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2003年04月08日(火) 君のそば

春休みも残すところ、あと1日で終了。
この調子で行けば、新一年生歓迎ライブは、まあ問題なくいきそうだよな。
なんか、ここんとこ結構ノって曲も書けてるし、評判も上々ってカンジで。
3年もまあ、こんなカンジでやってけるだろ。
もう春だよなあ・・としみじみさせるような、少しあたたかくなった夕暮れの風を頬に感じつつ、もう少しでマンションにつくという所で、ふいにズボンのポケットの中でケイタイが鳴った。

妙に。
こういう時は勘が働く。
なんとなく、こう、ふわっとしたやわらかい感じが、胸の中に降ってくるような。
口の中でこそっと名前を呟いてケイタイを取り出し、ビンゴなその名にほくそ笑む。


「タケル? ん? どうした?」

最近、バンド仲間からも「弟からかかってきた電話はすぐわかる」とまで言われるようになってしまった。
答える声のトーンが全然ちがうらしい。
なんかこう、普段より一段低い、甘たっるい声でしゃべってるとかで。
ちょっとそれサムくないか?と思わず言い返したけど、なるほど、言われてみればそんな声なような気もする。
自覚があるとはいえ、我ながらブラコンもここまでくりゃあヤバイかも・・・。

「え? 明日? 明日は別に何もねーけど。・・・いや、本当だって。バンドの練習も今日が最終だったしな。ん・・・? 映画? ああ、いいけど。何が見たいんだよ? ・・・え、内緒? なんだよ、別に笑わないって。・・本当! 笑ってねえじゃん! ・・・うん。俺は別に見たいのとかないし、何でもいいぜ。タケルに付き合うよ。・・・ん? じゃあ、昼一緒に食おうか? 奢るから。・・・あるって! 大丈夫だよ。言うかなー、弟がそういうコトを! まーいいや。ん。じゃあ、11時くらいに迎えに行くから。うん・・・・ じゃあな。」

ピッとケイタイを切って、ごそごそとまたポケットにしまい込む。

やれやれ。
映画ね。
まー、この休みはほとんど会ってなかったんだし。
映画につきあってやるくらいイイか。
しっかしなー。
小遣い、彼女とデートするのに置いとかなくていいの?だって。
まーったく、子供だと思ってたのに、なんかマセてきたなあ。最近。
俺らも6年くらいって、もうそんなだっけ?

思いながら通りかかった停車中の車の窓に、締まりのない自分の顔を見つけてぎょっとする。
にやにや、という表現がぴったりのカオだ。
それを片手で小さくピシと叩いて、回りに誰も知り合いがいないコトを確かめて、ふうと息をしつつ夕暮れの空を仰ぐ。

まったくなあ。
弟から電話もらっただけで、こうもにやついてちゃ、どうしようもない。
けどま、可愛いんだからしようがないよな。
実際、どこのクソガキよりも、タケルは数段可愛いんだし。
見かけも性格も。
第一、仲の悪い兄弟よりは、よっぽどいいじゃないか。なあ?
それでもトモダチから、常軌を逸しているぜとからかわれると、反論できない部分もあるけど。
ちょっとでも甘えてくれると嬉しくて嬉しくて、その上頼られたりすると妙にはりきってしまう。
ま、いいんだ、どーせ俺はブラコンさ。
今から、明日何着ていこうかとか、何奢ってやろうかとか考えてるんだから。
だいたい自覚があるだけでも、立派じゃん?

