嗚呼!米国駐在員。
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2006年01月05日(木) 従業員のトイレ休憩を監視

フォードはミシガン・トラック工場で、従業員のトイレ休憩を監視することを決めた。トイレ休憩に費やした時間を生産現場の監督者が週単位で集計するという。統計によると、従業員3500人の多くが1シフトで48分以上をトイレ休憩に費やし生産所要時間を長引かせているという判断があったようだ。

「競争の激しい今日の環境で、安全、品質、出荷、コスト、モラルに関わるリスクを避けるため、工場として、この問題を取り上げることは重要」と従業員に説明している。

燃費の悪い大型SUVの販売不振は、ガソリン高騰などの原因も大いにあるはずだが、その責任を押し付けられた作業員はたまったものではない。あの、全米自動車労組が黙っちゃいないだろう。


しかしながら、トイレ休憩の監視というやり方がどうかは別にして、フォードの苛立ちはアメリカで働く日本人からすれば理解出来るのではないだろうか。アメリカ人の勤務中の気長な休憩振りにはストレスを感じる。やたらと言い訳をつけて、タバコを吸ったりトイレに行ったり。それもだらだら、と。メリハリが利いているといえば聞こえがいいが、職場に戻ってきたところでそれまで自分が何をやっていたか忘れてしまうから非効率この上ない。
こちらの自動車工場を見学した事があるのだが、ガンガンに音楽をかけてチップスをつまみながら黒人がノリノリで電気バーナーで部品の取り付けをしていた。そりゃ、走行中に部品も取れるわ。権利権利を振りかざすだけで反省と責任感のない人間には何を言っても無駄だという判断で、フォードは従業員を家畜のように縛り付ける事で効率化を目指そうと思ったのだろう。


だが、そんな事をしても効果はないと思う。


日本の会社員というものは、与えられた仕事は責任を持ってやる、という基本的な仕事に対する姿勢が老若男女問わず全社員に染み付いているが、一方、アメリカでは一部の経営トップと一般従業員の能力と考えか方の差が大きく開きすぎている。

所詮、フォード経営陣の対応は従業員の不満を煽るだけであって、「ああ、一流大学卒のエリートがまたバカな事考えやがって」という程度にしか受け取られないだろう。モラルだとかやる気とかを従業員に求めても、上昇志向を持った本当にごく一部の人間だけがその必要を理解してがむしゃらになるだけであって、その日が楽しけりゃいいや、という大部分の雇われお気楽アメリカ人に取っては、如何にややこしい事に巻き込まれずにその日の定時を迎えるかしか考えてはいない。いや、たちが悪いのは、もしかしたら無駄な時間を使っている事は全く意図的ではなく、ゆっくり時間を取って何が悪いのか、何故いけないのか、を全く自覚していない事なのかもしれない。


こうなればフォードは訴訟される可能性だって大きい。
先日も、ウォルマートが従業員に昼休みを与えなかった、として提訴されて、結局総額1億7200万ドルの損害賠償を払わされることになったばかりだ。まあ、昼休みを与えなかった、ってのも、それだけ聞くとひどい話だと思うが。

日系自動車メーカーはこの手の米人対応をうまくやっているようだ。
過去の日米貿易摩擦の経験を生かし、今では現地従業員の理解を得ながら確実にアメリカでの影響力を高めている。万一、トヨタがフォードのようにトイレ休憩を監視したらどうなるだろうか。アメリカ中でトヨタの集中砲火と非買運動が展開され、政治問題にまで発展する可能性はあると思う。そんなバカな事は、日本車メーカーは絶対にしないだろう。

いずれにしても、効率性に優れた日本車との競争の中で、シェアをじりじり落としているフォードの焦りが感じられる訳で、かなり追い込まれている印象を受ける。こんな事で効率化を図ろうとしている時点で、日本車との競争は勝負あった、のではないか。




Kyosuke