加藤のメモ的日記
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2010年09月17日(金) 悪態をつく患者

歯医者にとって患者は今やお客様です。だからご機嫌を損ねないように治療するなど、細心の注意を払わなければなりません。これが歯医者の数が少なくて、待合室に行列ができたような時代なら、「痛いだなんだと、文句を言うな。嫌なら診ててやらないから他へ行け。自分が悪いんだから我慢しなさい」なんて強いことを言った歯医者もいたんです。

大学の教授に聞いた話ですが、それほど昔は歯医者は威張っていたそうです。雑な歯医者に電気エンジンで誤って歯ぐきを切られ、口の中が血だらけになったくらいでは患者は文句を言えない。そんなことはよくあることで、ある歯医者の治療がひどいので患者が文句を言ったら、突然、治療の手を止めて一言、「次の患者を入れてくれ」と言い、他のユニットに行ってしまったそうです。

それっきり戻らないので、さすがに患者も腹を立ててそのまま帰った。とはいうものの、削ったところには何も詰められていないので、ズキズキと痛みが続く。他に移ろうと思っても、歯医者は隣の市にしかない。その患者は仕方なくお詫びの品を持って誤りに行き、治療を続けてもらったとか。うらやましい話です。想像もできない。実際今はうるさい患者が多いんです。歯医者が余っていることを知っているし、歯科治療についても知っているんです。

「お金払ってるんだから、もっと痛くないように上手にやってよ」などと大声でわめく人が時々いるんです。おばさんで、しかも自由診療の患者です。知識を持つのは悪いことではありませんけど、やりにくい。ただ自分の歯について知らなさすぎる、というのも問題です。ちょっと気になる歯があるのでいつごろ治したのか聞いても答えられないんです。自分の歯が何本あるかってことすら知らない。

そうした患者は文句を言うことが少ないから楽ですけど、知識がなくて根掘り葉掘り聞く人は治療にもうるさい。都内のビルで開業している友人の話ですが、そのビルには弁護士事務所がたくさん入っていて、その関係者の患者が多いそうですが、やはりうるさいらしいです。それもなかなか治療に入れない。どういう治療をするのか、保険と自由診療ではどう違うのかなど、しつこく聞いてきて嫌になるって言います。

それでも貴重な患者、お客様ですから怒りを我慢して説明。やっと治療に入れたのはいいが、今度は仕上がりにケチをつける。”光沢が悪い”なんて文句を言うそうです。噛み合わせが悪いと言うならわかりますが、光沢がどうのこうのと言われたって、材質で決まってしまうようなもので、どうすることもできない、保険だからこれが限界と説明しても「それだから歯医者はダメなんだ」なんて悪態ついて帰っていくそうです。

建設現場で働いている患者で、虫歯にレンジを充填する治療をしたんです。それが2日で取れたと言うので、怒鳴りこんで来たんです。「おい!金払ってるのに2日で取れるとはどいうことだ」確かに詰め物が2日で取れてしまったんでは、こちらとしても、多少の弱みはあります。しかしレンジの場合は歯と密着するから、そうすぐには取れないはずなんです。

だから、「治療はちゃんとしています。しかし保険ではそれほど精巧なものがつくれないので。患者さんの歯の質によっては、短期間で取れてしまうこともあるんです。そのことは治療前にご説明したはずです」そう弁解しても聞く耳を持たず、診察室に入りこんで「とにかく腕が悪いんだよ、おめえは」なんて怒鳴るので、他の患者もいますから迷惑極まりない。

「ここで大きな声を出されると、他の患者さんのご迷惑になります。よろしかったら診療時間が終わったらゆっくりご説明しますから、待っていただけますか」「うるせえ。俺はとにかく、どうしてくれるんだってことを聞きてんだ」「分かりました。それでは今診ますので、診察台におかけください」「バカいえ、俺は用事がある。今日はお前に文句を言いに来ただけだ」

そうまで言われたら、私だって我慢の限界です。「分かりました。もう治療はしません。これまでの治療代はお返ししますから、他の歯医者さんで治療してください」私は助手にカルテで治療代を確認させ、その金額を自分の財布から出して男に返してやりました。「気をつけろい、バカ野郎」なんて捨て台詞を残して男は出ていきましたが、思いっきり殴り飛ばしてやりたい衝動を抑えるのが大変でした。



『私は悪い歯医者』






加藤  |MAIL