wakaP〜の好物三昧

2004年07月18日(日) アントニオ・ファラオ 「ネキスト・ストーリーズ」

今年、博多ライブを行った際ドラムのHさんが「CD聴いたら絶対気に入るピアニストがいる」と教えてくれたのがアントニオ・ファラオだ。「ネキスト・ストーリーズ」は2001年に発表された彼の5枚目のアルバムである。(イタリアで二枚、実質的なデビューとなったドイツenjaレーベルから三枚発表。)

「最後までイッチャウ、ハンコック」との彼の宣伝文句に乗せられ、東京に戻って早速聴いてみると超ゴキゲン!お奨め通りすっかりファンになってしまった。

彼は1965年ローマ生まれのイタリア人。ジャケット写真を見る限り、中々の伊達男である。御幼少の頃からクラシックの教育を受けていたが、いつのまにやら「ジャズの道へ」という、ヨーロッパの白人ミュージシャンに多い転落の履歴(?・・・笑)を持つらしい。

アルバム冒頭曲はモード奏法が炸裂する「I’m waiting」。チックを髣髴する完璧なテクニックに裏打ちされたフレーズは、最後の一音までぶれなく弾ききる。リズム感もスゴイ。浮遊感のある左の単音に三連超早弾きをかませながら盛り上げていき、最後グッと元のスィングにブレークさせるかっこ良さは鳥肌モノだ。

次曲は美しい8ビート系ラテン曲「Theme For BOND」。イタリア人らしい造型力とメロディの繊細さを秘めたオリジナルで、思わず自分のレパートリーにしたくなる一曲だ。実際、博多のHさんもこの曲をコピーしたそうだ。随所に出て来るピアノとベースのユニゾンフレーズも「癖になる」美味しさ・・・。笑。

三曲目はファンキーなグルーブ感一杯のメディアム曲「CREORE」。ノリノリな曲想にチョッとメランコリックで情緒的なコードワークが気持ちよい。ここでもアドリブが盛り上がるにつれ、二拍三連フレーズによる強力な仕掛けが待っている。聴いていて思わずニヤケルよ!

更にアルバムはいかにもヨーロピアン・ジャズ的なバラード小品「SWEET2」へと続く。この展開から判るように「ネキスト・ストーリーズ」は一曲毎の色合い(=コンセプト)が明快で、飽きさせない。ともすれば、やや個性に欠けるキライがない訳ではないが様々なスタイルを彼流にこなしていく卓越した技術は圧巻であり、「今」を感じさせるサウンドメーキングの「教本」としても素晴らしく役に立つ。

スタンダードも「What Is This Thing Called Love」を収録。いきなりシングルトーンによるアップテンポの緊張感あふれるアドリブでスタートする演奏は、中間部にテーマが出て来るまで曲名を判らせない。空間一杯に音を詰め込みグイグイと引っ張っていく様は、彼の真骨頂と言える。決して煩くなく、実に子気味良く明瞭な粒立ちの音は、開け放たれていて風通しのいいサウンドである。

「やや個性に欠ける」と書いたが、実はここまで気持ちよく弾ききるピアノも余りいないのではないだろうか?お奨めである。


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