加藤のメモ的日記
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2012年11月05日(月) 尖閣は棚上げにしてしまえ

尖閣諸島は‘72年の日中国交正常化合意のときに田中角栄と周恩来の両首脳の間で「棚上げ」の方針が確認されていた。「当時は冷戦下で、中国にとっても旧ソ連が脅威だったから『棚上げ』が可能だったわけです。ところが天安門事件のあとは、中国にカリスマ性を持った指導者がいなくなり、日中関係をコントロールすることができなくなりました。そこで中国側は反ナショナリズムを政権浮揚の手段として使ったわけです。それが先代・江沢民政権のやり方で対抗したのが小泉元首相の反中外交でした。日中双方でナショナリズムに依存する形になってしまい、現在起きているのは、その延長線上にある当然の帰結なんです」(外交評論家・宮家氏)

決定的な衝突を未然に防ぐためにはどうすればいいのか。宮家氏は「引き続き国際社会の中で責任ある役割を果たすように中国に促し、同時に中国が非平和的な動きをした時の抑止力を高めることが必要です。たとえば、尖閣諸島の周辺で衝突を回避するためのルールを作らなければなりません。南シナ海ではASEAN(東南アジア諸国連合)が法的拘束力を持つ『行動規範』を作ろうとしています。それと似たものを日本は中国と作らなければならない。それは米国も加えた多国間で協議すべき重要な課題だと考えています。政治的な問題ではなく、海上での衝突防止、不必要な対立防止のルールを作ればいい」

ただし、領土問題を一気に片付けようとすると、戦争突入の可能性はどこまでも拡大していく。それを避けるため、これまで日中間では尖閣諸島の領有権を曖昧にしたままにしていた経緯があるが、元外務省国際情報局長の孫先氏は、この「棚上げ方式」を続けるべきだととして、こう強調する。

「これは日本に有利なのです。国際的にアメリカは中立の立場を取っていますが、現実には日本の尖閣諸島の実効支配が認められており、それが長く続けは続くほど日本は有利になる。実効支配が長くなれば、それだけで日本の実績になりますから。とくに反日デモがこれだけ激化すると、早く棚上げの方向に持って行かないと、どんどんエスカレートして軍事衝突が起きる可能性もあります。これは絶対に避けないといけない」『中国化する日本』の著者で愛知県立大学の興那教授も国境線は曖昧にしておくべきだと提言する。

「日本もかっての自民党政権下では、ある意味で中国共産党と同様、政権交代の可能性を度外視できたがゆえにそれほど民意を気にせず、領土問題を曖昧にしてこれたわけです。それが自民党一党支配が終わり、中国も民衆の力が強まって、どちらも政治家が民意に対して脆弱になったことが尖閣問題の背景でしょう」同氏はそう指摘した上で、棚上げ論の有用性についてこう述べる。

「領土問題に一義的な決着をつけようとするのは近代ヨーロッパの発想です。東アジアにはもともと主権国家という体制はなかった。今回の反日デモは日本政府が尖閣諸島の国有化に踏み切ったのが発端だった。国民感情として「当然だ」という意見が多い一方で、それだけで尖閣問題が解決するほど国際関係、特に対中外交は単純ではない。「「日本は相手が中国だと視野がせなくなる」と指摘するのは、前出の加藤教授である。

「日中関係は日本だけでは決まらないということです。世界は日本を中心に動いているわけではありません。では、日中関係がどこで決まるかといえば、それはロシアかもしれないし、インドかもしれない。中国は日本を恐れてはいませんが、核ミサイルを持っているロシアやインドが怖い。かって中国はロシアと武力衝突をしたうえで、領土問題を話し合いで解決した歴史があります。また、インドとはいまだに国境問題を引きずったままです。そういった過去を踏まえて、尖閣問題をモスクワやニューデリーで、そして欧米で大々的にしたたかにプロパガンダを行ない、日本の言い分をアピールしていくことが大事なのではないでしょうか。実際、中国は米国の新聞に莫大な広告量を払って『尖閣諸島は中国の領土だ』という広告を載せたぐらいです」

かって日本は年々軍備を強化する米国に脅威を感じ、先制攻撃による逆転に賭けて太平洋戦争に突き進んでいった苦い過去がある。「日本人は妙に潔癖症で、曖昧な状態は永続しないものと決めつけがち。そこで『どうせやるなら今しかない』という発想になるのも、真珠湾攻撃の心理です。しかし実際には台湾のように、主権国家としての位置付けが曖昧なままでさえ、戦略次第で十分自立を保っていけるのが、国際政治のもう一面の真実です。いたずらに『曖昧さをなくせ!』と叫ぶだけでは、それこそ中国の暴徒と同類です」(前出・興那教授)たとえ愚かな隣国であったとしても、辛抱強く、したたかな交渉を続けるしかないのである。



『週刊現代』10.6


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