Scrap novel
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2002年06月27日(木) カタオモイ(すみません、またしても本のCMです・・)

かなわない恋をした。
立ち往生の断崖絶壁。
一生片想いで終わる恋。
いっそココから飛び降りて、終わりにできれば楽なのだけど。
想いは、アナタを傷つけるから、
やはり僕だけのものにしておこう。

そして、僕は自分と決めごとをした。
哀しいガラス細工のようなこの恋の忘れ方。

もしも、お兄ちゃんに好きな人ができたなら、
その人の好きなところを全部聞いて、
その人の素敵なところを全部覚えて、
一つ残らず全部覚えて、
そして自分の嫌いなところを全部言って、
どうしたってかなわないとそう思って、
かなわないから、あきらめようとそう思って。
強く強く強く、思って、
そして、
一人で膝を抱えて泣こう・・・。
たくさん泣いて、ひとしきり泣いて、
苦しいくらい泣きつづけて。
もう一粒の涙も流せなくなった頃。
アナタにサヨナラしよう。

もうこの想いは、この世に存在してはならない。
錘をつけて、海の底に沈めて、溺れさせて、
眠らせよう。
深く、深く、深くに。


         


もう春が近いというのに、風はまだまだ冷たくて、吐き出す息も白いまま。
剥き出しの足は芯から冷えて、徐々に感覚がなくなってきている。
指先も凍りつきそう。
なんだかそんなことだけで、心が切なくなってくる。
タケルは、中学校の正門の道路をはさんだ前にあるバス停から、ぼんやりと門を抜けて下校してくる生徒たちを眺めていた。
今日は、パソコンルームにも行かず、かといって家に帰る気分にもなれず、ここにこうしているけれど、だからといって兄を待っているというわけでもなかった。
ただなんとなく・・・。
どこにも居場所がない気がしただけのこと。
タケルの心を映すかのように空はどんよりとした青灰色で、雲は厚くて、まだ3月だし、もう一度雪でも降らせてみせようか、と思案しているように見える。
「タケルくん?」
ふいに背中から声をかけられて、はっと驚いたように振り返る。
「ヒカリ・・ちゃん」
タケルに名を呼ばれた少女は、首を傾けるとにこりと笑った。
「デジタルワールドに行ってると思ってたから、びっくりしちゃった。こんなとこで会えるなんて」
「あ、ヒカリちゃんも行かなかったの?」
「そ、だからここにいるの」
「あ・・・・ だよね」
「どうしたの? 変だよ?」
タケルを見つめて、ヒカリがくすくす笑う。
「今日はお兄ちゃんと約束があったから」
その言葉に少しドキリとして見つめると、ヒカリが、ほらここのところデジタルワールドも平和だしね。と言い訳のように言った。
「参考書、一緒に見てもらおうと思って」
「そう、なんだ」
「タケルくんも、ヤマトさんと?」
「え、あ、ううん。僕は・・・・」
約束なんかはなくて、と慌てて言いかけた時、ふいにヒカリを呼ぶ太一の声が聞こえた。
見ると、道を挟んだ正門の前で、太一がこちらに向かって手を振っている。
「お兄ちゃん!」
ヒカリはタケルを振り返ると、タケルくんも行こうと声をかけ、先に立って横断歩道を兄に向かってかけていく。
反射的にその声についていこうとして、タケルは少し遅れて正門を出てきた人影に、びくりと足をとめた。
「あら、ヒカリちゃん」
「あ、空さん、お久しぶりです。ヤマトさんも!」
「太一を待ってたの?」
「はい、お兄ちゃんに参考書選んでもらう約束してたんです」
「え〜、太一に選んでもらうの? 大丈夫かな?」
大げさに驚いてみせる空に、太一が唇を尖らせて反論する。
「何だよ〜空! 俺だって小学校の参考書ぐらい選べるぜ!」
「ついでに自分のも買っておいたらどうだ?」
「うるせぇな」
