加藤のメモ的日記
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| 2011年06月20日(月) |
外務官僚の素顔 (36) |
大使館員は外交特権を利用して免税で高級車を安く買い、しばらくしてモスクワのアフリカや中東の外交官に売って大量のルーブルを作る。ソ連では車は貴重品だったここから、中古車でも買値以上の値段で売ることができた しかし、ルーブルはドル、クローネ、円などの外貨に交換できない。そこで、売却代金はルーブル委員会に集められ、闇ルートによって取引され、クローネに代えられる。
大使館員の給料はクローネで支給されていた関係で、全員ストックホルムの銀行に口座を持っていた。そして、ルーブル委員会の手を経て、このストックホルムの口座に車の売却代金がクローネで振り込まれる、というわけだ。こうした不正蓄財に手を染めていたのが、旧ソ連時代にモスクワに在勤していた西田恒夫外務審議官である。
「ルーブル委員会」のカラクリをもう少し詳しく記していくが、最大の問題点は、そこに集められた金が、元を正すと旧ソ連時代の秘密警「KGB(国家保安委員会)」の資金だったということだ。このルーブルには二つの流れがある。第一の流れはKGBがモスクワでばらまくルーブルである。旧ソ連時代、KGBは友好国であるアフリカや中近東の外交官に資金援助するため、秘密裏に工作資金から大量のルーブルを渡していた。当時、ルーブルは厳重に国家管理されていたため、金の受け渡しは基本的には外交特権があるモスクワの日本大使館で行っていたのである。
第二の流れは、KGBが外資を入手するために西側で調達する闇ルーブルである。その舞台となったのが、ウィーンにあるシュテファン寺院の横にある銀行である。この銀行では、ルーブル以外に旧東ドイツのマルクも扱っていた。ここで売られていたルーブルは市価の4分の1から5分の1だったので、アフリカや中東の外交今はここで安いルーブルに換えて外交行嚢に入れ、外交特権を使ってモスクワに密輸する。
この安いルーブルを使ってモスクワで車を買い、その車を西側に持ち出して売り飛ばして利益を懐に入れるという手口である。このときモスクワで車を売っていたのが日本の外交官である。日本の大使館は、アフリカの外交官に免税で安く買った車を売ることでルーブルを手に入れるわけだが、この時のレートは公定レートのおよそ2分の1から3分の1.アフリカの外交官より儲けは少ないが、外交官同士の取引なら不正がバレないだろうという安心感でやっていたようだ。
従って、モスクワ大使館では二重の蓄財をしているといえる。一つは、本来は公定レートで買わなければ外為法違反に問われるところを、外交特権を使って安いレートのルーブルをかっていること。日本の本省には公定レートで申請をしているので、差額が丸々利益になる。もう一つの蓄財は、車の売買による差益である。こうして日本の大使館の金庫に積み上げられたルーブルは、日本の外交官が闇ルートで購入する。
そして、その支払いにはA6判の「トランスファー用紙」という特別の書類にルーブル相当額のクローネの数字を入れ、外交行嚢に入れてスウェーデンに送られ、スウェーデンの銀行で決済されるというカラクリである。しかし、もともとの出所はKGBの工作資金である。しかも、問題はKGBが日本の大使館に自分たちの金が流れていることをつかんでいた、ということである。
私が行った聞き取り調査によれば、日本の外交官はKGBに尻尾を握られ、泳がされていたということになる。そして、その秘密を握られた外交官が現在、最前線で北方領土交渉にあたっている。だからこの「ルーブル委員会」問題は、現在も深刻なのだ。
権力の奥深くで
権力には、必ず闇の部分がある。外務省はもちろんのこと、検察・司法、そしてこの国の政権の中枢には、「闇権力」と呼ぶべきものが存在するのである。そして、その「闇権力の執行人」たちが国家を恣意的に動かし、多くの場合、国益を傷つけているのである。政治学の視点からいって、「闇権力の執行人」を抱える「政治のリスク」は日本だけの問題ではない。世界のあるゆる国家がこのリスクを抱えている。多国籍企業、マフィア、ファナティックな宗教団体が「闇権力」を形成している国は少なからずある。
政治家ならば、「闇権力」を執行し、国益を損なったという烙印を押されれば、選挙の洗礼を受けて表舞台から引きずりおろされる。しかし、今日本を支配している「闇権力の執行人」は、決して責任を問われることはない。そこでは官僚が大きな役割を果たしている。日本の社会が抱えるさまざまな問題の本質は、この一点に尽きるといっても過言ではないだろう。
『闇権力の執行人』
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