俺はにやついたカオを元に戻しつつ、まだ洗濯物が干しっぱなしになって風に翻っている、自分のマンションのテラスを見上げた。










「は?」
「・・・・・笑わないって言ったじゃないー」
「まだ、笑ってねえけど?」
「・・・・これから、笑うとこなんだ」
「いや、別に、そういうワケじゃ」
「大輔くんにもバカにされたし。小6にもなって見るかぁ、そんなの!とかって」
「や、別に中学生とかが見たって、別に変じゃないと思うけどな」
「本当に? でも、男二人で見るのってやっぱり変かな?」
「うーん・・・ いや、まあ、俺どんなのか知らねえし・・」
「じゃあ、いい?」
「ああ、いいよ」
「よかった。やっぱり最初からお兄ちゃんに頼めばよかった」


ん?
それって、他でさんざん断られた挙げ句に、俺のとこに電話寄越したってことか?
おいおい。
ひでえなー。


・・しっかしまー。
「ロード・オブ・ザ・リング」あたりかと思ったら、よもやディズニー映画とは・・・。
そりゃ、大輔が断るわけだわな。
俺もまあ・・・・。


「ねえねえ、お兄ちゃん! ポップコーン買ってもいい?」
「ああ、いいぜ。2つ買ってこいよ。ついでにジュースか何か・・・」
「あ、コッチは僕のオゴリ。さっきお昼ごちそうになったから。えっと、ポップコーンは1つでいい? お兄ちゃんと一緒に食べたいから」
「あ、ああ」
差し出した俺の財布を手で戻して、タケルがにっこりすると、ぱたぱたとカウンターに向かって駆けていく。


いいか、この際、映画なんか何でも。
こんな可愛い笑顔が見られるんなら、それだけで。

一緒にカウンターに行き、ポップコーンだけ持たせて、ジュースは両手に俺が受け取る。
タケルがまた、俺を見上げて嬉しそうに笑った。






・・・・ちなみに映画の内容はというと。


最初の方は、二人の席の間でポップコーンを持ってやりながら、コソコソ話しつつタケルのカオばっかり見てたから、あんまり内容が頭に入らなかったんだけど。


どうやら、どこかの星で作られた宇宙生物が、「破壊のプログラム」しか持たない失敗作なために始末されるとかいう話になったらしく・・・。

・・で?
その輸送途中かなんかにソイツが暴れて逃げ出して、ハワイのカウアイ島に不時着して。
主人公の女の子と出会う・・という。
なんか有りがちっていえば、有りがちな話で。

真剣に見てるタケルをちらっと見つつ、またスクリーンを見る。
なんか、ちょっと眠・・・と思ったあたりで、その子の姉さんが出てきた。

なんでも姉妹だけで住んでるせいか、福祉施設にその妹の方を保護されるとか。

なんだよ、兄弟だけで住んでちゃいけないのかよ??
別に好きでそうしてる訳じゃない。
親がいなんだから、しょうがないじゃんかよ!
姉の方だって、妹のために必死でやってんだ。
別に放ってるワケなんかじゃない。
だいたい、保護したからどうだっていうんだ。
それで、絶対幸せになれるって、そんなの誰が決めるんだよ。
誰といて、どんなふうに幸せかってことは、その本人にしかわからないじゃないか・・!


今にもアツク憤り、立ち上がって怒鳴りそうな俺を察したのか、タケルがちょこんと俺の手の上に自分の手を置いた。


わかってるよ。
まさかこんなトコで、いきなりそんなことしないよ。


けれども、その宇宙生物を拾ったがために、あちこちで騒ぎを起こして姉は仕事を失い、家は火事になってしまい。住むとこすら無くなってしまう。


なんかそこいらあたりから、俺はもうスクリーンに釘付けで。


最後にその宇宙生物が、言葉を覚えて少女に言う。


『オハナ・・・。
 オハナは家族。
 家族はいつも側にいる。
 なにがあっても』


オハナというのは、<家族>の意味だそうだが、この場合、血縁だけの家族じゃなくて、心を通わせて一緒にすめば、みんな家族と、そういう意味のことのようだ。


うわ・・・。
やめてくれよ、そういうの。
弱いんだよ。
ただでさえも、こと家族に関しては、思うことが山のようにあるだけに。


目頭が熱くなって涙がこぼれそうになり、慌てて、欠伸を噛み殺しているような素振りをして誤魔化した。
タケルも泣いてるんじゃないか?と思いつつ、そっと隣を見ると、じっと大きな目でスクリーンを見つめているその瞳が、少し潤んでいるのがわかった。
でも、泣いてるというほどじゃ・・。


なんだよ、俺だけかよ。
それは、ちょっとかなりマズイじゃんかよ。
兄としての威厳が・・。


思いかけた時。
とん・・と、タケルが身体ごと俺にもたれてきて、それから甘えるように俺の肩にそっと頭を置いた。


やっぱ、泣いてた・・のか?


