4つの季節を重ねながら

2002年04月06日(土) ただいま、大統領選につき

フランスに来たばかりのころ、「リディキュール」という映画を見ました。

田舎貴族が権謀術数&才気&色仕掛けでなんとか国王に近づこうとするお話。

ストーリーはわかったんだけれど、しきりとエスプリがあるないっていうのが会話のなかに出てきて、でも宮廷文化のころの気取った言い回しやら比喩が全くわからず。

観賞後の感想は

   「わたしのフランス語力ってば、前途たな〜ん」


と、それだけ。フランス在住カナダ人の女性に「あれはすごくいい映画よね! 外国人ならあれを見て、感動したでしょ? まさに現在のフランスを皮肉っている映画よね!」

なんて言われて、「現在の?」な〜んてわざわざ問い返しちゃったりして。

でも、何年か経って、少しはフランス語もわかるようになり、フランスの縦割り行政にさんざん苦しめられたあと、TVで見ると、時代物だろうと、ドレスと馬車が出てこようと、「ああ、もう、まさにこれはいまのフランスのお話」と。

最初に見たときはわたしの人生経験が足りなかっただけでございました。

(ちなみに映画のストーリーは語学がわからなくても、理解できます。日本語はまったくわからないけれど、NHK の BS を見ていた韓国人の女の子が「7人の侍」のストーリーは完全に理解できたと思う、と言っていました。いい映画はセリフがなくてもわかる作りになってます)


いいかげんフランス人ナイズされてからもう1度見ると、「これは日本ではとても言えないでしょう」な、きっつーいセリフのオンパレード。

日本のファッション雑誌などであれだけ持ち上げられてた「フランス人のエスプリ」って、要は「性格悪い」ってことだったのか? と思いはじめました。

語学学校から映像製作の学校に移ったとき、「周りは全員外国人」な環境から一気に「フランス人のなっかにガーイジン1人」な状況に変わって、1年目は毎日毎日心臓がつぶれるような思いを味わいました。

もー生徒の側のヤジが、怖くて、怖くて。

何度「ひえ〜〜〜〜」と縮み上がったかしれません。

死ぬほど失礼なんですわ、先生に対して。


でも不思議と、先生はにこにこ穏やかに答えてるんですね。やじられて逆に喜んでるくらい。

先生の言うことを聞きなさい、親の言うことを聞きなさい、素直でいなさい、聞き分けのいい人間になりなさい。口答えするんじゃない。目上の人に対するもの言いに気をつけなさい。

日本にいたころ、こう言われて育ってきたわたしとしては、「甘やかしすぎに見えるけど、これがリベラルな教育ってこと?」と考え込んでしまったのです。

ところが、同じ先生でも、生徒が私語をはじめると、烈火のごとく怒り狂って帰ってしまったりする。

大教室での演出の授業で「白い存在」がテーマになる。映画のなかの、天使のような清らかな女性について。

そこで、先生が説明のために「そういえば、ダイアナ妃は天使だったじゃないか、われわれのこころをなごませてくれたじゃないか」という。「たとえ、知的には limited だったとしても」

ここでわたしは「ひえー」と思っているのに、そのあと1人の学生が叫んだ言葉は

   「犬のように!!」

でした。「怖すぎて笑えましぇん (;_;)」と思ったのはわたしだけ。先生も生徒も大爆笑。

まあ、先生と生徒が対立的な丁々発止を演じているよりはずっといいんですけど、仮にも外国のお姫さまで、しかももう亡くなった人に対して、犬のように、って。。。はぁ〜。

と、そんなふうに思ったのは、1年目だけ。 2年目、3年目になると、だんだん調子づいてきて、フランス人との会話で笑いがとれるようになってきて。でも、今度はそんな自分が恐いぞ!と。(苦笑) 日本人相手にこのノリで話さないように気をつけなければと、今度は自分の言動にひやひやする日々。

いま思い出すと、どうやら、ちゃんと授業を聞いて、自分の意見を先生にぶつけているうちは授業に参加しているわけだから、生徒がなにか言ったら、先生も機転を利かせて、言い返せばいい。でも、私語をはじめるということは先生の存在や講義を無視していることになるから、失礼、とこういうことだったようなのです。

言い返すときに、ちょっとひねった言いかたをする、その一工夫ができるできない、が、エスプリのあるなし、である様子。



ただいま5月の大統領選に向け、各候補は精力的に各地を遊説して廻っています。

TVの人形劇では現職のシラク大統領が登場するたび、バックでR&B風?女性コーラスが「スーーパー嘘つきマ〜〜〜〜〜ン」と繰り返しています。あまりにも毎日のように聞いているので、耳から放れなくて、ときどき自分も口ずさみそうになります。(苦笑)




ぜったいに不可能な公約を掲げちゃってるからなんだけど、一応、現職の共和国大統領なのにな〜。(^^;; (番組の宣伝になってることだし、これくらいで著作権うんぬんは問われないだろうと思う)


でも、シラク氏もなかなか負けてはいなくて、さんざん職権乱用疑惑、公金横領疑惑など犯罪チックなことを繰り返し、裁判所に呼ばれているにも関わらず、「大統領職にいるあいだは憲法の規定で裁判所に行かれない、わたしは無罪を証明したいのに」なんて、すごい言いわけをして、それでも好感度 No. 1、もっともセクシーな男性政治家にもしっかり選ばれ、支持率もそれほど落ちてない。なぜだ〜〜。(苦笑)

対するジョスパン首相は 14%台だった失業率を9%台まで落とし、それ以外でも着々と成果を上げているにも関わらず、好感度は低いまま。真面目すぎて冗談を言わない、仕事と数字の話ししかしない、女っ気がない、のは、フランスでは好かれないらしいです。

そういえば好感度 No.1 になったときは、

「お〜れは感じがいいんだぜぇ〜〜い。感じがいいのだけがとりえだぜぇ〜い」とシラク人形が繰り返していましたっけ。

一応、僅差でジョスパン氏が勝つだろうというのが大方の予想のようですが。


それにしても、こ〜れだけ表で言いたい放題だと、2ch みたいな存在はフランスでは出てこない、のかな〜と思いました。




P.S. ちなみにジョスパン氏が勝ってくれると、わたしの大好きな美しいマダム・ギグー(もちろん「もっともセクシーな女性政治家」)が首相になる可能性もあり、5月の選挙戦の結果にはちょっと期待しています。

P.S. とはいっても、一応、表と裏の区別はフランスでもあり、ダイアナ妃暗殺説はさすがに表のメディアには出てこなかったようです。

P.S. 激真面目なので有名な語学学校の先生が「フランス人と会話するときはほらを吹いてでもなにか話すほうが黙るよりは礼儀に適っている」と言っていました。だから「うそつき」という言葉の意味の重さは日本やアメリカとは違うかもしれません。

P.S. フランス人曰く、性格が悪いのはパリの人間であって、とくに南の地方の人たちはずーっと温かく、親切だそうです。パリの人間だけを見て「フランス人は」と言うな、とよく言われます。性格悪いけど、そのはちゃめちゃなところが好き。(^^;)



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