| 2002年03月08日(金) |
★暗部SS ほんのりナルカカ |
自分の体が、武器より役立つ道具になるのを知ったのは、暗部に入ってからだった。 そう、時にはどんな忍の技よりも。
暗部ではいろいろなことを学んだ。 厭なこと、おぞましいこと、おぼえているのが辛い記憶がほとんどだったが、不要なものは何一つなかった。 知ればきっと悲しそうに眉をひそめたであろうあのひとも、今はもういない。
あの日あの夜、彼は死んだ。
彼と一緒にオレの一部も死んだのだから、この先ずっと、オレは欠けた茶碗みたいに生きていくんだろうと思っていた。 暗部での生活はそれにふさわしいものだった。 生きながら死んでいく。 最初はわずかに残っていた何かも、やがて擦り切れて何も感じなくなる。 それは辛いことじゃなかった。むしろ逆だ。 遠い痛みの中でオレは確かに安らいでいた。 せんせい。 口の中で転がすその言葉の甘美さに、うっとりとまどろみながら。
カラダを重ねることには意味がある。 オレはそれを知っていた。 息をするのと同じくらい自然に、それを教えてくれたのは先生、あなたでしたね。 魂には温度がある。 だから抱きしめられれば温かいのだと。
いっそ何も知らなければ、ぽっかり空いた胸の寒さに気づくこともなかったのに。
底の抜けた容器にいくら注ぎ込んでも、器はやっぱり空っぽのままで。 傷みも快感も流れる水のようにすり抜けていくばかり。 果てたばかりの男の首をかっ切リ、体中に浴びた血潮はぬるいだけで、オレを温めてはくれなかった。
それが悲しいと言って泣いた男も、黙ってただ骨が軋むほど抱きしめた男も、やはり今、ここにいない。 それでもゆっくりと。 欠けた肉が盛り上がり、傷口を埋めていくそのプロセスを、オレはどこかで感じ始めている。
いつだって、時は流れてゆくものだから。
そばにいるだけでやたらと騒がしい、寝た子も飛び起きるような少年と出会うのは、これよりもう少し先の話。
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