旅行から戻ってきて、忘れないうちに書き留めようとしてはたと、何の言葉も出てこないことに気づく。それは書くべきことがないからじゃなくて、自分の中につめこんだ映像と時間がまだ、消化しきれずに胃の中で悶えているからなのです。豊かな想いとわびしい気分、色彩とニオイ、ふくらはぎに残るずっしりとした痛みが。いちどきに押し寄せて胸をふさぐのです。眠っていた心の中の敏感な受容器が、受けとめきれずに悲鳴を上げる。それは、ここちよい針のイタミ。