金色の夢を、ずっと見てる

2008年07月29日(火) ドラマ「おせん」の感想。

さて、昨日の『ドラマ総括』に書ききれなかった「おせん」の感想です。多分かなり長いので、読む方はそのおつもりで……というか、ドラマを好きだった人や、そもそも見てなかったから興味もないという人は、読まない事をお勧めします。



見始めた時のレビューでは
『日本のいい部分を見せてくれる上質なドラマになりそう』
なんて書いてるんですが…途中で原作を読んじゃったのがいけなかったのかなぁ、ひたすらがっかりさせられるドラマになっちゃいました。

1話を見た後に、ネットで原作ファンの人達がすごく怒ってる話を見たんですね。最初は
「原作つきで、ドラマになったらちょっとしたとこが違うのは当たり前だし仕方ない事じゃん」
なんて思ってたんですが、原作ファンのあまりの熱さに
「こんなにもファンに愛されてるって、どんな漫画なんだろう?」
と思って読んでみたんです。そしたら…確かに、原作とドラマではあまりに違いすぎる世界観に、ちょっとやられました。

なんせ試しに1巻だけを買って、読み終わったその足で再び本屋に行って5巻までをまとめて買い、それから1週間経たないうちに現在出てる15巻まで一気に買ってしまったぐらいのはまりようですから(^^;

原作と違う!というのはもう仕方ないと思うんですよ。漫画や小説で原作があって、それをドラマ化して万人にうけるのは無理です。ドラマ化に当たって、原作のいろんなエピソードをつぎはぎして散りばめていくのもよくある事なんですが…そのちりばめ方がどれもこれも中途半端だし、え、それはどうなの!?と思わせる演出が多すぎました。



まず初回で『よっちゃんさん』が、一升庵で包丁の腕を試されるシーン。派手な演出でごまかすんじゃなくて本物の料理人になりたい!と店をやめたはずなのに、いきなりごっついシルバーの指輪つけたままで包丁を握ったのには、この時点ではまだ原作読んでなかったんですがビックリしました。


2話で出てきた味噌作りの話。年に1度の味噌の仕込をしますと言われて
「え〜?」
みたいな嫌そうな顔をする一升庵の面々…という時点でがっかりなんだけど(原作では、店員全員が楽しみにしてる一大イベントという感じなので)ラスト、出て行ったはずの『よっちゃんさん』が戻ってきて
「俺も味噌作りに加えてください!」
って走ってきて……そのまま大豆のたらいに飛び込んだシーンで愕然。

味噌を作るために茹でた大豆を足で踏んで潰すんですが、大豆踏みの準備として(ここは原作に忠実に)まず足をキレイに洗って、卸したての足袋とこのために準備した新品のわらじを履いて…とやってるわけですよ。そこに、砂利の上を走ってきた足でそのまま飛び込む!?


5話の古民家再生の話。見積もりではお得な金額を出しておいて、そこにオプションを積み重ねさせてお金をぼったくり、実際には受注金額の半分程度の予算で下請けの工務店に家を作らせる。余ったお金は、無駄に豪華なパンフレットの制作費や、家作りの事なんて何も知らない口先だけの営業マンの給料になる…そんな“タチの悪い大手住宅メーカー”を糾弾し、古いものを活かして長く受け継がれる本当に良い家を作る大工さんを応援する、そういう話なんです。ドラマのスポンサーにダイワハウスがあるのに大丈夫かと心配しましたが(笑)そこは思ったよりちゃんとやってくれました。

でも、あのラストでは大手住宅会社で一から新築にしようと言い張ってた娘さんに、本当に大工さんの仕事の良さが伝わったのかよく判らない。あと、その住宅会社のやり方を批判するために『スーパーで買ってきたお刺身やお惣菜を豪華な皿に盛り付けて、お惣菜の代金に皿の使用料をオプションとして上乗せして請求する』というパフォーマンスをするのです。原作では、一升庵に普段はない“お品書き”があって、でもそこに金額は書かれてなくて、そこに
「年代物のお皿の使用料や買いに行ってくれた店員の足代、あと無意味に豪華なお品書きの作成料、そういったお金を上乗せしてこの代金です」
と請求して、
「お宅(住宅会社)がやってる事と一緒でしょ?」
と啖呵を切るのに、ドラマではお惣菜の代金がお品書きに書いてあるんですよ。客に何の説明もなく
「お皿の使用料はオプションですから」
と上乗せした金額を請求したら、そりゃ下手したら訴えられますよ?


8話のわらで炊くご飯の話。日常的にわらでご飯を炊いてるお店で、たった1週間やそこらお客さんが立て込んだぐらいでわらがなくなるか?地域のお祭りを盛り上げるためにお神輿を担ぐセミプロ集団に依頼してある…で、その集団がおせんちゃんに
「俺達の神輿に乗ってくれよ」
とチンピラまがいに絡む。そのお神輿が、そりゃ子供用ですか!?と突っ込まずにいられないミニサイズってどうなの(苦笑)

お祭りには、わらで炊いたご飯でおむすびを作って参加者に振舞わうのですが、わらがないとご飯が炊けない。なくなったわらを調達するために、おせんちゃんが神輿に乗る事を交換条件にその“セミプロ集団”に協力してもらったようなんですが、なぜかラストで唐突におせんちゃんとその集団の1人が酒の呑み対決を始め、それでおせんちゃんが勝ったからお神輿には乗らなくていい…対決する前にそんな事一言も言ってなかったですけど?


