加藤のメモ的日記
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2011年08月23日(火) 中国の「35の法則」

浙江省温州市で起きた高速鉄道事故の発生当初に、鉄道省の報道官が『死者35人』と会見で発表し、早々に事故車両を埋めて救助活動を打ち切ろうとした。ただその後、解体寸前の車両から新たに4人の死者が確認されるなど隠されていた事実が次々と発覚し死者の数が35人以上だったことも暴露された。

こうした当局の“隠ぺい体質”を批判する声が『微博』中国版ツィッターに次々と書き込まれるなか、実は過去に中国国内で起きた事故時に発表された死者数が『35人』というケースが異常に多いと投稿された。これにネットユーザーたちが反応『今までずっと35人と誤魔化してきたのか』『この国はタイタニックが沈んでも、死者を35人と発表するだろう』などと大騒ぎになっている。

ネットユーザーの中国人男性(30代)もこう言う。「私もその噂を聞いて中国語サイトで『35人』『事故』などと検索してみたが、次々と関連のサイトや書き込みが出てきた。1990年代初頭から直近までの間で、死者が35人と発表された事故が30以上あったとするリストもネット上で出回っている。当局が情報隠ぺいや情報操作をすることは誰でも知っているが、人命軽視もひどすぎる」

いかにも真夏にふさわしい「怪談」のような話だが、実際に本誌が調べてみると確かに「死者35人」と報道された事故が異常に多いことに驚かされる。例えば1997年に中国南方航空のボーイング737型機が着陸に失敗し、機体が大破した上に炎上した事故では、深玔市当局が35人死亡と発表。2008年に雲南省で起きた大規模な土石流事故が起きた際にも。100万人以上が被災したが、雲南省民政庁発表による死者数は35人だった。

2010年に中国南部を豪雨が襲い、各地で洪水被害が深刻化した時には、10万人規模の人が緊急避難したにもかかわらず国営新聞社が死者35人と発表している。これらの事故は続報が乏しいため、「死者35人」が真実だったかのかは不明。ただ今回の高速鉄道事故でも当局の発表後にネットユーザーなどの指摘を受けるとすぐに死者数40人と”修正”されたように、極めて「疑わしい数字」であることに違いはない。

ブレースクール大学教授の田代英俊氏はこう指摘する。「中国の『3』には『多次または多数』の意味がある。例えば三思而行は『三度考えて行う』ではなく『よく考えて行う』となる。他にも『三舎を避く』(相手から三日分の工程だけ離れるが転じ、相手にへりくだるという意味)、『白髪三千丈』(長年の憂いが募り白髪が長くのびる)こと。心配が重なることの例え)など『たくさん』の意味で『3』が使われる例はいくつもある。中国で重大な事故や災害の死亡者数は、たいていの場合で35.『たくさん』を意味する『3』を10倍して5を足したくらい『とてもたくさん』の人々が死亡したという意味で使っているにすぎない。中国当局が南京事件での日本軍による虐殺者数を『30万』、日中戦争の中国側死傷者数を『3500万』としているのも同じ感覚からだと思います」

ちなみに今回の事故では共産党幹部が処分されているが、その数も3人である。”たくさん”の幹部を更迭したとアピールしているつもりかもしれないが、こんな思惑もあるという。「鉄道省は汚職問題でトップが更迭されたばかりだから、中央指導部としては責任を押し付けやすい。鉄道省も自分たちは責任逃れをしたいため事故現場を管轄する上海鉄道局の共産党書記、局長、副局長を更迭することでガス抜きが図れる。

こうして事態が沈静化してきた頃に真相解明を取り繕った簡単な報告書を発表し、幕引きしようとしているのです。真剣に事故の実態を分析すれば、責任者が何人更迭されるかわかりませんからね」(元外交官)翻って日本では「安全神話」をばらまいて原発を推進し、いざ事故が起こると巧みに”データ隠し”をしながら放射能を拡散させている。「35の法則」をめぐる一連の騒動を「対岸の笑い話」とやり過ごせないのがいかにも情けない。


『週刊現代』


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