ヤマトの横槍にムッとする太一に、くすくす笑いながらヒカリが言う。
「それで、お二人はこれからデートなんですか?」
ひやかすようなヒカリの言葉に、空がヤマトをチラッと見上げて、少し頬を赤らめて“いやねぇ”と困ったように笑うと、ヤマトも若干照れたような笑みを浮かべた。
それを見ながら、ふと、タケルの姿がないことにヒカリが気づく。
「あれ、タケルくん?」
「タケル?」
「今まで一緒にいたんだけど・・」
その言葉に、視線を巡らし、ヤマトはバス停の後ろにある公園の木陰に、弟の白い帽子を見つけた。
「どうしたんだ? タケル」
太一の不思議そうな声に、何かを考え込むように口元に手をやると、ヒカリは次の瞬間、急に笑顔になって兄の腕を取った。
「じゃ、お兄ちゃん行きましょ! そうだ。空さんも一緒に来てもらえません?」
「え?」
「だって、ほら、お兄ちゃんだけじゃ、やっぱり不安だし」
「おい。ヒカリ!」
「ねっ、空さん! お願いします!」
「え・・・・ でも・・・」
両手を合わせてさらににっこりするヒカリに、心底困った顔の空がヤマトを見上げる。
が、ヤマトの視線はまだタケルに向いたままで、空は、強引なヒカリの手に太一とともにぐいぐいと背中を押され、仕方なく歩き出した。
「じゃあ、ヤマトさん」
「え? あ。ああ・・・」
ヒカリの声に我に返って遅れて答えると、正門をしばらく行ったところで兄と空を待たせたヒカリが、ヤマトの前に駆け戻ってくる。
「あの・・・」
呆然としたまま立ちつくしていたヤマトに、ヒカリが少し早口に言った。
「タケルくん、今日も昨日も給食ほとんど残しちゃったんです。顔色もよくないし・・・ちょっと心配だったから」
じゃあ、とそれだけ言って踵を返し、兄と空の元へ走り寄るヒカリを眉をひそめて見送ると、こちらに向かって、お願いしますというようにぺこりとおじぎをした。
それに戸惑ったような笑みを返して、ヤマトはともかく道路を渡ると、木の陰に身を隠すようにしている弟の元へと急いだ。
その後ろにそっと歩み寄り、俯いている耳元にからかうように言う。
「・・オイ、おまえのおかげで、デートが台無しになっちまったぞ? どうしてくれるんだ?」
言われて、ハッと弾かれたように、タケルが顔を上げてヤマトを見上げる。
そのあまりに動揺したような見開かれた瞳に、ヤマトの方が驚いて一瞬言葉に詰まる。
「ごめん! お兄ちゃん。僕、帰るから!」
そういい残して立ち去ろうとした腕を、ヤマトの手が慌てて捕まえると自分の方を向かせ、困ったように微笑んだ。
「バカ・・・ 冗談だよ」
「だって・・・ デート・・」
「一緒に帰るかって、それだけだ。別に約束があったわけじゃない」
それでも泣きそうな瞳が、ヤマトを見上げている。
「追いかけてよ・・・」
「もういっちまったよ」
「でも・・」
言ってチラリと太一たちの行ってしまった方向に目をやり、ふいに空が振り返った気がして、タケルは自分がひどいことをしたような、いたたまれない気持ちになって、また俯いた。
「ごめん・・・ 僕だって、約束なんかしてないのに、いきなり来て・・・」
だから、何をそんなに気遣う必要があるのかという顔をして、ヤマトが帽子の上からくしゃっとタケルの頭を撫でる。
「別に、いつでも来りゃいいさ」
やさしく言われて、ほっとしたようにタケルがやっと顔を上げる。
「ウチ、来るか?」
「ううん。今日はお母さん早いから」
「そうか・・・・じゃ、送っていくよ。それともどこか行きたいとこあるか?」
ヤマトの問いに、小さく首を横に振る。
“じゃ、行くか”と言ってタケルの肩を促すように触れて、ヤマトはその身体が冷えきっていることに気づくと、薄着の肩にふわっと自分の着ていたコートをかけた。
「お兄ちゃん・・・」
「いつから待ってたんだよ。こんなに冷え切って。おまえ、風邪ひきやすいんだから、もうちょっとあったかくしとかねえと駄目だろ」
