Scrap novel
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2002年03月01日(金) good morning!

「おーい、ヤマト。朝刊どこだぁ?」
日曜の朝。
大あくびをして、父がリビングから息子の部屋に声をかける。
今日もまた日曜というのに出勤だ。
とりあえず新聞くらいは目を通していかないとなと思うのだが、いつもテーブルの上に置かれているそれが見当たらない。
その上、いつもは乱雑に何もかもが散らばってるリビングがきれいに片付けられている。
父は首を傾げると、薄く開いているヤマトの部屋のドアに気づき、そっと中を覗き込んだ。
ヤマトのベッドに、ヤマトのものではないやわらかそうな金のくせっ毛が見える。
(やれやれ、また来てるのか・・・まったく、いつまでたってもお兄ちゃんっ子だな)
笑みを浮かべて、そうっと部屋に入り、ベッドの脇に起こさないように腰掛ける。
ヤマトの姿は部屋の中には見当たらず、朝っぱらから何処に行ったんだか・・と心の中で呟いて、まだ気持ちよさそうに寝息をたてている二男の顔を見つめた。
母譲りのやさしい顔立ち。
まだあどけなさが残る輪郭は、口の減らない生意気盛りの長男に比べて幼くて、そして可愛い。
幼い頃に別れてしまったせいか、なんだかいつまでも赤ちゃんのような気がしてしまう。
そっと起こさないように髪に触れると、くすっとタケルが目を閉じたまま、夢を見ているように微笑んだ。
そして目が醒めないままに、両手を差し伸べ、父の頬に触れる。
「ん・・・おにい・・ちゃ・・ん」
甘く呼んで、ゆっくりと目を開いた瞬間。その瞳はまん丸に見開かれ・・・
「うわあああぁあぁ〜〜〜〜!!」
「タケル!!!!」
ちょうど外から戻って玄関で靴を脱ぎかけていたヤマトは、タケルの悲鳴(?)に慌てて靴も脱がずに自分の部屋のドアを蹴り上げた。
「てめえ! 親父、何してやがる! 俺のタケルに!!」
「ヤマト! おまえ、靴・・・!」
「うるせえ!」
靴を脱ぎつつも怒鳴るヤマトの剣幕に、父は驚いた顔のまま、のんびりと言った。
「いや、俺はだなあ、単にタケルにおはようのキスをしようと・・・」
「んなもんすんなっ! しなくていい! 変態オヤジ!!」
「おまえ、自分の親に向かって変態たぁ・・! ん?」
「なんだよ!」
「おまえ、今“俺のタケル”って」
「お・・! 弟、が抜けただけだ、慌てたから!」
「ふむ。俺の“弟”のタケル・・か。なるほど」
顎に手をあてて考えてみて、一応納得する父に、真っ赤になったヤマトが怒鳴る。「そんなことはいいから、さっさと仕事行けよ、オラ!」
父の背中に回ってその背を押すようにして部屋から追い出し、玄関へと追いやると父の鞄を放り投げる。
それをぱし!とキャッチすると、ヤマトのトゲのある視線に仕方なく“まだ出勤までは時間があるのになァ・・”とブツブツ言いつつも、父は溜息混じりに玄関で靴を揃えた。
「別に、息子にちょっとチュウするぐらい、いいと思うんだがなぁ・・」
「ブッ殺すぞ」
「はいはい。じゃあ、行ってくるな」
「おう」
父が玄関のドアを開ける気配に、ヤマトの部屋からバタバタと慌しい音がして、身体にシーツを巻きつけただけのタケルが慌てて見送りに駆け出してくる。
「あ、あの・・いってらっしゃい」
頬を染めて言うタケルに、ポンポンと頭を叩くようにして父が嬉しそうな顔をする。
「じゃあな。こわ〜いお兄ちゃんには気をつけろよ」
「何!?」
「いやいや。・・・あ、ヤマト」
「なんだ」
「おまえなあ、タケル泊めるんだったら、パジャマくらい貸してやれよ。ハダカで寝かせてたら腹こわすぞ」
