加藤のメモ的日記
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2023年03月21日(火) 一番怖いのは睡眠薬と鎮痛剤

依存症と禁断症状
NHK『クローズアップ現代』では、睡眠不足を訴えていた女性が、常用していた薬の中から、まず睡眠薬をやめることで逆によく眠れるようになり、体調が回復した事例が紹介された。薬の中で最も気を付けるべきが睡眠薬である。効き目が強い分、副作用も強くなりがちだ。しかも、一度服用するとなかなかやめられない。安曇堂病院院長の大谷氏が、高齢者が睡眠薬を常用するリスクを説明する。

「一部の睡眠薬には、ふらつき、幻覚を見る、運動能力が低下するなどの副作用があります。そうした睡眠薬を常用していると、夜中や早朝に、尿意を催してトイレに行った際、睡眠薬の副作用でふらついて五しまう恐れがあります。普段であれば姿勢を立て直したり受け身を取ったりすることができても、薬の副作用で運動能力も低下しているので、とっさの反応ができず、倒れて大けがをするケースがよく見られるのです」

大谷氏が言う一部の睡眠薬とは「ベンゾシアゼビン系」と呼ばれる睡眠薬、具体的にはハルシオンやデパス、レンドルミンなどだ。睡眠薬の中でも即効性があるため、よく眠れるからと常用している高齢者は多い。しかし、筋弛緩作用やせん妄(幻覚)などの副作用があり、転倒の危険性がぐっと高まる。特に、酒を飲んで後に服用すると、副作用の深刻度が増す。

「酒を飲むと、夜中に、目が覚めやすくなります。アルコールによるふらつきもあるので。転倒リスクが格段に上がる。これらの睡眠薬と酒を一緒に飲むことは、絶対にやってはいけません」(大谷氏)転倒でけがをしてしまうと、外に出る機会がぐんと減り、健康を損なってしまう。またそのまま寝たきりになってしまうこともある。睡眠薬はすぐに処方してもらえる一番身近な薬だが、同時に一番怖い薬と呼ばれる所以だ。

医療法人社団副総会フクロウクリニックの等々力理事長の山口氏も、「ベンゾシアゼビン系の睡眠薬は、効き目が強いため、『これがないと眠れない』と依存してしまう。何度も飲み続けるうちに止められなくなってしまうのです。医師が、使う量を減らしたほうがいいですよと言ったり、即効性はないが副作用があまり出ない睡眠薬に変えることを勧めても、『あの薬でなければだめだ』と患者のほうから、求めるようになるのです。また、これらの薬を突然やめると、けいれんを起こしたり、幻覚を見るなどの禁断症状が出ることもあります。こうしたことを考えると、不眠があったとしても、これらの睡眠薬は医師と相談しながら、できるだけ飲まないほうがいいのです」

医療法人社団徳仁会中野病院の薬剤師の青島氏は、どうしても睡眠薬を服用しなければならない場合には、他に飲んでいる薬にも注意が必要だと指摘する。「特にハルシオンには『服用してはいけない薬』『注意すべき薬』が複数あります。例えばイトラコナゾールという水虫などに効く内服薬と併用すると、ハルシオンンの効果が強く出過ぎて日常生活にも支障をきしてしまう恐れがあるため、併用が禁止されています」

歳を取ってくれば睡眠時間は短くなる。高齢者の生理的な睡眠時間は約6時間といわれており、朝4時や5時に目が覚めてしまうのは自然なこと。「長く寝ていないとなんだか不安だ」ぐらいの理由で睡眠薬を使用するのはご法度と肝に銘じておこう。

飲み続けるから怖い

睡眠薬と並んで、高齢者が常用しがちなのが鎮痛剤(痛み止め)だ。腰の痛みや関節の痛み、神経痛を訴える患者に対して、医師は鎮痛剤や鎮痛剤の入った湿布薬などを長期処方してしまう。患者もその効用を実感すると、痛みが出てくるたびに使いたくなるので。なかなか止めることができない。しかし、そこに危険が潜んでいる。

自治医科大学付属埼玉医療センター教授の菅原氏が、鎮痛剤の副作用について説明する。「鎮痛剤や湿布を長く服用し続けると、腎機能が低下したり、消化管出血や胃潰瘍などを起こすおそれがあります。長期服用していたために、腎機能の数値が異常に悪くなった患者さんを診察することがあります」具体的にはロキソニンやボルタレンなどの「非ステロイド抗炎症薬」に注意が必要だ。

身体の中の炎症物質を抑え、痛みや熱を和らげる効果があるが、同時に血管を収縮させる作用もあり、腎臓などに流れ込む血流が減少してしまう。結果、腎機能が低下したり、胃・腸・食道などの消化器官が出血を起こす。腎機能がもともと悪かった場合、一週間程度の使用でも腎不全を起こすケースもあるという。

「腎機能が低下すると、全身に倦怠感が現れますが、怖いのはそれだけではありません。薬の不要な部分を体の外に出す排泄力も低下します。これによって、他に服用している薬の副作用も現れやすくなってしまう。鎮痛剤を長期間使用した結果、向精神薬の効き目が強くなりすぎて意識障害を起こすなど、様々な副作用が現れる危険性があるのです」(菅原氏)

また、副作用を抑えるトラマールなどの「非麻薬性鎮痛剤」には、腎機能の低下リスクはないが、女間にめまいやふらつきなどが起こる可能性があるので、こちらも服用には亜注意が必要だ。痛みを抑えるためには飲んでいる鎮痛剤によって体全体が痛んでいくのは本末転倒である。一般社団法人日本在宅医薬学会理事長で医師の比留間氏は「疾患にもよるが、歳をとったら鎮痛剤は痛みの程度をみつつ適宜調整することが必要」として、こう続ける。

鎮痛剤を使わないで済むならそれに越したことはありませんが、我慢できないほどの痛みがある場合でも、漫然と鎮痛剤を飲むのではなく、飲む回数や飲む量を調整すること。立ち上がる時に痛みが出るという場合、夜は基本、寝ているだけなので鎮痛剤を飲まないようにする。そうした工夫一つでも、薬の量を減らすことができます。また定期的に血液検査を受けて腎臓などの数値に異変が起こっていないかを確認することも忘れてはいけません」

何気なく普段から飲んでいる薬にこそ、大きな危険が潜んでいる。家庭の薬箱に常備するということは、それらの副作用を常備しているのと同じだ。


『週刊現代』11.16


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