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2003年05月12日(月) キーボードを打ちながら

僕は今、デジタルワールドでの冒険のことを書いています。
母がノンフィクションライターの仕事をしていて、僕らの冒険のその後、取材される側に回りながらも、その記録を残そうとしてくれていることに何か力になれればと思ったことと、僕自身がずっとこの冒険を忘れることなく記憶の中に留めておきたいと思ったからで・・・。


「・・・・・からで・・・っていうのは、どうかなあ・・? からです。・・・・うーん・・。なんだか作文みたいになっちゃうなあ・・。僕って、国語力ないんだよね、意外と・・・。まあ、こんな前置きに2時間もかけてるって事自体、間違ってる気もするよねー」
1人でぶつぶつ言いながら、パソコンの画面をうーんと睨みながら考える。
とにかくこんなのは後だっていいんだから、肝心なのは冒険の中身なんだよね。
そう思い直しつつ、レポート用紙に30枚くらいになってきた内容に目を通し、また頭を抱える。
小5の冒険はつい去年のことだから、まだ記憶に新しいけれど、小2の時のことはなんだか記憶がどこもかしこも曖昧で・・・。
自分なりに一人前に必死でやってたつもりだったけれど、所詮、自分やヒカリは、兄たちに守られていたんだなあというのを実感することも多い。

たとえば、ほら。
黒い歯車が飛んできて、目の前にいたデジモンの目が突如真っ赤になって、急にこちらに向かって襲いかかって来た、とする。
あぶない!!
・・けど。
そのあたりで、どうも記憶が途切れている。
どうしてだろう・・・と、よくよく考えてみるけれど、思い出すのは兄のグリーンのシャツばかりだ。
・・・・?
気持ちを落ち着けて、自分の頭の中で、巻き戻し再生のように記憶を逆送させてみる。
目の前のグリーンのシャツ・・。
ゆっくり身体を離すと、そこはお兄ちゃんの腕の中で。
慌てたように、敵に背を向けながらも、必死の顔で僕に駆け寄ってくるお兄ちゃん。
叫ぶ声。「伏せろ、タケル!」
吐き出される炎。
目の前のデジモンの目が赤く光る。
飛んできた黒い歯車・・・。

そうなんだ・・。
いつもいつも、僕はそんな風にお兄ちゃんに庇われていたから、見ていないことが多いんだ・・。


「タケリュ〜・・?」
「あれ? 起きたの? パタモン」
「うーん。でもねむーい・・」
「寝てていいよ、もう夜だし」
「あれ〜?ボク、そんなに寝てちゃってた? タケリュは? 寝ないの〜?」
「寝ないって、僕、まだ夕御飯も食べてないもん。そういえば、お母さん・・。遅いなあ・・」
「ボク、さっき食べたよー」
「あれは、パタモンがおなかすいたすいたって言うから。先に食べさせてあげたんだよー」
「ああ、そっか〜 ふあぁ、おなかいっぱいで、ねむーい」
「あのねー・・。あ、そうだ、パタモン。ちょっと教えてほしんだけどさ、ファイル島でさ、デビモンにみんなバラバラに飛ばされちゃった時にね。 ・・・・・あ、あれ?」
「くーくー・・」
「また寝ちゃったの〜? 本当に最近よく寝るなぁ・・・」
ふうとため息をついて肩を落として、それでもベッドの上に丸くなってすやすや眠る相棒に、くすっと笑みを漏らす。
そして時計を見上げて、またため息をつく。
母は、どうしたんだろう。もう9時前・・。
おなかもさすがにすいてきた。