「あ・・・・こいつ、暑がりだから・・はは・・そうだな・・」
ひきつった笑みを浮かべて見送るヤマトに、じゃあなと言って父が出て行く。
バタンとドアの閉まる音に、2人揃って“はあ・・”と長い溜息をついた。
「はー、びっくりした・・・」
「ああ、ヤバかった」
「お兄ちゃん、どこ行ってたの?」
「牛乳買いに。おまえ、朝、パンだったら牛乳ないとやだって言うだろ」
「あ、そうか。ありがと・・」
「あ、そうか。じゃねえよ。おまえもおまえだよ! なんで親父とキス・・」
「だって、まちがえたんだもん! 目つぶってたら、お兄ちゃんと同じ気配がしたから・・」
シーツにくるまったままの弟を玄関に置き去りにして、怒ったようにキッチンへと行きかけて、ヤマトがその言葉にピタリと足をとめる。
その背にタケルが追いついて、後ろから腕を回してぎゅっとしがみついた。
「お兄ちゃんと同じ、やさしい気配がしたんだ。僕を包み込んでくれるような・・だから・・ごめんね?」
「いいけど・・」
甘え口調で、しかも背中にしがみついて言われると、許さないはずなんかない。
やさしく微笑んで、背中に顔を埋めているタケルを振り返る。
それから、ちょっと不思議そうな顔をした。
「あれ? 俺、夜中におまえにパジャマ着せたよな?」
「うん。でも、また明け方、お兄ちゃんに剥ぎ取られた」
「あ・・そう、だっけ?」
考えても、どれが何回目のことだったか思い出せない。〈オイ・・〉
とにかく夢中で。
そんなことを思い巡らせていると、またベッドに逆戻りしたい衝動にかられてしまう。
「・・・おい、いつまでもしがみついてると、今度はそのシーツ引っぺがすぞ」
ニヤリと笑みを浮かべて言うと、タケルはヤマトの言葉に自分の身体に巻きついたままのシーツを見下ろし、真顔で答えた。
「あ、お洗濯する?」
「へ?」
「シーツ、洗濯するんでしょ。じゃ、着替えてくるね」
言って、パタパタとヤマトの部屋に戻り、そのドアを後ろ手にパタンと閉じる
ヤマトはその後姿を見つつ、呆然と取り残されて、仕方なく困ったように鼻頭を掻いた。
―― そうか、わかった。そうなんだ・・・。
タケルが天然なのは、あの親父のせいだ。なるほど。
だいたい、あのシチュエーションで、いい加減気がつかないのもおかしい。
普通、変だと思わないか? 
兄貴の、しかもシングルのベッドに弟が全裸で寝てるんだぞ。
っつうことは、今まで俺もその横で寝てたってことじゃん。
つまり、兄弟でハダカで1つのベッドに寝てるんだぞ、少しは疑えよ、なあ!
そんなことを心の中でブツブツと呟きながら、手持ちぶさたになったので、仕方なく朝食の支度にキッチンに向かう。
けれどまあ、そのおかげで今日も平和な朝なのだし、天気もいいし、タケルは可愛いし、しがみついて鳴く声は色っぽいし、などと思いながらフライパンを用意し、冷蔵庫から玉子を出す。
そして、自分もまた父親似で、けっこう遺伝的にエロ親父なんじゃあ・・?ということは、まあ、この際考えないことにして・・。





苦し紛れの再録で〜す。
(更新がなかなかおぼつかず・・)
半年以上前に書いたものですが、変ですね。この家族。
パパがかわいそうだけど、書く分には楽しかったなあv
パパにとっては、タケルはきっといつまでも小さい子のように写るんだろうなあ・・などど思ったものです。パパタケっつうのもなかなかv
2人でお出かけとかもいいなあv 
ヤマト、やきもちやきまくるだろうなあv
(風太)


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