Scrap novel
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2002年08月01日(木) Dreamin'

「タケルー 風呂入って帰るかー?」
夕食の片付けをしながら、ヤマトがソファでテレビを見ているタケルに声をかける。
「うーん・・。お母さん、もう帰ってくる頃だから、帰ってから入るよ」
「じゃ、これ洗い終わったら送って行くから。教科書とか片付けてきな」
ヤマトの言葉に「うん」と返事をかえし、兄の部屋に入ると、机の上に広げられたままの教科書をランドセルに片付ける。
まだ週の真ん中なのに、どうしても会いたくなって「宿題でわからないとこがあるんだけど」と口実をつけて、タケルは兄のマンションを訪れていた。
(帰る・・か。本当なら兄弟なんだから、いつも一緒にいられて当然なのに・・)
そう思うと、少しだけ両親がうらめしくなる。
ふうっと溜息をついて部屋を出ようとして、何気にみた本棚の中に、ふと厚めの青い背表紙が見えた。
(あ、あれって・・・。小学校の卒業アルバム・・?)
別にことわらなくてもいいよね?と思いつつも、なんだか少しどきどきしつつ、そのアルバムを棚から抜き取り、手にとってみる。
ずっしりとした重さは、兄の貴重な思い出の重さだ。
ここに自分がいないことが、なんだか少し淋しい気もするけれど。
思いつつもページを開くと、自然と笑みがこぼれた。
小学6年生の兄。
わあ、こんなだっけ。
今の僕と、あんまり変わんない頃のお兄ちゃん。
なんだか、妙に可愛い感じがして、ちょっとくすぐったい。
(太一さんと空さんと3人、同じクラスだったのかあ・・。いいなあ。あ、これ、運動会。選手宣誓してる! これは・・・クラブ活動かなー?
 お兄ちゃん、なんで野球部だったんだろ・・? なんか似あわない気が・・。これは、修学旅行。やっぱり京都だ・・。それにしても、お兄ちゃんてば、写真撮られるの苦手だからどれもすっごい仏頂面・・・)
くすくす笑いながらも、兄の思い出にふれて、なんだかあったかい気持ちになる。
ずっと一緒に暮らしていたら、そんなイベントごとに、いろんなエピソードが兄の口から聞かせてもらえたんだろうに。
それは、少し残念だけど。
一番最後のページには、全員の寄せ書きがあった。
テーマは、将来の夢。
(へえ・・。お兄ちゃんの将来の夢って何だろう。やっぱり、バンドで有名になること? あ、でもまだ小学校の時だし、月並みにパイロットとか? それとももしかして野球とかの選手とか?)
いろいろ楽しい想像をしつつ、指でたどって「石田ヤマト」の名前を探す。
そして、やっと名前を見つけて、兄の文字にふれ、その指がぴくっと止まった。
思わず、涙がこぼれそうになった。
(お兄ちゃん・・・!)
何度も何度も、目でその文字を追う。
美容師。お医者さん。お菓子屋さん。警察官。保母さん。などなど。
数々の無邪気で可愛い夢の中で、ただ一つ。
兄の字は、皆とちがう夢を書いていた。
それは。
『家を建てて、弟と暮らす!』
弟と暮らしたい、という希望ではなく、暮らす!という毅然たる強固な意思。
(しかも、ビックリマークつき・・・)
涙ぐみながら微笑んで、それを本棚にきちんと戻すと、キッチンにいる兄の元に急ぐ。
「かたづけたか?」
「うん」
「けどなあ、おまえ。勉強わからなくて俺に聞いてくれんのは嬉しいけど、俺、教えるの下手だからなー。今度、光子郎にでも頼んでやろうか?」
「ううん」
その言葉に首を振って、キッチンに立つ兄のそばにいき、その背中にトンと額をぶつける。
「お兄ちゃんがいい」
「そうか・・?」
「うん・・」
うなづいたまま、自分の背中で黙ってしまった弟を気遣って、ヤマトがやさしく言う。
「どうした? 眠くなったか? 待ってな、もう終わるから」
それには答えず、タケルの腕が、ヤマトの胴に回され、ぎゅっと強くしがみつく。
「ね? お兄ちゃん?」
「ん?」
「・・・ううん・・・ なんでもない・・・」
洗いものを終えた手を拭って、ヤマトがタケルを振り返り、その頬を両手で包みこんで瞳を合わせる。
その瞳が、哀しみの色をしていないことを確認すると、兄は、そっとタケルの耳に甘く囁いた。
「週末は泊まりに来いよ。な・・?」
泊まりに、という言葉に少しどきっとして、頬を染めてタケルがうなずく。

いつか、もしかして。
兄の夢がかなったとして。
ずっと一緒に入られる日が、本当に来るのなら。
こんなことも、きっと、切なくていい思い出になることだろう。
「泊まる」という言葉に、ついどきどきしてしまうのも、離れているからこそかもしれない。
だったらそれはそれで、今のこの状況もそんなに悪くはなくて。
ちょっぴり切なくて、恋しくて、それが今はいいのかもしれない。

タケルは、ヤマトの口づけが唇に降りてくるのを待つ間。
ふと、そんな事を考えた。



END






あわわ、今日は8月1日生メモリアルなんですねー!
なのに、原稿が余談を許さない状態で、ばっちり「生」に合ったものが書き下ろしできない状況がもったいない〜;
そんなわけで再録です・・。もう1年以上前に書いたものなので、ちょっとハズカシイですが。
くそー! なんかタイムリーなものを書きたかったなあ・・。 
これを書いている今は、ちょうど8月1日の深夜。つまり、今日これからみんなで会って、その後、タケルは待ちに待った(きっとそうに違いない!)兄のマンションにお泊り・・v そして、あのヤマトの爆弾発言の数々(笑)を聞くのですねー! 今頃、タケルさんは、眠れない夜を過ごしているのでしょうか? 兄は兄で、やはり舞い上がってるかもしれない・・。ああ、妄想つきませんねーv 今からお台場のヤマトんちに侵入して、ことの次第を見届けたい気分の私です。(風太)


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