「あ・・・そうだ」

思い立って、コードレスの子機をもって、慣れた番号をぴ、ぴ、・・・と押す。

『もしもし?』
「あ、お兄ちゃん」
『ああ、タケル? どうした? またなんか聞きたいとこでもあったのか?』
電話の兄の声が、気のせいか、最初のもしもし・・から笑っている気がする。
どうも、デジタルワールドのことを書くと言い出してから、兄ともすっかり電話する機会が(さらに)多くなって、気がつくと毎日とか、一日に2回とか電話をかけている気がする。
でも、兄と長電話した後、いざ書くぞと思っても、よくよく思い返してみれば肝心な話はそっちのけで、他のことを話し込んでいるうちに時間だけがたってしまっていた。なーんてことも多くて、結局また掛け直すことになってしまう。
なんのかんの言いつつ、電話するいい口実が出来て喜んでいることをタケル自身はあまり自覚していないが、ヤマトの方はもう気がついているんだろう。
「あのね、お兄ちゃん」
言ったところで、ぐー・・っとお腹が鳴った。
『ん? どうしたんだ?』
「あ・・・ううん。お腹鳴っちゃった」
『は? なんだよ、まだメシ食ってねえのか?』
「うん。お母さん、まだだから」
『そっか・・。じゃあ、先食えば?』
「うん・・。でも今まで待ってたんだし」
口ごもるタケルに、ヤマトがちょっとからかうように言う。
『ウチ来て食うか?』
「え・・・。だって、もう9時だよ」
『もう9時なのに、メシ食ってないんだろ?』
「お母さん、何か買ってくると思うし」
『それはまた明日食えばいいじゃん』
「そうだけど・・」
『カレー作りすぎたんだよ。今から来いよ』
「え・・? カレー」
『激辛じゃないぜ?』
「本当・・・かな」
『本当だって。じゃあ、嘘かどうか食いにくればいいじゃん』
「嘘だったら?」
『じゃあ、今度、なんか奢る』
「うーん」
『遅くなるだろ、早く来いって』
「だってー」
『ここんとこ、電話ばっかりじゃん。たまには顔見たいよ』
「え・・・?」
『ほら、赤くなってないで』
「あ、あ、赤くなんかなってないよ!」
『わかった、わかった。途中まで迎えに行ってやるから』
「だって、帰り遅くなるし・・」
『シャワーも済ませて帰ったらいいだろ。なんなら泊まってもいいし』
「・・・・ええ?!」
『なんでそんなに驚くんだよ。いいじゃん、別に』
「い、いいって・・。だって、明日休みじゃないし」
『あ』
「あ・・・って何」
『今、おまえ、ヤラシイ事考えただろ?』
「や・・・!! ヤラシイことって何!! か、考えてないよ、考えるわけないでしょう・・! もお、お兄ちゃん・・!」
『考えてないんだったら、意識することないだろ? いいから。じゃあ、今から迎えに行くからな』
「えええ・・?? ちょっ、ちょっと待ってよ、お兄ちゃん!」
『何だよ』
「だって、だって」
『会いたくないのかよ?』
「え・・・? そ、そういうわけじゃなくて」
『じゃあ、何だよ』
「え・・・っと」
『会いたくないなら、仕方ねえけど』
「お、お兄ちゃん!」
『わかった。じゃ、もう切るから』
「ええ、待って待って! 切らないでよ、あ、ねえ・・! お兄ちゃん!?」
言いながら電話を持ったまま、タケルが慌てて玄関に向かう。
本当にこのまま切られてしまいそうな口調に、スニーカーに乱暴に足を突っ込んで、どたばたと玄関のドアを開けた。
どうして靴を履こうとしているのか自分でもよくわからないが、とにかく兄のマンションに向かおうとしているらしいことだけはわかる。
親機から離れすぎたために、子機の受話器がピィィィ!とかん高い音を立てた。
(あ、電話もって来ちゃった・・・。まあ、いいか。もう、本当にお兄ちゃんってば。強引なんだから・・!)
スイッチを押して、開いたエレベーターに飛び込んで、下に着くなり扉が開ききるのももどかしげに飛び出す。
そして、マンションのエントランスで、バッドタイミングに母の姿を見つけると、ぎょっとしたように子機を慌てて背中に隠した。
「あ・・・・ お帰り。母さん」
「あら。ただいま。ごめんね、遅くなって」
「あ、あの、僕、ちょっとあの、えっと・・・」
「はいはい、行ってらっしゃい」
「うん! ・・・って、あれっ? どこに行くか知ってるの?」
「ヤマトのとこでしょ? デジタルワールドの事聞きに行きついでに、カレーごちそうになるって」
「え? あ、うん、そうだ・・けど。あれ? お兄ちゃんから電話とかあった?」
「電話? ううん、そこでヤマトに聞いたんだけど」
「・・・・・は? お兄ちゃんに? そこで・・って」
「じゃあ、あんまり遅くならないようにね」
「う・・・うん」
エレベーターに消えていく母を見送って軽く手を振ると、首を捻りつつマンションを出て、ぴたりと足を止める。
「よう」
マンションの植え込みの所に腰掛けて、笑って手を挙げるヤマトを凝視し、タケルが思わず目を丸くした。
「なんて顔、してんだよ?」
「だって、お兄ちゃん。あれ・・? さっきからもしかしてココに・・・?」
「そ、正解。おまえが電話かけてきてすぐ、実はコッチに向かってましたー」
「・・・・騙したんだ・・・」
ちょっと上目使いになって拗ねたような顔になるタケルに、ヤマトが笑いながら顔の前で手を合わせる。
「いや、悪かった。けどさ、おまえ、ああでも言わないとちっとも来ねえじゃん。一回こうって言い出したら、なかなか人の言うこときかない意地っぱりだし」
「僕が? そう?」
「そ。まあ、そんなことはいいんだけどさ。とにかく・・」
ちらりと簡単に周囲を見渡して、ヤマトがタケルの肩を抱き寄せて、ひょいと頭を下げて顔を近づける。
「え・・! おに・・・」
一瞬だけふれてすぐに離されたキスに、タケルがカッと真っ赤になった。
「とにかく、会いたかったんだよオレは。電話ばっかりじゃなくて、さ」
「う、うん・・」
「タケルは?」
「え?」
「タケルは、電話ばっかでも、別にオレに会いたいとかねえのか?」
「あ・・・」
答えようとするけど、見上げた先のヤマトの瞳に合うだけで、どうにもドキドキしてしまうから。
真っ赤な頬を持て余しつつ、ちょっと困った顔をしながら、ヤマトのシャツの袖を掴む。
「会いたかったよ、ずっと・・・。でも、なんか、最近、恥ずかしいんだよ。お兄ちゃんと会うの・・」
キスだけじゃなく、そのうち、もっと先のことも・・・。
最近、そういうのも意識し出して、泊まるとか言われるだけで、心臓が跳び上がりそうになるから。
「オレさ、タケル」
ゆっくり歩き出すヤマトに、その袖を握りしめたまま、タケルも半歩遅れて歩き出す。
「急ぐ気はないから。ゆっくりでいいんだ」
「え・・・っ」
「おまえがキーボードで打ってる冒険の記録と同じでさ。少しずつ、ゆっくりでいいから。オレたちのことも」
「お兄ちゃん・・」
「1人で抱え込むなよな?」
「うん・・」
見下ろして微笑む兄に、タケルが少し驚いた顔をしつつも、ゆるやかに微笑みを返して小さく頷く。

