の登場はなく、代りに王子の教師でもある哲学者
が娘を誘導して王子に目逢わせる展開となっている。魔法の
出てこない「シンデレラ」なんてどんなものかとも思ってみ
たが、案外スマートな物語になっていた。
それにしても、ヴェルディのオペラは常にこうなのか、複数
の歌手が掛け合いで歌うシーンの迫力は凄まじく、汗も吹き
払いながら歌いまくる姿には、これは大画面の大音響が可能
な劇場のスクリーンで観るしかないとも感じさせた。
因に本作は、舞台面だけを忠実に撮影したもので、舞台裏や
インタヴューなどの挿入もないが、それはそれでちゃんと纏
まりも良く映像化されていたものだ。
“World Classics@Cinema”では、この他にバレーは『オン
ディーヌ』と『くるみ割り人形』、オペラは『椿姫』『愛の
妙薬』『ドン・ジョバンニ』、そして2003年に撮影されたス
ペイン・リセウ大劇場版の『アイーダ』が上映される。

『50歳の恋愛白書』“The Private Life of Pippa Lee”
劇作家アーサー・ミラーの娘で、2005年『プルーフ・オブ・
マイ・ライフ』の脚本を手掛けたことでも知られる女優・脚
本家・監督のレベッカ・ミラーが、2008年に発表した自らの
処女長編小説を脚色・監督した作品。
試写状の解説などを読んで僕が事前に持っていたこの映画の
印象は、貞淑な妻として人生を送ってきた女性が、ある日、
自分が演じてきた理想の妻のイメージを覆し、自らの望む道
に一歩を踏み出す…そんな物語だと思っていた。
しかし実際にスクリーンに登場したのは、そんな生易しい女
性の姿ではなかった。そしてスクリーンには、現在50歳代を
迎えている女性たちが送ってきた人生そのものが描かれ、そ
こにはヒッピーやドラッグなどに翻弄された1960年代、70年
代のアメリカの姿が見事に再現されていた。実はこちらの方
が強烈な印象を残す作品だったのだ。
まあ、映画の宣伝としてラヴストーリーで押すのは常套の手
段だし、確かにこの映画にはそういう一面もない訳ではない
から、それはそれで問題はないと思うところだが。ただ僕の
ように上記の印象で観ると、かなりの衝撃を受けてしまう作
品でもあるものだ。
それは僕自身が主人公に近い年齢の者としては、自分の生き
てきた体験や見聞きしていたことも踏まえて、この物語には
感銘を受ける部分もある訳で、それが観客層として狙いたい
年齢層と合わないであろうことは事実なのだが…難しいとこ
ろだ。
出演は、ロビン・ライト・ペン、キアヌ・リーヴス、アラン
・アーキン、モニカ・ベルッチ、ウィノナ・ライダー、ジュ
リアン・モーア、マリア・ベロ。それに自ら監督でもあるマ
イク・バインダーと、テレビの『ゴシップ・ガール』で人気
のブレイク・ライヴリー。
因に1966年生れのライト・ペンは、1964年生れのリーヴスが
10歳以上年下の恋人という役柄で、これはかなりの老け役を
強いられているものだが、1988年『プリンセス・ブライド・
ストーリー』のお姫様は上手く難役をこなしていた。
それにしても、ライヴリー以外は一番上が1960年生れのモー
ア、下が71年生れのライダーと、見事に同世代の女優が揃っ
た作品で、もう少し上の世代の自分からはこれらの女優の顔
を見るだけでも楽しい作品だった。

『監獄島』“The Condemned”
通算6度のWWE王座に輝いたというアメリカプロレス界の
スーパースター“ストーン・コールド”スティーヴ・オース
ティンが凶悪な死刑囚に扮して、他の9人の死刑囚との闘い
を繰り広げるバトルアクション作品。
世界中の監獄から選抜された凶悪な死刑囚を絶海の孤島に集
め、唯一残った勝者1人には釈放という餌を与えて殺し合い
を演じさせ、その模様をインターネットで生中継。それは究
極の死闘を世界中の観客に提供し、それによって巨万の富が
得られるはずだった。
そのために用意された舞台は、400台のテレビカメラがジャ
ングルや渓谷の水中にも設置された絶海の孤島。そこに10人
の凶悪な殺人鬼を解き放つ。しかも彼らの足首には、30時間
が経過すると爆発する時限爆弾が装着されている。
その30時間以内に他の犯罪者を排除して、バトルの主催者の
許に出頭するのが勝者となる条件だ。そして、世界中の牢獄
から集められた10人の犯罪者が、それそれの足首に時限爆弾
を装着されて島に放たれるが…
その中でオースティンが演じるのは、エルサルバドルで建造
物を爆破し、中にいた3人を殺害した罪で死刑判決を受けた
というアメリカ人のコンラッド。しかし彼の犯行には何かの
裏がありそうだ。
その他には、ルワンダで17人を殺害したという元イギリス特
殊部隊の兵士や、恋人を殺されたことへの復讐で25人を殺害
したという日本人、夫婦で凶悪犯罪を行ってきたメキシコ人
なども含まれている。しかし勝ち残れるのは夫婦と言えども
1人だけだ。
こうしてバトルが開始されるが、もちろんこれは犯罪行為。
このためFBIなどが捜査を開始するが、孤島の位置は巧妙
に隠されてなかなか場所も特定できない。しかもコンラッド
に関しては、深入りするなという圧力も掛かってくる。
まあお話としては、底は浅いがそれなりに考えられていると
言えるかな。しかも映像の中には、空中に張られたワイアー
を使って移動撮影をするロボットカメラなども登場して、そ
れなりに面白いところもあった。
それに何と言ってもオースティンの身体を張ったアクション
がかなりのもので、プロレスラーの底力も観せてくれるもの
だ。
オースティン以外の出演者は、2001年『ミーンマシーン』な
どのヴィニー・ジョーンズ。1994年版『ストリートファイタ
ー』に出ていたロバート・マモーネ、2004年『セルラー』な
どのリック・ホフマン。また日本人役は、『スーパーマン・
リターンズ』や『スター・ウォーズ:エピソード3』にも出
演していたというマサ・ヤマグチという俳優が演じている。
因に本作は、WWEが2006年以降に直接映画製作の乗り出し
た第3作だそうだ。


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井口健二