加藤のメモ的日記
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2013年03月05日(火) ペプチドワクチン開発(下)

日本のがん医療、治験の情報開示必要

がんのワクチン療法で知られるシカゴ大医学部の中村祐輔教授。ワクチン療法について紹介した前回に続き、日本のがん医療の問題点について聞いた。

―日本では、納得できる医療を求めてさまよう「がん難民」と呼ばれる患者がいる。

「国立がん研究センターを筆頭に旧帝大系の病院は、標準治療である外科療法(手術)、放射線療法、化学療法(抗がん剤)に終始している。開発中のペプチドワクチンのような、患者の希望をつなぐ新しい治療法に患者がアクセスできるようにはなっていない。がん難民の切実な思いが、医師に届いていない。その結果、ネット上には、科学的根拠がない、怪しげで高価な民間療法の情報がはびこり、患者や家族を誘いこんでいる」

―米国ではどうか

「国立菅研究所(NCI)のホームページに郵便番号を打ち込むと、近くの病院で行なっている治験の全リストが出てくる。患者は『一定の根拠に基づいているが、まだ確立していない治療法』について、自分でリスクを判断して受け入れる。オバマ大統領は新しい治療法にアクセスできる人を現在の5%から10%に増やすと言っているが、それが医薬品の進歩にもつながっている」

―日本ではどうか

「臨床研究や治験に関する情報が一元的に管理されておらず、患者に必要な情報が届かない。そういう意味では明らかに医療の発展途上国だ」

―2011年1月、内閣官房に設置された医療イノベーション推進室の室長に就任した。

「医薬品の輸入が急増して、当時でも貿易赤字は1兆円を超え去年は1兆6000億円以上になった。とんでもない額だ。薬品の開発現場で海外との差を実感していたので、国の仕組みを変えるつもりで引き受けた」

―ところが、1年で辞任した。

「基礎研究から創薬までに関わる文部科学省や厚生労働省、経済産業省などの役人は、自分の部署に予算をとることしか考えていない。予防医療や高齢化に伴う医療費の増加などの課題にも、急いで対応しなければならないが、役所にも政治家にも危機意識がない。自分の仕事を見出せなかった」

―なぜ日本の医薬品開発が遅れたのか。

「2000年ごろから薬をつくる手法が変わった。抗がん剤の分子標的薬のように、ゲノム(全遺伝情報)解析でがんやウィルスといった標的を見つけ、狙い撃ちする薬をつくるようになった。ところが、日本ではゲノムが医療にとって大事だという認識が薄く、この発想の転換に乗り遅れた。その結果、分子標的薬市場は、欧米の製薬会社に席巻されている」

―ゲノム医療にどう生かされるのか。

「『肺がんだからこの薬』というマニュアル化された医療の時代は終わった。患者ごとにゲノムの解析をして、遺伝子の特徴によって、より効果が高く、副作用が少ない薬を選べるようにする。一人のゲノムを調べるコストが今年中にも10万円を切る。これに向けて、米国の医療機関ではコンピューターのメモリーを増やす準備をしている」

―日本でもゲノム医療が進むのか。

「日本ではいまだにゲノム医療が過小評価されて、研究支援体制が格段に貧弱だ。厚労省や医療イノベーション推進室でゲノムの話をしても、ABCを知らない人に英語を話しているみたいに通じない。悲惨な状況を通り越して、絶望的だ。患者たちが立ち上がらない限り、国に期待しても動かない」



〈治験〉医薬品開発の最終段階で、製薬会社などが国の承認を得るために病院で行なう臨床試験。製薬会社などは服薬量や回数などを厚生労働省に届け出て、専門家らによる委員会の審査を受ける。医師は治験に参加する患者に期待される効果や副作用を説明し、同意を得る必要がある。治験中に発生した重大な副作用は国に報告しなければならず、必要に応じて治験計画が見直される。

〈ゲノム(全遺伝情報)療法〉2003年に人間の全DNA配列の解読が終了し、医療への応用が急速に進んでいる。原因不明だった患者のメカニズムが判明し、病気に関係する遺伝子やタンパク質組成を特定することで、短期間で医療品の開発が可能になったほか、特定の遺伝子を組み込み、がん発生を抑制する遺伝子治療なども研究されている。患者一人一人の遺伝子情報を調べ、より効果が高く、副作用の少ない薬を選べるようになることで、医療費の軽減が期待される。



『東京新聞』3.5


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