内容証明郵便発信を一時保留した理由
潮がボートの練習から帰ってくると妻の淑子が内容証明郵便は出さなかったという。娘の志保が言うには被害者である伯母の稔子がこの手紙を出すのを躊躇しているのはそれなりに理由があると思う。善意でしたことが思わぬところで足を引っ張ることになるよと忠告してくれたのでよく考えてみようと思い投函はしなかったと話した。君の身内のことだから君の判断にまかせるということで話しは終わりにしたが、志保のいう足を引っ張ることになるよという意味がよく理解できなかった。
昨夜寝つかれないままに考えたらしい。「やはり内容証明郵便はだすべきだと思う。」と稔子は明け方布団の中で、潮に問わず語りに話し始めた。 「多市、福吉の立場からすれば、財産分与のことしか頭にないから守りの姿勢になっていると思うの。私は自然の感情として母親の葬儀にも出席できないような状況を作り出した上、訃報に接して電話した時、開口一番どんなに騒いでも財産は残っていないよと言った父のその言い方が赦せないのよ。財産分与を少しでも欲しいお姉さんとは立場が違うのよ。そこの所は多市も福吉も判っているから稔子に同情して抵抗している淑子を落とすにはどこが泣きどころかと考えると思うのよ。すると私の一番困ることは娘や孫に迷惑が及ぶことなの。まして志保の夫の義久さんは大学の助教授で今が一番大切なところでしょ。怪文書でもばらまかれたらそのことだけでもう教授の道は閉ざされることになるのよ。そのことだけが心配なの」
この言葉を聞いて昨夜志保が思わぬところで伯母様の足を引っ張ることになるよと言った意味が理解できた。志保は大学関係者に怪文書などをばらまかれることを心配しているのだ。それを婉曲に表現したのではないかと理解した。淑子もそのことは心配している所でそのために思い悩んでいる様子であった。
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