考えつつ、そっとその頭に手を添えて、空いている手でタケルの小さい手をぎゅっと握る。



俺だって、いつでもそばにいるよ。
何があっても、どんな時でも。
絶対に、おまえの味方だから。
絶対に、1人になんかしないから。

俺の大事な家族だし、
俺の大事なタケルだから・・・。










映画が終わって明るくなっても、本当はずっとそうしていたいくらいだったけど。
明るくなるなり、はっとしたようにタケルがパッと俺から離れて、ちょっと恥ずかしそうに赤くなって笑みを浮かべる。


「・・・行くか?」
「うん」

さりげなく手をつなぐと、ちょっとびっくりしつつも嬉しそうにカオをほころばせた。




映画館の外に出て、いつのまにか日暮れ近くになっている風景の中を、タケルがちょっと遅れて後ろからついてくる。
手、つないだままなんだから、横に並べば歩きやすいのに。
思いつつ肩ごしに振り返ると、「映画見ながら泣いてたろー」とコッチがからかうより先に、タケルの方から言われてしまった。

「おにいちゃん、さっき泣いてなかった? 映画見ながら」
「え? な、泣いてなんかねえよ! おまえこそ泣いてたろー? 目ちょっと赤いぞ?」
「そ、そんなことないよ・・!」
「そうかなあ?」
「そうだよ、お兄ちゃんの方こそ!」
「俺は・・! まあそりゃあ、ちょっとは感動したっていうか・・・」
「・・・うん。僕も。一回目見た時は、もっとぼろぼろ泣いちゃったし」
「そーだろ? ・・・・・・って! 1回目って何だよ?!」
慌てる俺に、タケルがさも悪そうなカオで上目使いに俺を見る。
「あ・・・ あのね、実は先週、京さんと伊織くんといっしょに見ちゃったんだ・・」
「へ? じゃあ、何でまた今日俺と見たいなんて・・・。別に他のでもよかっただろ?」
「だって・・・。この前見て、すごくよかったけど・・・ お兄ちゃんとだったら、もっとよかったのに・・・ってそう思ったから・・。見た後で、なんだかとても淋しくなっちゃって・・。だからもう一度見たかったんだ。一緒に。・・・ごめんなさい」
「え! いや、別に謝るようなことじゃねえけど! 俺も見れてよかったって思ってるし」
「・・お兄ちゃんも泣いてくれるかなあ・・と思って」
「・・オイオイ」

つん!と指先で思わず額をつつくと、タケルがエヘvと小さく舌を出して肩をすくめる。


「それになんだか、アレみてると・・。パタモン思いだしちゃって」
「・・・・なんか、あまり似てはねーけど。・・ま、思い出すといえば・・・そうかな?」
うーんと頭を捻りつつ、いつもそういえばタケルの白い帽子の上を指定席にしていた「アイツ」が目に浮かんだ。


とにかく色々思って、それで淋しくなって、それで俺ともう一回見たいと思ったのか。
それは、俺とだったら淋しくないってコトだよな?