お見通しなんだ。
やだな・・。
そんな僕の、期待とか不安とかもちゃんと見えてるんだ。お兄ちゃんには。

思いつつ、恥ずかしさと同じくらい嬉しさもこみ上げてくる。

「うん、お兄ちゃん。ありがとう・・」
頬を染めてヤマトを見上げて嬉しげにもう一度笑むと、遅れた半歩を取り戻すように、タケルが小走りになってヤマトの横に並ぶ。
そして、トンとヤマトの肩に甘えるように額をぶつけた。



「じゃあまあ。そういうことで。カレー食って風呂入ったら、ゆっくりエッチな話でもするかー?」
「ええ?! お兄ちゃん、今ゆっくりでいいって・・!」
「あー、間違えた。ソッチじゃなくて、ゆっくりデジタルワールドの冒険の話でも」
「からかってるね! もう!!」
「ハハハ・・・」
「あ、そうだ。じゃあ、あの話してよ。ファイル島でみんながベッドでバラバラに飛ばされて・・。お兄ちゃんが僕のこと心配して・・・」
「あー! そういや親父も遅いよなあ、もうそろそろ帰ってくるかなー!」
「で、太一さんと喧嘩して泣いたって・・・」
「な・・・! 太一のヤロー余計な事を!!」
「じゃあ、じゃあねー。あとはねー 吹雪の中を僕の名前を叫びながら探し回ったって、ガブモンが・・」
「ガ、ガブモンまで・・?!」
「あれ? お兄ちゃん、どうして真っ赤なの?」
「あーもう、そのあたりの話はやめてくれって!」


照れる兄を見上げて笑うタケルは、ちょっと自分が、冒険をしていた頃よりは大人に近づいたのかなーと思ってみたりする。
でも、兄は、結構コドモっぽいところもあって、イタズラ好きで。
それでも、自分を一番大事に想ってくれて、やさしい所は幼い頃からそのままで。
ちっとも変わってなかったりするなあと。

歩きながら、ふざけてじゃれあい笑い合いながら、
冒険はまだ終わっていない、
長ーいエピローグはこれからなんだと
タケルはふと、そんなことを考えた。


キーボードを打ちながら、1つ1つ、
エピローグにつながる物語も、ゆっくり書いていければいいなあと・・・――







END







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ドラマCDを聞くなり、ヤマタケが書きたくなって、イキオイで書いてしまいました!!
楽しかったー!!
なんか妄想しどころが多い内容で、特にヤマトのとこは書きたいことが満載です。
また、ちょっとずつ書いていきたいですv
ああ、こういうの書いてると本当にヤマタケが好きだー!って思います。
やっぱ、外的刺激は大事ですね! 特に声とかきくと、もう本当にメロメロなのです・・・v


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