江國香織「ウエハースの椅子」。
江國香織はすごい。 電車の中で読んでも、仕事場の机で読んでも、自分の部屋で読んでも、読んでいる間中私の周りは「江國香織の空気」で満たされてしまう。 「江國香織の空気」は、例えるならば薄い青色。 温度はちょっと低め。湿度は適度にあって、ひんやりとしている。 そして、その空気は風となって流れることなく、その場に閉じこめられている。あるいは閉じこもっている。
「ウエハースの椅子」で、印象に残ったのが、 「そしてふいに恐ろしくなる。私は恋人の不在にも耐えなくてはならないし、圧倒的な幸福と共にやってくる、その存在にもまた耐えなくてはならないのだ。」 という一文。 恋人の存在に耐えなくてはならないこと。それはとても恐ろしくて、とても幸福なことだと、はっと気付かされた。 そしていつも耐えなくてはならないのだと。 恋なんてしなければ、絶望はやってこないし、耐えなくてもいいのに。 でも恋をしてしまう。品のないもの。携帯電話と愚痴とゴルフと恋。どれも避けて通れるのに恋だけは避けられない。 主人公は恋人と一緒に閉じこめられている。恋という箱の中に。 そしてずっと絶望している。
せつなくてかなしい小説だ。しかし、とても現実的で本質的な小説だと思う。 みたされたあとに残るものは死だ、と主人公は言う。 しずかで、絶望していて、死と共にある。江國香織の空気はだからいつもひんやりとしていて、いつのまにか私を包み込み、絶望で私をみたす。
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