加藤のメモ的日記
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田園調布誘惑の背景
身代金目的誘拐という言葉が現実ではなく、映画やテレビドラマの中だけのキーワードになってからかなり時間がたつ。それぐらい失敗のリスクの高い犯罪に、まだ手を染める集団がいたこと驚かされた。今月6日、高級住宅街の代名詞ともいうべき東京都田園調布で、中学1年の女子生徒(12)が誘拐され、身代金2000万円を要求された事件のことだ。
「結果オーライというと語弊があるが、事件発生から約3時間後のスピード解決は、多分に偶然の要素が大きい。東京都江戸川区で今年3月に盗まれたナンバープレートをつけた車が走行しているという情報を聞いた警視庁府中署の当直警官3人が検問をしていた国道20号に、もしその車両が通りがからなければどうなっていたか。裏道を抜け、青梅や奥多摩の山中まで逃げ込んでしまえば、防犯カメラのない場所なんていくらでもある。周到な計画がなかったことに助けられたが、一歩間違えれば長期化していた可能性もあった」(捜査関係者)
現代の凶悪事件を捜査する際の最大の武器は、刑事の長年のカンでも靴底をすり減らすような聞き込みでもない。警察ムラで「トレーサビリティー」という英語で形容されることが多い、犯行グループの足取りをたどるための道具であり、その最たるものが防犯カメラといえる。実際、防犯カメラのない広島県と島根県の県境の山奥で、女子大生(19)の遺体が遺棄されていた2009年の事件はいまだに未解決だ。
しかも今回の事件で、逮捕された男たちは、リーダー格とされる埼玉県の運送会社社員、羽田容疑者(43)がインターネットの闇サイトに書き込んだ「仕事しませんか」とのメッセージに呼応し、事件1時間前に初めて顔を合わせていた。地縁や血縁ではないところで結びついたグループを突き止めていく作業は簡単ではない。その意味では、操作が困難を極める可能性は確実に存在した。
だが、実はこの事件を通じて最も強い印象を受けたのは、羽田容疑者の呼びかけに応じて事件直前に誘拐計画に加わった2人が、仕事を求めて約一週間前に沖縄から上京した20代の若者だったことだ。よく知られているように、沖縄県の完全失業率は全国で最も高く、有効求人倍率も全国最下位だ。事件の背後には常に、社会の暗部が顔をのぞかせる。腰を落ち着けて働ける環境が地元にあったならどうだったか。私には仕事に窮する沖縄の叫びが聞こえたような気がした。
『スポーツニッポン』11.23 呉野 一人
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