加藤のメモ的日記
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2011年05月11日(水) 石油の200万倍

原子炉の炉心の温度は、通常300度C前後になる。燃料が核分裂を起こして高熱を発生させるのだが、福島第一原発の事故では冷却水の水位が下がり、2000度C以上に達したと推定されている。そのため炉心が損傷して、核燃料そのものが溶融するに至った。

それだけのエネルギーを生み出す核燃料は、極めて小さな物質の集合体である。ペレットと呼ばれる直径、高さともに1センチ程度の、濃縮されたウラン粉末を、円柱状に成型して焼き固めたもので、原子力燃料の最小単位といえる。

ペレットに含まれるウランは、同じ量の石油の約200万倍のエネルギーを作ることができる。日本で多く稼働している沸騰水型原子炉の場合、1個のペレットで一般家庭の約8カ月分の電力を賄うことができる。このペレットが約400個収められたものが核燃料棒だ。沸騰水型原子炉では、炉の出力にもよるが、数万本の核燃料棒が装填されている。福島第一原発1号機には、約900万戸、2号機には約1200万個ののペレットが炉心にある。

すさまジイエネルギーの塊を扱う原子炉だが、運転が開始された当初は核燃料棒の破損事故がよく起こり、何度も炉が停止していた。工学博士の舘野淳氏は語る「ペレットが変形して、核燃料棒を破損させてしまっていたのです。その後、改良が進みましたが、まだ課題が残っています。通常では問題がないのですが、今回のように燃料棒が冷却水の水面より上に露出して1200度C以上の高温になると、状況が変わります。炉心に発生した水蒸気と燃料棒が反応して、大量の水蒸気が生み出され、大爆発に繋がることがあるのです」核燃料棒は、大きなエネルギーと危険が共存した物質なのだ。

核燃料棒が引き起こす事故は水素爆発だけではない。最も怖いのがメルトダウン(全炉心溶融)だ。メルトダウンは、炉心の冷却水が足りなくなった結果、核燃料棒が高熱で破損する「炉心損傷」から始まる。温度が上がり続ければ、ペレットが溶けだす「燃料ペレット溶融」へと進み、最終的に核燃料棒がすべて溶け落ちる「メルトダウン」に至る。工藤氏が語る。

「炉心損傷では、燃料棒に封じ込められていた放射性ヨウ素などが放出されます。ペレットは2600度Cを超えると溶けだし、どろどろの状態になって、原子炉圧力容器の底に落ちます。この状態がメルトダウンです。その時、ある程度まとまった量が落ちて、圧力容器の下に溜まっている水に触れると、水が水蒸気に変わることで一気に原子炉内の圧力が高くなり、水蒸気爆発が起こる可能性がある」

最悪の場合、大爆発が起こり、頑丈な圧力容器も原子炉格納容器も吹き飛ばしてしまうのだ。過去、重大なメルトダウン事故は世界に3例あった。‘69年のリュサン原子炉事故(スイス)、‘79年のスリーマイル島原発事故(アメリカ)そして‘86年のチェルノブイリ原発事故だ。舘野氏が指摘する。

「冷却水が流れ出てしまう空焚き事故が進行すると、炉心溶融に至ります。国内では、関西電力の美浜発電所(福井県)で起きた2つの事故が最も危険だったと思う。‘91年に、2号機で蒸気発生器の伝熱細管が破損し、冷却材を一時喪失する事故が発生しました。‘04年には、3号機の配管が破断し、蒸気漏れ事故で5人が死亡した。どちらも、もし緊急炉心冷却装置が作動しなければ、メルトダウンを招きかねない重大な事態だったのです」メルトダウンは、特別な事故ではなく、いつ何時にも起こる危険がある。


『週刊現代』5/7


加藤  |MAIL