加藤のメモ的日記
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2019年06月27日(木) 人工の街試す自動運転

上海市の北西にある嘉定区。地域住民も利用する広い公園の散策路を、ゴルフカートを改造した自動運転車がゆっくり走っていた。運転席にタブレットを持った担当者が乗ってはいるが、ハンドルには一切触らない。カートに内蔵した周囲の状況を解析し、歩行者や停車中の車を巧みにかわしながら進む。後方からは別のカートが一定の距離をとり、自動で追走してきた。

「見た目は単なるゴルフカートだが、自動運転のレベルは日米欧のメーカーが実用化している水準をすでに超えている。試験区で培った技術が詰まっている」。開発した中国のメーカーの関係者は胸を張った。嘉定区は2015年、中国政府から国内初の自動運転区に指定された。世界で最先端とされる実験環境を求め、自動運転を研究する自動車メーカーやIT企業など国内外の約60社が殺到している。

同区の核心部といえるのが、部外者の立ち入りが厳しく制限された2.2平方キロの施設だ。運営する官民の研究組織「上海ICvイノベーションセンター」の季隷副総裁が内部の様子を明かした。「病院、学校、歩行者を模した可動式の人形など、日常の街並みをすべて再現した。ここで自動運転車の性能を徹底的にチェックし安全性が確認されたものだけを公道実験に移す」

施設内の信号機や道路にはセンサーが取り付けられ自動運転車と情報をやり取りしながら地区全体の車の流れをコントロールしている。将来的にはこの仕組みを山手線の内側の1.5倍に相当する100平方キロに広げ、自動運転に最適な「自動運転シティー」を実現する構想だ。季氏は「上海は自動運転の世界的な重要拠点となる」と語る。しかし、壮大な嘉定区の取り組みも「モデルケース」に過ぎない。習近平国家の肝いりで昨年から建設が始まった「雄安地区」では、地区内の車全てを自動運転に切り替える構想が進んでいた。

官民一体で街全体を作り変える勢いで進む中国の技術革新(イノベーション)。次世代産業をリードする新技術「赤いダイヤ」探しにまい進する現場を歩いた。


『毎日新聞』10.19


加藤  |MAIL