加藤のメモ的日記
DiaryINDEX|past|will
隠し子に遺産を分けたい
事業で成功すると仕事以外での悩みが増えます。まず証券会社のセールスマンが次々とやってくるようになる。それから、投資を勧める資産運用コンサルタント。アポなしでやってくるうえに、断っても容易に引き下がりません。国内事業への投資を勧められたほか、海外の鉱山開発の出資を持ちかけられたこともあります。また、『CO2の排出権を買わないか』と、環境ビジネスに誘われたこともありました。幸い、出資話でダマされたことはありませんが、邪険にして恨まれるのも嫌なので、断るのに一苦労です」
”金持ちならではの悩み”を明かすのは、東亜機工社長の田淵氏だ。「四国の発明王」とも呼ばれる田淵氏は、個人で約130もの特許を持つ。田淵氏が一代で築いた同社は香川県を本拠に、おむつや生理用品などを製造する機械の開発・製造で発展。最近では竹を原料にした「竹綿」の大量生産機を、世界に先駆けて開発している。田淵氏に持ち込まれるは、怪しげな投資話だけではない。寄付の要請もひっきりなしに来るという。できる限り応えたいとは思うが、それにも限界がある。
田淵氏が続ける「地域の神社などには、役目として相応の寄付はさせていただきますが、全国から来る求めには応じきれませんから、お断りすることもあります。すると『あそこは金を出さない。ケチだ』と吹聴され、不快な思いをさせられます。寄付をしたらしたで、悪くいわれることもある。寄付をして『選挙に出るつもりだろう』と言われた時は心外でした。そんなつもりは全くないのですから……」寄付をしてもしなくても中傷されるという理不尽。だが、大金持ちたちが頭を悩ますのは、外部から持たされる話に限らない。もっとも身近な存在である身内が、悩みのタネになることが多々あるのだという。
「十数年前になりますが、仕事のプレッシャーから魔が差して、愛人を囲ったんです。最初は遊びのつもりでしたが、相手が妊娠して状況が変わった。『産みたい』とせがまれて断り切れずに結局、隠し子をもうけてしまいました。ずっとポケットマネーから養育費を支払ってきましたが、その子も今は高校生。愛人は日陰の身のままで立派にわが子を育ててくれましたし、その子自身も素直ないい子です。それだけに人生の先が見えてきた今、どうにかして彼ら母子にいくばくかの資産を残してやりたいと頭を悩ませているのです」
できるものなら、妻にも息子にも知られない形で、愛人の家庭にも資産を分けてやりたいというのが会長の切なる思いだ。けれども実際にはそれが難しい。「遺言にかいたら家族にバレてしまう。生命保険も、血がつながっているなどの法的な関係を明示しないと、保険金の受取人に指定できない。最近できが生命保険信託を使えば、愛人や隠し子を受取人に指定できますが、相続税の申告の段階で、やはり家族にバレてしまう。相続税の申告は、財産を受け取った者全員の連名で行なうので、愛人や隠し子の存在が、そこで明らかになってしまうのです」
どのような形で愛人に資産を分けるか。まだ結論は出ていない。「正妻と築いてきた家庭も、愛人と密かに営んできた家庭も、私にとっては大切な家族です。できればだれも悲しませたり傷つけたりしない形で、そっとケリをつけたい。もう少し模索してみようと思います」
相続はつまり「争族」である
莫大な遺産を稼いでも。お金は墓場まではもっていけない。愛人や隠し子がいなくても、資産家の悩みで一番多いのは相続の際の遺産分割だ。富裕層の相続税対策を多数行なっている税理士法人チェスター代表税理士の福留氏が語る。「大きな資産があるがゆえに、どう分けるかで揉めるわけです。また相続人が多ければ多い程争いになりやすい。かつ、分けにくい財産をお持ちの方、具体的には非上場企業のオーナーさんとか、地主さんの場合はよく揉めます。とくに地主さんは先祖代々の土地は長男が受け継ぐべきだという考え方が強いので、二男や三男、長女、次女から、『長男だけ財産をいっぱい相続してズルい』と、現金を要求されるケースがよくあります。でも地主さんの多くは、土地はあっても現金は意外と少ない。そこで兄弟間の”骨肉の争い”になるのです。
カネはあるが目的のない人生
千葉県で手広く事業を行なって十数億円の資産を遺したある事業家の一人息子(35歳)のケースがそれだ。「父は生前『もう会社は先がないから俺の代でおしまいにしてくれ』と言っていました。それで、父の死後、遺言どおり会社を処分しました。相続税を支払っても、キャッシュで十数億円の遺産があったので、死ぬまで食べるのに困りません。独身で養うべき家族もないし、働かなくても暮らしていけます。だからこそ、これからどうやって過ごそうかと考えると、暗澹たる気分になるんです」
本人は、贅沢をして遊んで暮らしたいと考えるタイプではないという。情熱を傾けて取り組めるような趣味や目標もない。ただ、金だけは有り余っている。「遺産目当てに寄ってくる人はゴロゴロいるけど、信頼できる人、親身に相談に乗ってくれそうそうな人は見当たりません。親戚といえども心は許せない。父の死後、人間不信まで背負いこんでしまいました。こんなことを言うと嫌味に聞こえるかもしれませんが、やることがなくてお金だけがあるというのは、皆さんが想像する以上に虚しくて苦しいものなのです」
こうした悩みを持つ資産家は少なくない。前出の福留氏がこう話す「若いうちに巨額の資産を相続された方は、不動産の賃貸料や駐車場収入、預貯金の利息などで、毎月すごい額の収入があります お金も時間もあるけど、自分自身は何をしていいのかわからず悩んでいるという方は、実際結構いらっしゃって、そうした方の多くは無職で独身です」寄ってくる人に騙されるのではないかと人間不信に陥る。先祖代々の資産を防衛するためだけに人生を送る人もいる。金を稼ぐのは大変だが、それを守って生きていくのはもっと大変なのだろう。
『週刊現代』9/8
|