なんだか、とても嬉しい気がして、こんな街中だけど、ぎゅうっと抱きしめたい気分になってつないだままの手をひっぱる。



「タケル・・・」
「お兄ちゃん・・・」
「タケル、俺はな・・・」


「あっ!!」
「・・・え?」
「じゃあ、ここでいいから!」



何だよ、ヒトが愛のコクハクをしようって時に!!
呆然としているうちに、「今日はありがとう!」と手を振って、とっとと逆方向に歩き出すタケルに、慌てて俺がそれを追いかける。
どうも、兄の愛のコクハクは、こんな公衆の面前では聞きたくないらしい。
耳まで真っ赤になってるから、きっとそういうことなんだろう。
そりゃまあ、そうだろうけど。


・・・仕方ねえか。
もっともだし。


逃げるように走っていくその背中に、その代わりにと、立ち止まって大声で叫ぶ。


「俺はー! タケルが大好きだよ!!」


夕暮れの中で振り返ったタケルが、夕日の赤よりもずっと赤い色の頬をして、人混みの中でびっくりしたようなカオをして俺を見た。



「僕はー・・・ 僕は、えっと・・・・。パタモンが大好きー!!」




・・・・・え・・・?




言うだけ言って、にっこりする。
「言っちゃった」というその笑顔に、かなわないなぁと頭をかいた。
思わず、くっくっと笑いがこみ上げてくる。



「フラれちゃったなぁ・・」



呟く俺の声が聞こえたのか、タケルがちょっと焦ったカオで「え・・・あの・・」としどろもどろになっている。
いや、別にいじめるとか、そういうつもりはないぜ?
ちょっと、いや、かなりそういうカオは好きだけど。


タケルがちょっと考えて深呼吸をした後で、口の横に両手をあてて、大きな声を出そうと息を吸い込む。

「でも・・」



つま先立ちになって、声に力をこめるようにして。

「でも・・・!」



それから。
さっきよりも、ずっとずっととびきりの笑顔で。


「お兄ちゃんは、世界中で一番大好きだよー・・・・!!」






「じゃあ、また、電話してね!」


「え・・・おい」



言葉の最後は、もう半分身体を向こうに捻ったような状態で、逃げるようにして人混みの中に消えていく。
その小さな背中を呆然と見送りつつ、待てよと伸ばしかけて行き場を失った片手で、しようがなしにポリポリと鼻頭をかいた。


「・・・ヤラレた・・・」


ぼそっと言って、ズボンのポケットに両手を突っ込み、1人照れ笑いを浮かべる。





『ヤマトー! ずるいよぉ、もお! せっかくタケリュが、ボクのことが大好きだって言ってくれたのにぃ。横取りするなんて〜』と舌足らずに反論するオレンジ色の物体(?)が、夕日の中でぽーんと跳ねた。
・・そんな気がした。




かわいいタケル。
いつまでも、一番大好きな可愛い弟。


いつまで、そんな風に「お兄ちゃんが一番好き」だと言ってくれるのかなーと考えつつ。




俺も、世界中で一番大好きだよ・・と、心の中で呟いた。



俺はいつでも、タケルのそばにいるよ。
何があっても、どんな時でも。
俺の大事な家族だし、
俺の大事なタケルだから・・・。







END




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「お台場コンサート」のヤマタケにアテられて、こんなもの書いてしまいました。
は、はずかし〜。
ヤマタケの甘いのの恥ずかしいトコは、ヤマトが惜しげもなくタケルを好きだ好きだというトコかなーと思ったりします。
しかし、それがまさか実際聞けるなんて!
「俺はタケルが大好きだよ」
「えっと、僕は、パタモンが大好きー」
「フラレちゃったなぁ」
という会話が、本当に風間さんと山本さんの間になされたそうで!
しかもそのあと、「お兄ちゃんも大好き」とタケルの告白もあったらしいv
なんかね、「大好き」っていい言葉だね!と思うのですヨ。
アイシテルとかいう言葉より、ずっとわかりやすくて、伝わりやすい。
そういう言葉が、お二人の口から聞けたなんて、本当にヤマタケやっててよかったなあ!!ってすごく思います。

カイトさん、クーコさん、教えてくださってありがとう!!
このヤマタケはお二人に捧げたいですv

ちなみに映画は「リロ&スティッチ」より。
これ、ヤマトが見たら絶対泣くだろうなあ(笑)と思って、ちょうど書きかけてたところだったの。
絶対、上の台詞を入れたい〜と思ったので、少々無理な話のハコビに・・・・。す、すみません・・。


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