少し叱るように言って、少々乱暴にその肩を抱き寄せる。
「お兄ちゃん、恥ずかしいよ・・・」
まだ中学校の真ん前でもあるし、人目もあると言うのに、別段気にしない兄に、タケルが抗議するように赤くなる。
「いいだろ、兄弟なんだから」
「フツーしないよ。兄弟で」
「そうか?」
あっさり返され、肩をすくめる。
バンドをやっていることもあって、とにかく校内では、兄は結構有名人であるのに、本人はあまりそういうことに興味はないらしい。
しかし、兄のコートを肩に羽織って、その肩を抱き寄せられて赤くなっている自分は、周りから見ればいったいヤマトの何に見えるやら・・・・。
「ちょっと、石田くんの隣のアノ可愛い子、誰?」
「肩なんか抱いちゃったりして!」
「女の子に興味がないと思ったら、もしやアレ?」
「ええ? でも武之内さんとつきあってるんでしょ?」
後方から、女の子たちのヒソヒソ話が、聞くつもりもなく耳に入ってくる。
武之内さん。という言葉に、ぴくりと反応してしまう自分が情けない。
けれどもうそんなに公認の中なのかと思うと、胸がぎゅっと痛くなり、タケルは心の中で重い溜息をついた。
「どうした?」
黙り込んでいる弟を心配して、ヤマトがその顔を覗き込む。
その腕からスッとすり抜けるように身体を離すと、タケルは公園を取り囲む、1メートル余りの高さの植え込みのコンクリートの縁へとひらりと飛び乗った。
「おい、危ないぞ」
手を差し伸べるヤマトに、小さい子じゃないだからと笑って、バランスを取りつつ、早足に歩く。
公園の入り口に来て途切れたそこから飛び降りようとした瞬間。
ヤマトの両手がタケルの腰を支えて、ふわりと抱き上げた。
「おにい・・・・」
抱き上げられたタケルより、ヤマトの方が驚いた顔をした。
なんて、軽い・・・・・。
ストンと地面に降ろされ、瞳を見開いたまま、タケルがヤマトを見上げてくる。
「おまえ・・・軽すぎるぞ。ちゃんとメシ食ってんのか?」
心配そうな声にギクリとして、けれどもそれは表には出さず、タケルは肩をすくめてニコッと笑った。
「だって、いくら食べても太らない体質なんだもん。しょうがないでしょ? これでも、結構食べてるんだよ」
「本当か?」
「うん!」
「タケル?」
「・・・何?」
「おまえ、なんか俺に話したいこととか、あるんじゃないのか?」
見透かすような蒼い瞳に見つめられても、タケルは動揺を顔には出さず、微笑んだまま言った。
「やだな、何もないよ。お兄ちゃん、心配症なんだから」




つづく・・。





続きは本を読んでくださると嬉しいですv この後40ページくらい続きます。
オイ!と思われた方も多いかと。スミマセン〜;
またしても、本のCMでござりました。
これが一冊めに出した本「Tear」です。
その後、本のタイトルを考えるのが面倒で、2,3・・・とつづくわけです。
今、原稿に苦しんでるのは3ですが、微妙に話つながってないような。
この「Tear」は、まだ在庫はどっさり(・・涙)あるのですが、夏コミは人様のスペースに委託なので、新刊あるんだったらそんなにたくさん置けないでしょうし、そしたらイベント売は高石田祭に出すくらいしかないのかなあ・・と
いうわけで、通販で買っていただけたらとこんなところに・・。スミマセン。

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つうわけで、原稿にもどります・・。
しかし、間に合うのか。私・・。

あ、この話の前の方の詩は一応書き下ろしなんです。
が、今気がついたけど、2行ほどだけ銀色夏生さんをパクってるような部分があるかも・・。なんか読んだことのあるフレーズだ・・。(おい)




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