最終回。まず、200年続いてる老舗料亭の土地が借地!?って事にも驚きましたが……一升庵がある土地を買収しようと工作してくる企業の社長親子を招いて料理を振舞うんです。そこでその子供(小学生)が風呂吹き大根を食べて
「何これ、味がしない」
と持参したケチャップをかけるんですね。しかも大根だけじゃなくてお刺身や焼いた豚肉や他の料理全てに。

小学生がマイケチャップ(笑)を持ち歩いてるってのもどうなんだ?と思いますが、それにビックリしたおせんちゃんに社長である父親が
「うちは共働きでね。家で手の込んだ料理なんて作ってないから、この子も出来合いの惣菜やコンビニ弁当ばかりなんだ。だから素材の味を生かしたような薄味の料理はわからないんだよ」
という主旨の言葉を言うんですよ。



ちょっと待てコラ。


うちも共働きだけど、家のご飯はちゃんと作るよ。て言うか、子供がすべての料理にケチャップかけて食ってたら、それはもう好みがどうとかじゃなくて明らかに味覚障害だろ?親としてそれは放置でいいの!?



原作で拘ってる部分がドラマではないがしろにされてる…という点は数え切れないほどああったんですが、それを抜きにしても、腑に落ちない点がかなりありました。ラストも、買収や再開発の話は結局どうなったのか、一升庵はどうなったのかまったくハッキリしない終わり方。視聴者のご想像にお任せします、というよりは伏線を張るだけ張って結果は丸投げって感じで。


初回から通して『時代』という言葉がキーワードのように何度も出てきてました。昔ながらのやり方は時代遅れだ、一升庵は時代に取り残されてる、時代に合わないものは淘汰される運命だ…と。でも原作では、そんな事はほとんど取り上げられてないんです。

確かに、今の時代はいろいろ便利になってて手軽に済ませられます。でもその中で敢えて、味噌を手作りしたりわらでご飯を炊く。出汁を取るなら煮干の頭とはらわたを取って煮ればいいし、大根だって面取りして強火で煮れば短時間でできるけど、そこを“敢えて”やらないんですよ。取った煮干の頭とはらわたや、面取りしたその大根の切れ端はゴミになるだけ。ゴミにせずに大事に食べてしまうために、面取りはせずに時間をかけて弱火でコトコト煮て(面取りせずに強火で煮ると型崩れする)、煮干の頭とはらわたを取らずに煮るとえぐみや苦味が出るから、水に浸しただけの状態で火にはかけずに一晩置いておいて、その上澄みだけを慎重に取って出汁として使う。

「煮干の頭や腹を取ったり、大根の面取りをするのも大事な“手間”です。でも同じ“手間をかける”のならわっちは『使い切るため』の手間を選ぶでやんす」
という原作のおせんさんの台詞。時代の流れなんて関係なく、ただ『良いと思うもの』を大事にしてるのが一升庵。原作では、それが時代遅れだのなんだのいう考えは一切出てこないんです。

細かいエピソードをつぎはぎして使ったり、ちょっとした部分を変えるだけなら、どんなドラマでもあると思います。でも、原作で一貫して主張され伝えられてる『ものを拵える人のまっすぐな想い』や『手間ひまかけてものを大事にする気持ち』がないがしろにされたから、原作のファンがあんなに怒ってたんじゃないかなぁ、と。


ファンの方には申し訳ないけど、内君がちょっとまずかったなぁ…。原作では『よっちゃんさん』じゃなくて『グリコさん』なんですけど(苗字が江崎だから)、グリコさんは板前さんじゃなくて帳場の人なんです。そしてもっと謙虚で、読者と同じ目線で一升庵やおせんさんのあり方に感動し、馴染んでいく。

ドラマで内君が演じてた『よっちゃんさん』は自信家で、最初から一升庵に対して懐疑的で変革を求める人で……ヒロインであるはずのおせんちゃんも原作とずいぶん違うキャラだったし、話の中心付近にいる人が原作と違いすぎると、やっぱり原作からは大きく離れてしまいます。それがすごく残念。


各回毎のゲスト俳優は結構良かったと思うんです。初回の料理対決の回では片桐はいりさんと、料理学校の校長に松方弘樹さん。2話の味噌作りの回では岡田義徳さん。3話のとろろ飯の回では西村雅彦さん。4話、買収の回では大泉洋ちゃん。5話、古民家再生の回では大工の女棟梁にもたいまさこさん。6話、おせんちゃんの見合い相手に小泉孝太郎さん。7話は一升庵の板前さんがメインの回だったのでゲストはなかったけど、8話のご飯をわらで炊く話の回は六角精児さんと高木ブーさん(笑)。9・10話、本枯節と一升庵の買収の回には夏八木勲さん、加藤雅也さん、内藤剛さん。

一升庵の店員さん達だって、まず主演は蒼井優ちゃんだし、いろいろ騒ぎがあってこれが復帰作だっていう内君だって話題性としてはそこそこあるし、板長に杉本哲太さん、2番板に向井理さん、仲居頭に余貴美子さん、大女将に由紀さおりさん、馴染みの古美術商に渡辺いっけいさん。キャストとしてはそんなに派手じゃなくても、ちゃんと力のある俳優さんが集まってたと思うんですよ。

なのに、なんでドラマの出来がこんなに残念なのか……ぶっちゃけて言ってしまえば、私は脚本が悪かったんだと思います。原作の世界観をきちんと理解したうえでエピソードをつぎはぎしたりちょっとした設定のマイナーチェンジをする分には問題ないんだろうけど、この脚本を書いた人は、原作の『おせん』が発するメッセージをちゃんと受け取ってなかったとしか思えない。


これは、是非いろんな人に原作を読んでもらいたい作品です。ドラマでは伝えきれなかったメッセージがたくさんあります。


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咲良 [MAIL]

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