加藤のメモ的日記
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2015年08月15日(土) トヨタで日本経済がわかる

契機を左右するのはこの会社。トヨタを見れば日本経済がすべてわかる

「メディアではベアだ、夏のボーナスアップだと騒いでいますが、なんのことはない。ちゃんとベアを実行できたのはトヨタさんと一部の大手下請けだけ。中小企業にも賃上げが広がりつつあるといいますが、真っ赤な嘘ですよ」こう語るのは愛知県で金属加工工場を営んで30年になるトヨタの孫請け会社幹部。3月期決算で日本企業として初めての純利益2攄円をたたき出したトヨタ自動車の絶好調ぶりとは裏腹の沈んだ表情だ。

トヨタは2015年の春闘で4000円のベアを決定。昨年の2700円に続いて2年連続の賃上げとなった。親会社が儲かればその利益は子会社、孫請け会社へとしたたり落ちるはず。このような経済効果を「トリクルダウン」と呼ぶが、前出の、孫請け会社幹部は「そんなものは机上の空論」と言い切る。「豊田や名古屋の街を歩けばわかりますよ。景気がいいのは一部の百貨店だけ。トヨタグループの社員や外国人観光客が買い物に来る高級店は調子がいいようですが、後は閑古鳥です」

アベノミクスがもたらした円安はグローバルにビジネスを展開するトヨタのような製造業大手にとっては大きな追い風になる。だが一方で、輸入する原材料値上がりのダメージを受ける中小企業にとっては向かい風だ。ニッセイ基礎研究所の岡氏が語る。「最高益をたたき出す大手が多い一方で、資本金が1000万円から1億円規模の中小企業は直近の1−3月期で前年比マイナス4.4%減に転じています。中小企業の値上げ交渉力の弱さが響いているのです」

昨年10月にみずほ銀行が出したレポートによれば、対ドルで10円の円安は上場企業に約1.7+6兆円の営業利益をもたらす。ちなみにトヨタの場合、1円円安が進めば400億円の営業利益が見込める。一方で、非上場の中小企業にとって、同様の円安は8000億円ものマイナスをもたらす。日本経済全体で見れば円安はプラスに働くが、大手企業と中小企業の格差は広がる一方なのだ。トヨタのお膝元である愛知県の状況を見れば現在、日本経済に起きている劇的な変化についてよく理解できるだろう。

北見武賃金研究所の北見所長は、2015年4月に愛知県下に本社がある企業50社、3453人を対象に賃上げの状況を調べた。その結果、ベアを実施したのはわずか4社だけで、ほとんどの企業では定期昇給のみだったことがわかった。「ベアを実施したのは、従業員300人の自動車部品製造の会社が300円、同じく自動車関連の金属加工業が1000円前後。他に自動車部品素材や医療機器の卸売業者などでした。トヨタの系列会社は、本社がベアを決めると横並びにベアをしたがるのですが、実際には経常利益がきちんと出ている一部の優良企業しか実施でいていない状況です」

トヨタは下請けに対して毎年、納入品の厳しい値上げ交渉をすることで知られている。日本経済の動向を左右する同社は、安倍政権の意向も受けて、今年は下請けに対して「部品の値上げ要求をしない変わりに、その余剰資金でベアを実施するように」と要求するケースが多く見られたという。しかし、円安という逆風にさらされている中小企業にとって、「まずは納入部品の単価をベースアップしてもらわない限り、一律賃上げなど夢のまた夢」(前出の孫請け会社幹部)というのが現実なのだ。

前出の北見氏が語る「人材不足が懸念される若年層の給与は多少上がりましたが、40〜50代の賃上げは抑えられている。今後調査のサンプルを1万人に増やす予定ですがそうすればメディアで騒がれていたような賃上げの実態など、ほとんど無かったことが明らかになると思います」業績絶好調のトヨタのお膝元がこのありさまでは、とうてい日本全体の景気の回復など望めない。


『週刊現代』8.15


加藤  |MAIL